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番外編
相談相手
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『ひとりぼっちになった僕は新しい家族に愛と幸せを教えてもらいました』で昇の相談相手に将臣が選ばれることについて、昇の話が将臣に伝わるまで、卓→元春(秀吾の父)→秀吾→将臣を辿っただろうという感想をいただいたので書いてみました。
時系列ではフランスで弓弦たちが結婚式を挙げた翌年の秋のお話。仕事の都合上、まだフランス移住はしていない設定です。楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side秀吾>
ー秀吾、ちょっといいか?
お父さんからは頻繁にメッセージが入ってくる。それはお母さんと何をしたとか、何を食べたとか。たわいもないことも多い。そして、決まって今度は将臣くんも一緒に出かけようという誘い文句で終わる。
僕はそれを見るのが楽しみでもあった。けれど、電話は珍しい。僕はともかくお父さんは忙しいから電話をかけることもかかってくることも少ないけれど、今日は珍しく電話があったと思ったら、少し真剣な声が聞こえてドキッとしてしまう。
ー何かあったんですか?
ー将臣くんはいるか? 電話をかけたんだが取らなかったからお前にかけたんだ。
ー将臣に用事ですか? 今日はまだ帰ってきてないですよ。仕事中だから取らなかったと思いますが、何か急用ですか?
お父さんと将臣は同じ警察庁勤めだけれど、だからと言って頻繁に会えるわけではない。一週間で一度も会わないことだってざらだ。
ーいや。そういうことじゃない。磯山先生から連絡が来たんだ。
ーえっ? 磯山先生が、お父さんに? なんですか?
ー実は、磯山先生の甥御さんの相談相手になってほしいそうなんだよ。
ー将臣が、磯山先生の甥御さんの相談相手、ですか? それって進路とかそういうことですか? 確か、甥御さんは高校生でしたよね?
以前磯山先生の事務所で会った時は、法学部に行って緑川教授の講義を受けて、磯山先生のような弁護士になるのが夢だと話をしていたけれど、もしかして警察官僚になりたいと思い始めたのだろうか? まぁ、進路を変えるなんてことよくある話だし。夢が変わっても不思議じゃない。
ーいや、進路のことじゃないんだ。その、お前に話していい内容かちょっと迷うんだが……
いつになく歯切れの悪いお父さんの様子に僕もどうしていいか困っていると、ちょうど玄関が開く音が聞こえた。
ーあ、お父さん。将臣、今帰ってきましたよ。
ーおお、そうか。じゃあ、後ででいいから掛け直してくれるように言ってくれ。
ーわかりました。
このまま変わっても良かったんだけど、きっと着替えの時間を考慮してくれたんだろう。急いで電話を切り、将臣の元に向かうとすでにリビングに入ってこようとするところだった。
「ごめん、将臣。出迎えできなくて……」
「いや、電話で話しているような声が聞こえてたから気にしないでいいよ。それより電話の相手ってお義父さん? どうした? 何かあったのか?」
「うーん、それがよくわからなくて……」
「わからない? どういうことだ?」
「僕に話していい内容かわからないとか言ってて、結局詳しい話は聞けなかったんだけど、将臣に磯山先生の甥御さんの相談相手になって欲しいって言ってたよ」
「磯山先生の甥御さんって、昇くんだったっけ? 確か高校生だったな」
「うん。でも進路の話じゃないみたい」
「そうか、わかった。着替えたらお義父さんに掛け直してみるよ。その前に……」
「あっ、おかえり。将臣……んんっ……」
お迎えのキスはお約束。ぎゅっと抱きしめられると、ほのかに汗の匂いがする。その匂いに包まれると身体の奥が疼いてしまう。ああ、今日の夜もきっと将臣に抱かれるんだろうな。それがとても嬉しい。
着替えを終えて、僕が作っておいた夕食を温めている間に将臣がお父さんに電話をかけていた。
――ああ、なるほど。そういうことですか。
なんて話し声が聞こえてくる。一体どんな相談なんだろう? 気になる。
夕食の準備が終わるのと将臣の電話が終わるのはほぼ同時だった。
「ごめんな、秀吾だけにやらせて」
「ううん。大丈夫。じゃあ食べようか」
「ああ、美味しそうだな」
