恋の織物

四季

文字の大きさ
上 下
6 / 59

龍姫の徴

しおりを挟む


 バロンさんが見習いの服を着た神官に何か小声で話をしたら、その人は頭を下げて早歩きで廊下へ出て行った。私達はしばらく銅像や壁画を見て待った。

「お待たせしました。こちらです」

 さっきの神官ともう一人の神官が私達の所へ来て、お辞儀をしてある部屋へ案内する。部屋は、迷路のような道を通ってやっと着いた。

「失礼します」

 私達が開かれた金の扉の部屋に入ると、その中には部屋いっぱいの神官がいた。私はびっくりして立ち止まる。
 そんな私に「大丈夫」と、バロンが励ましてくれた。私は後ろに付いて来たクレイさんを見ると彼女もにっこり微笑んでくれた。

「神官バロン。そちらにいる女性が、龍姫と言うのだな?」

 私達が入った時に神官達が両側に移った。奥の方から白髪の老人が優しい声で聞いた。

「はい、龍姫様でございます」

 バロンさんはかねて私とタメ口で話すのに今は丁寧語だ。他の人がいる所では尊敬語で話さないといけないと言った。私の存在は尊き人だと言われた時は距離を置かれたような気がして悲しくなった。

「龍姫様、どうぞこちらへ」

 神官が私を呼んだけれど怖くて、バロンさんの腕を力強く握った。

「ミーナ様。あちらで立たれるだけです。何も心配することなんてありません」

 彼から龍姫を認める儀式の説明を何度もされた。龍姫が神殿にある、龍像の前に立つとその龍姫の背中にある模様が、壁に描かれる。
 それが、私が龍姫の徴。たまに背中に刺青をして龍姫を名乗る人がいるらしい。この儀式は神官しか知らない。私は震える体で一歩一歩前に進んだ。
 老人の神官の前に着いた時にお辞儀をする。今はまだ龍姫と証明されていないので、身分は神官長の方が立場が上だ。

「ミーナです。よろしくお願いします」

「はい、ミーナ殿。こちらへ立って」

 私は神官が指差した所へ恐る恐る立った。
 急に体が金の温かい光に包まれる。とても幸せな安心した空間。ずっとそこにいたいと思ったけれど、その光が急に消えた。
 私はぽつりと一人、そこに立っている。私は周りまわりを見たら神官全員が床に躓いてお辞儀をしている。皆私に頭を下げている。バロンさんもクレイさんも、神官長も。

「ど、どうして」

 私は理由を知っていたけれど、たずねる。

「お待ちしておりました。どうぞ、しもべが頭を上げる話すことをお許し下さい」

 神官長がかしこまった声で返答する。

「し、しもべ? あ、あの。立ってください。私、お辞儀をされるような人じゃないの」

 目から涙が出てくる。それでも、神官長以外はお辞儀をしたまま。

「皆の者、立ち上がるのじゃ。この龍姫様は、皆にお辞儀をされて泣いておられる。ふぁあふぁ。今回の龍姫様はなんと優しい人なんじゃろうな。そして泣き虫じゃあ」

 神官長が胸元から布を出して私に渡す。私は涙を拭いた。神官長がにっこり笑いかけ周りの神官達も、にこにこして笑っている。

「あのー、失礼します。神官長」

 ある一人の神官が言った。

「どうして龍は龍玉を三つも持っているのですか? 今までの龍画は龍玉が一つしか持っていなかったはずです」

 発言を聞いた神官達がザワめく。私もその龍画を見るために壁に近づいた。私が進む道はすぐに開かれる。実は私はまだ自分の模様を見たことがない。自分の背中なんて見れない。水色の銀色の龍が三つの玉を持っている綺麗な絵。私はこの龍を知っている。

「こ、こんなことがあるのか? 龍玉が三つ。龍騎士が三人誕生するのか!?」

 神官長が叫ぶと周りがザワめき始める。

「龍姫様が三人の伴侶を持つのですか?」

 誰かが叫んだら、「そうじゃ」と、神官長が言うとさらに騒ぎ声が大きくなる。

「落ち着け。龍姫様がおられるのじゃよ!」

 周りが神官長の声で静まり返った。

ーー私は三人の人と結婚するの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...