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第1章:夢の始まり
第23話:涙の行方
しおりを挟む「こ、これで俺の知ってる情報は全部だ……」
酒精依存症は全てを吐いた。知りうる限り全ての情報を。
「そんじゃ……もうお前は用済みだ」
カイルは跪くアルカホリックの目の前に立ち、銃口を向けていた。
そして『用済み』と判断すると、ライフルを回転させ柄でアルカホリックの顔面を打ち抜いた——
ライフルの柄がアルカホリックの頬を振り抜き、アルカホリックは後方に吹き飛んだ。
自身の『トラウマ』と向き合い、そして乗り越えた。
土や草木の焦げた匂いや火薬の匂い。それらの不確定な要素がカイルの『トラウマ』を引き起こした。
しかし、カイルの心に長年住み着いた地獄を橘 舞流が優しく、そして甘やかに洗い流した。
カイルが抱えていた『トラウマ』は決してカイル一人で乗り越えたものではなく、舞流と海流2人で乗り越えたのであった。
戦闘を終えたカイルは深く息を吐いた。その表情は哀しくもどこか安堵した表情であった。
そしてカイルは、今も心に残る言葉に耳を傾けた。
『なぁ天使さん、俺と友達になってくれよ』
生まれて初めて出会った男から貰った言葉が胸に響く。
カイルは少し微笑み、そして……その思い出にそっと蓋をする。
大切な、かけがえのない思い出に——
舞流を迎えに半壊している建物へと足を向けるカイル。
建物の曲がり角に差し掛かった時だった—— 曲がろうとしたその時、舞流とばったり出くわしたのであった。
「わ!! びっくりしたー!!」
驚き後ずさる舞流の手には落ちていた大きな『石』が握られていた。
「……お前、もしかしてその石で戦おうとしてたのか?」
「そ、そうよ。私だって戦えるんだからね」
恐怖に苛まれながらも気丈に戦う事を選択した舞流を見て、カイルは呆気にとられていた。そして——
「ははは、やっぱりお前は変わり者だよ」
「なによ『変わり者』って! 馬鹿にしてるでしょ!」
カイルの言葉に対しムスッとした表情になる舞流。
そしてしばしの沈黙後、舞流と海流は2人して笑い合った。
—————————————————————
トラックの荷台に揺れ、1人泣きじゃくるドロシーの姿があった。
涙はとどまる事を知らぬように流れ、目は赤く腫れ上がっている。
「うぅ、カズ君……ごめん、ごめんね……私だけ…….私はッッ、何にもできなかった……」
一守に守られ、生かされ、自分の無力感を今までにない程痛感し、絶望の淵に落とされたドロシー。
「い……いつも口だけ……私は何もできない。私は弱い、誰かを助けたいなんて……私は馬鹿だ」
ドロシーの嘆きが風に舞う。
痛みがドロシーの心を締め付ける。
悲しみや苦しみ、無力感と絶望。
そして——罪悪感。
その幾多の負の感情達がドロシーを蝕み、飲み込んでいった。
「……私の中に『想像能力』があるなら……助けてよ、カズ君を助けてよ!!」
ドロシーの悲痛な叫びは虚しく空に散った。
「…………何もかも人頼り。こんな自分が……大嫌い」
自己嫌悪地に陥り、今にもトラックの荷台から身を投げてしまいそうな程に憔悴しきっているドロシー。
「ドロシーちゃん!! 掴まって!」
不意に後方から響いた『声』に振り向くドロシー。
すると、後方には250ccバイクに乗った夏祭 陣と太郎丸がトラックのすぐ横まで来ていた。
——差し伸べられたこの手を、掴む権利があるのだろうか——
不意に自嘲的な思考がドロシーの脳裏を過る。
しかし、それと同時に『ある言葉』がドロシーの脳内に響く——
『強く生きろ——』
流れる涙が宙を舞う。
一守の言葉が、勇姿が、生き様がドロシーの心に強く焼き付いて離れない。
過ごした日々は短いが、それ程までに二階堂 一守という男の鮮烈な生き様はドロシーの人生に多大な影響を与えた。
そして——最後まで戦い抜いた一守の意思を尊重するべく、ドロシーは決意を改める。
「…………生きないと」
ドロシーは伸ばされた手を掴んだ。
「ドロシーちゃん! もう大丈夫っすよ! 心配ないっす!」
「うぅ……カズ君が……」
陣の胸の中で悲しみを爆発させ泣きじゃくるドロシー。
そんなドロシーを安心させるよう左手で抱きしめる陣。
「二階堂さん……クソ、早く舞流さん達と合流しないと……」
陣は青ざめた表情で最悪のケースを想像する。
そして不安を振り切るようにアクセルを回し街を離れた。
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