今日の夕食はハンバーグ。将臣の好きなチーズ入りだ。それを一口頬張って嬉しそうな笑顔を見せた。
「今日のハンバーグも最高だな」
「良かった。それでお父さんの話はなんだったの?」
「あー、うん」
途端に表情が曇る。
「何か言えないこと?」
「いや、そうじゃないんだけど、実はさ……」
将臣もお父さん同様に言いにくそうにしながらも、隠し事はしないと決めている僕たちだから話の内容を教えてくれた。
最近磯山先生が事件がらみで中学生の男の子を預かるようになったこと。
ほぼ同じタイミングで磯山先生の弟さんの海外赴任が決まり、昇くんだけが日本に残ることになり磯山先生の家で一緒に生活をするようになったこと。
昇くんがその中学生の男の子に好意を抱いていて、相手も同じように思ってくれているけれど相手はまだ中学生。恋愛の知識も何も知らない。そんな彼と四六時中いて、どうしても興奮してしまう時があるらしい。その対処法を将臣に聞きたいということだったようだ。
「でもどうして将臣に?」
「それはそうだろう? 俺はずっと秀吾のそばで可愛い姿を見ながら必死に欲望と戦ってたんだからな」
「そ、そんなに?」
「そんなにだよ。だから、俺にはその昇くんの気持ちがよくわかるよ。しかも俺たちと違って相手は中学生だからな。高校生の欲望を抑え込むのは相当な忍耐が必要だよ」
「将臣もそんなに我慢してたんだ……」
「まぁ、俺の場合は赤ちゃんの時からの耐性があるからそこまでじゃなかったけど中学生くらいで出会ってたら大変だっだだろうな。秀吾、無自覚に煽ってきてたからな」
「そんなことっ……」
「ないとは言い切れないだろう? でも、俺はそれも含めて楽しい思い出だからいいと思ってるよ。きっと昇くんもそれが懐かしいと思える日が来るはずだよ」
そう言い切る将臣はとても幸せそうな目をしていた。
すぐにでも昇くんと会う時間を作ろうとしていた将臣だったけれど、なかなかうまく時間が取れずにどうしようかと言っていたところで、ものすごく偶然に意外な場所で昇くんと出会ったらしい。そこで少し話をして連絡先も交換したと教えてくれた。
その後の昇くんとその彼の様子が気になって、緑川教授の部屋に片付けのお手伝いに行った時にでも尋ねてみようと思っていたけれど、ここしばらくはずっとリモートでのオンライン授業にしているそうで、片付けの手伝い要請がなくなって話を聞けずにいる。
直接会いに行こうかなと思っていた矢先、緑川教授からメッセージが届いた。
片付けのお手伝いの要請がようやく来たかと喜びながらメッセージを開くと、
<私が作ったおにぎりだよ!! 卓さんが美味しいと言ってくれたんだ!!>
と喜びに満ちた内容が写真付きで送られていた。
「えっ……緑川教授が、料理を??」
あまりにもびっくりしすぎて、しばらくスマホを見つめたまま動けなかった。
時系列ではフランスで弓弦たちが結婚式を挙げた翌年の秋のお話。仕事の都合上、まだフランス移住はしていない設定です。楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
<side秀吾>
ー秀吾、ちょっといいか?
お父さんからは頻繁にメッセージが入ってくる。それはお母さんと何をしたとか、何を食べたとか。たわいもないことも多い。そして、決まって今度は将臣くんも一緒に出かけようという誘い文句で終わる。
僕はそれを見るのが楽しみでもあった。けれど、電話は珍しい。僕はともかくお父さんは忙しいから電話をかけることもかかってくることも少ないけれど、今日は珍しく電話があったと思ったら、少し真剣な声が聞こえてドキッとしてしまう。
ー何かあったんですか?
ー将臣くんはいるか? 電話をかけたんだが取らなかったからお前にかけたんだ。
ー将臣に用事ですか? 今日はまだ帰ってきてないですよ。仕事中だから取らなかったと思いますが、何か急用ですか?
お父さんと将臣は同じ警察庁勤めだけれど、だからと言って頻繁に会えるわけではない。一週間で一度も会わないことだってざらだ。
ーいや。そういうことじゃない。磯山先生から連絡が来たんだ。
ーえっ? 磯山先生が、お父さんに? なんですか?
ー実は、磯山先生の甥御さんの相談相手になってほしいそうなんだよ。
ー将臣が、磯山先生の甥御さんの相談相手、ですか? それって進路とかそういうことですか? 確か、甥御さんは高校生でしたよね?
