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第七章 陥穽
12 吸血 ※
しおりを挟む俺の中に踏み込む前。怜二はそうっと、とびきり優しいキスをくれた。
大事で大事でたまらない、宝物に触れるみたいに。
それから、めちゃくちゃ甘い声で耳に囁かれた。
「怖い……? 勇太」
「ううん」
本当は、ちょっと怖い。だってこんなの初めてだし。ってかそもそも童貞だし。
俺のそこだって、もともとこういうことをするためにはできてねえだろうし……とか、色々考えちゃうし。
(でも──)
俺のそこ、その奥は、もう欲しがってひくひくしている。その場所はもう、怜二を待って待ちきれなくて「早くしろ、バカ」ってさっきから俺にせっつきまくっている。
すぐそこにある、怜二の真っ赤に燃える目。それは真っ赤になっているだけじゃなく、明らかに人間のものとは違う、縦に細長い虹彩を浮かべていた。
俺はその瞳をまっすぐに見てにっこり笑った。
「……いいから来いよ。怜二」
そう言って、ぐいと怜二の首を抱き寄せた。
怜二の目が一瞬、ハッとしたように見開かれる。にこっと微笑んだ口元に、俺はたぶん初めて、きらりと光る牙を見た。
◆
「息を詰めないで、勇太。できるだけ力を抜いていてね」
「う、……ん」
ぬぷりと入って来たものが思っていたより大きくて、それに硬くて、俺は必死で目の前の枕を抱きしめていた。怜二はあのあと「最初はこっちの方が楽だから」って、俺の身体をひっくり返し、腰の下にも枕を入れて、背後から抱きしめてきたんだ。
「まだ……? 入ってね……の? 全部」
息が苦しくてしょうがない。言ってることが全部舌足らずになる。
「うん、ごめん。もうちょっとだから」
そう言っている怜二の声も、ちょっとだけ苦しそうだ。怜二がゆっくりまた腰を進めると、俺の中にぐぐっと入って来たのがわかった。
「うあ……っ」
怜二のものが、俺の中を押しのけるみたいにして入ってくる。
やがてとうとう、みちっと怜二の腰が俺の尻に当たったのが分かった。
「はい……った……?」
「ん……」
怜二はしばらく、そのままじっとしていてくれた。俺の身体に、怜二のものが馴染むのを待っていたんだ。
なんか、まだ変な感じ。だってその……そこは、本来出すべき場所だから。そっちの感覚がむくりと起こって、体がついつい、勝手に怜二を締め出してしまいそうになるし。
「あ……んっ」
「そろそろ、いい? 動いて」
「ん……」
怜二の身体がゆっくりと前後し始める。本当に丁寧で優しい動きだ。そこはやっぱり、余裕があるからなんだろうな、なんてふと思う。ヤリたい盛りのガキだったら、とてもこうはいかねえだろう。そこはさすが、千年の年の功だ。
怜二がゆるゆると、俺の中で動いてる。
時々ちょっと角度を変えて、先端があの場所をこすっていく。
「んあ……っ! ふあう……んっ」
そこから真っすぐ俺自身の先端まで、快感が突き抜ける。
そのたび、俺は変な声で啼くしかなかった。
ほんと変。俺の声じゃねえみてえ。
だって変に蕩けてるし、甘いし。
「ああ……可愛いよ。最高、勇太……!」
怜二、嬉しそうだ。この体勢だと顔が見えねえけど、きっとすんごく嬉しそうに笑ってる。そういう時の声だもん。
「声、可愛いよ。素敵だ。ずっと想像していたのより、何万倍も。……もっと啼いて? ねえ……勇太」
そうしてだんだん、怜二の腰の動きは早くなっていく。
ずちゅずちゅと、やらしい水音が耳いっぱいになる。
俺のそこが、怜二ので擦られてどんどん熱くなる。
「はあっあ……! あん、あんっ……ああんっ、やはっ、れい、じ……!」
狙ったようにそこを責められて、また俺の中心がビンビンになりだした。先っぽにどんどん熱が溜まっていく。
心臓の音と自分の呼吸音で、もうほとんど何も聞こえなくなっていく。
「だめっ、あ、あ……だめ! でるうっ、れい──」
「だぁめ。ちょっと我慢して」
「あううっ!」
途端、ぎゅっと根元を握られて我慢させられた。腰の中で欲望が荒れ狂い、俺は悲鳴を上げた。
「いやらあっ! や、やだ、れいじ……」
周囲のシーツを掴んでじたばた暴れる。
「もうちょっと我慢。イッちゃうと、後ろがつらくなるからね。少し我慢して、一緒にイこう。……ね? 勇太」
「あう、ああ……んっ!」
怜二の腰の動きがもっと速くなって、俺はもう何も考えられなくなった。
いや、その前に、俺は前から決めていたことをなんとか頼んだ。
怜二に言おうって、決めていたから。
このとき、この絶頂の瞬間に。
──『咬んで。俺を咬んで……! 怜二』って。
怜二はびっくりしたみたいだった。一瞬動きを止め、「でも、勇太」って言いかけるのを俺は首を振って黙らせて、同じことを何度も頼んだ。
あとはもう、なんにもわからなくなっていった。
口はずっと開きっぱなしで、変な声で意味のわからない言葉を悲鳴みたいに叫び散らして。涙が勝手にいっぱい出て。
怜二の抽挿がさらに激しさを増し、脳がぐずぐずに溶けていく。
もう何もできない。何も考えられなかった。
最後にやっと根元を解放して貰えた瞬間。
腰の欲望が怜二のそれと一緒に、爆発するみたいに噴き出した。
脳が真っ白になる。
それと同時に、ちりっと首の脇に痛みが走った。
とても甘い痛みだった。
なんて甘さ。
そして、なんて甘美な痛み。
怜二が俺の望みをわかってくれたんだ。
だから俺は、胸と頭いっぱいの恍惚の中で笑った。
「れい、じ……。おいしい?」
なあ。
美味しい?
俺のいちばんの、とびっきりおいしい時の血。
「ああ……素晴らしい。ほんとに言葉にできないよ──でも、勇太」
うっとりとした怜二の声が耳に流し込まれてきた。
そこにまた、キスを落とされる。
『それ以上、僕を煽らないで。……お願いだから』
そう聞こえたのが最後だった。
俺はいっぱいの満足感に浸りながら、そのままあっさりと意識を手放した。
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