上 下
16 / 49

理性が試される

しおりを挟む
「尚孝さん、明日は朝からデートに行きましょうか」

「デート! 嬉しいです。どこか行きたいところがありますか?」

「そうですね、この前尚孝さんが観たいと言っていた映画をみて、洋服も買いに行きたいと思っています。途中でどこかでランチをしようと思っていますが、何か食べたいものはありますか?」

「あ、僕はあまりお店に詳しくなくて……唯人さんの好きなお店に連れて行ってください」

「ふふっ。じゃあ、気に入っているお店があるのでそこを予約しておきますね」

一応目星をつけていた店に連絡を入れるとすぐに席を確保してくれた。
これで尚孝さんと楽しいデートができるな。


少し手加減しておいたおかげで今日は尚孝さんも朝から出かけられそうだ。
たっぷりと愛しすぎると色気ただ漏れで変なのが寄ってくることになるからその点は気をつけなければいけない。

映画を見ながらポップコーンが食べたいと話していた尚孝さんに合わせて、朝食も今日は少なめにしておいた。
さりげなくペアだとわかる服に着替えて、今日はデート用のスポーツカーに乗って目的地に出かけた。

セキュリティーのしっかりした高級車専用駐車場に車を止め、映画館に向かう。

尚孝さんが観たいと言っていたのは、演技力に定評のある俳優が揃った洋画ミステリー。
恋愛の要素もミステリーを邪魔しない程度に加えられていて、面白いと評判の作品だ。

チケットは前もって購入してある。
席はこの映画館にだけ設置されているプライベートルーム型のV.I.P席。
フットレスト付きの高級ソファーに二人でゆったりと座って、映画を見ることができる。

「唯人さん、何にしますか?」

「私はアイスコーヒーにします。尚孝さんはカフェラテにしますか?」

「はい。僕が好きなのを覚えていてくれたんですね」

「もちろん。ポップコーンは塩とキャラメルが両方入っているのをシェアして食べましょう」

周りからの視線を感じるが、尚孝さんはあまり気にしてしない様子。
きっとこういう視線をいつも浴びていたんだろう。
これだけ威圧を放っていてもよからぬ視線を浴びせてくる奴がいるのに……。
やっぱり人目の多い場所に尚孝さんを一人で行かせることはやめた方がいいな。

頼んだものをトレイに乗せ、受付を通ると

「ご利用ありがとうございます。お席はあちらの扉からお入りください」

と案内された。

お礼を言って、尚孝さんの手を取ってそちらの扉に向かうと

「あれ? こっちなんですか?」

と不思議そうに尋ねられる。
みんなと違う入り口なことに気づいたのだろう。

「大丈夫ですよ、こっちで合ってます」

安心させて、扉をあけ緩やかなスロープをあがっていくと、広々とした部屋が現れた。

「わぁっ!」

「ふふっ。気に入りましたか?」

「こんなすごい部屋があるなんて思いませんでした」

「尚孝さんとの映画デートを誰にも邪魔されたくなかったのでこの席をとっておいたんです。さぁ、座りましょう」

ソファーに座らせると、その座り心地のよさに嬉しそうな声をあげる。
ああ、本当に私の尚孝さんは可愛い。

ソファーの両サイドには高性能なスピーカーが設置されている。
臨場感たっぷりに映画を楽しむことができるだろう。

やっぱり周りに誰もいないのはありがたい。

「ここなら、個室ですし一花くんも貴船さんとの映画を楽しめそうですね」

「そうですね。私も初めて利用しましたけど、落ち着いた雰囲気で一花さんにも良さそうです。会長に話をしてみましょう」

楽しいことを一花さんとも共有したいと思えるほど、尚孝さんの中で大切な友人になっているのだろうな。

「唯人さん、あーんしてください」

少し一花さんに嫉妬めいた感情を覚えていると、突然尚孝さんにそんな声をかけられる。
びっくりして口を開けると、尚孝さんが甘いキャラメル味のポップコーンを食べさせてくれた。

「ふふっ。美味しいですか?」

「ええ。キャラメル味は初めてですが、尚孝さんが食べさせてくれたから最高に美味しいですよ」

「よかった。実は僕もキャラメル味は初めてなんです……唯人さん、食べさせてください……」

「――っ、ええ。喜んで」

摘んで尚孝さんの口に運ぶと、私の指もろともパクリと咥えてくれる。

「ふふっ。指まで食べちゃいました。でも、すっごく美味しいです」

「くっ――!!」

私の愚かな嫉妬などすぐに霧散させてくれる私の尚孝さんは、無邪気に私の理性を試してくる。
本当に個室にしておいてよかったと心から思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします

槿 資紀
BL
 傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。  自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。  そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。  しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。  さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。  リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。  それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。  リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。  愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。  今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。  いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。  推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。  不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...