以前磯山先生の事務所で会った時は、法学部に行って緑川教授の講義を受けて、磯山先生のような弁護士になるのが夢だと話をしていたけれど、もしかして警察官僚になりたいと思い始めたのだろうか? まぁ、進路を変えるなんてことよくある話だし。夢が変わっても不思議じゃない。
ーいや、進路のことじゃないんだ。その、お前に話していい内容かちょっと迷うんだが……
いつになく歯切れの悪いお父さんの様子に僕もどうしていいか困っていると、ちょうど玄関が開く音が聞こえた。
ーあ、お父さん。将臣、今帰ってきましたよ。
ーおお、そうか。じゃあ、後ででいいから掛け直してくれるように言ってくれ。
ーわかりました。
このまま変わっても良かったんだけど、きっと着替えの時間を考慮してくれたんだろう。急いで電話を切り、将臣の元に向かうとすでにリビングに入ってこようとするところだった。
「ごめん、将臣。出迎えできなくて……」
「いや、電話で話しているような声が聞こえてたから気にしないでいいよ。それより電話の相手ってお義父さん? どうした? 何かあったのか?」
「うーん、それがよくわからなくて……」
「わからない? どういうことだ?」
「僕に話していい内容かわからないとか言ってて、結局詳しい話は聞けなかったんだけど、将臣に磯山先生の甥御さんの相談相手になって欲しいって言ってたよ」
「磯山先生の甥御さんって、昇くんだったっけ? 確か高校生だったな」
「うん。でも進路の話じゃないみたい」
「そうか、わかった。着替えたらお義父さんに掛け直してみるよ。その前に……」
「あっ、おかえり。将臣……んんっ……」
お迎えのキスはお約束。ぎゅっと抱きしめられると、ほのかに汗の匂いがする。その匂いに包まれると身体の奥が疼いてしまう。ああ、今日の夜もきっと将臣に抱かれるんだろうな。それがとても嬉しい。
着替えを終えて、僕が作っておいた夕食を温めている間に将臣がお父さんに電話をかけていた。
――ああ、なるほど。そういうことですか。
なんて話し声が聞こえてくる。一体どんな相談なんだろう? 気になる。
夕食の準備が終わるのと将臣の電話が終わるのはほぼ同時だった。
「ごめんな、秀吾だけにやらせて」
「ううん。大丈夫。じゃあ食べようか」
「ああ、美味しそうだな」
今日の夕食はハンバーグ。将臣の好きなチーズ入りだ。それを一口頬張って嬉しそうな笑顔を見せた。
「今日のハンバーグも最高だな」
「良かった。それでお父さんの話はなんだったの?」
「あー、うん」
途端に表情が曇る。
「何か言えないこと?」
「いや、そうじゃないんだけど、実はさ……」
将臣もお父さん同様に言いにくそうにしながらも、隠し事はしないと決めている僕たちだから話の内容を教えてくれた。
最近磯山先生が事件がらみで中学生の男の子を預かるようになったこと。
ほぼ同じタイミングで磯山先生の弟さんの海外赴任が決まり、昇くんだけが日本に残ることになり磯山先生の家で一緒に生活をするようになったこと。
昇くんがその中学生の男の子に好意を抱いていて、相手も同じように思ってくれているけれど相手はまだ中学生。恋愛の知識も何も知らない。そんな彼と四六時中いて、どうしても興奮してしまう時があるらしい。その対処法を将臣に聞きたいということだったようだ。
「でもどうして将臣に?」
「それはそうだろう? 俺はずっと秀吾のそばで可愛い姿を見ながら必死に欲望と戦ってたんだからな」
「そ、そんなに?」
「そんなにだよ。だから、俺にはその昇くんの気持ちがよくわかるよ。しかも俺たちと違って相手は中学生だからな。高校生の欲望を抑え込むのは相当な忍耐が必要だよ」
「将臣もそんなに我慢してたんだ……」
「まぁ、俺の場合は赤ちゃんの時からの耐性があるからそこまでじゃなかったけど中学生くらいで出会ってたら大変だっだだろうな。秀吾、無自覚に煽ってきてたからな」
「そんなことっ……」
「ないとは言い切れないだろう? でも、俺はそれも含めて楽しい思い出だからいいと思ってるよ。きっと昇くんもそれが懐かしいと思える日が来るはずだよ」
そう言い切る将臣はとても幸せそうな目をしていた。
すぐにでも昇くんと会う時間を作ろうとしていた将臣だったけれど、なかなかうまく時間が取れずにどうしようかと言っていたところで、ものすごく偶然に意外な場所で昇くんと出会ったらしい。そこで少し話をして連絡先も交換したと教えてくれた。
その後の昇くんとその彼の様子が気になって、緑川教授の部屋に片付けのお手伝いに行った時にでも尋ねてみようと思っていたけれど、ここしばらくはずっとリモートでのオンライン授業にしているそうで、片付けの手伝い要請がなくなって話を聞けずにいる。
直接会いに行こうかなと思っていた矢先、緑川教授からメッセージが届いた。
片付けのお手伝いの要請がようやく来たかと喜びながらメッセージを開くと、
<私が作ったおにぎりだよ!! 卓さんが美味しいと言ってくれたんだ!!>
と喜びに満ちた内容が写真付きで送られていた。
「えっ……緑川教授が、料理を??」
あまりにもびっくりしすぎて、しばらくスマホを見つめたまま動けなかった。
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