血と渇望のルフラン

るなかふぇ

文字の大きさ
上 下
69 / 96
第七章 陥穽

9 新月と満月

しおりを挟む

 いきなり返事に詰まった。
 なんか急に、色々とこっずかしくなってきたんだ。
 つまりそれは、あれだな? 「抱く方か、抱かれる方か」ってことだよな?
 そっち方面はぜんぜん詳しくないけど、俺もまるっきり知識がないってわけじゃない。高校の時なんかに面白半分にクラスメイトの男子連中があれこれ言ってたのを思い出す。
 オカマがどうの、ホモやゲイがどうの、タチだのネコだのっていう、よくある下品な興味本位のガキっぽい野郎同士の話題。ああいうのってガキな男子の仲間意識強化のために不可欠なもんだろうけど、俺はあんまり好きじゃなかった。
 もちろん、俺や凌牙や怜二がそういう会話に混ざったことは一度もない。怜二はさらりと話題を変える天才だし、凌牙も「つまんねーこと言ってねえで、サッカーしようぜ、サッカー」とか言って、先に運動場に飛び出ていくしでさ。
 そのおかげもあって、俺も今までそんな話題に混ざる必要がなかった。けど、同じ教室の中で話す内容はどうしたって聞こえてくるもんだし。

「勇太がどっちをやりたいかに合わせるよ。僕はどっちもできるからさ」
「へ? そうなの?」
 まあね、なんて言いながら、怜二は例の「キラキラ王子様」の笑顔を見せた。こういう時にその笑顔、ちょっとずるい。
「というか、千年以上も生きてるわけだから。人種も性別も年齢も問わず、色んな人間の相手をしてきたんだし」
「そーなんか!」
 びっくりして思わず大声を出してしまってから、俺は後悔した。怜二がふっと寂しそうな目になったから。
「そうだよ。……幻滅した?」
「あ、いや。そんなんしねえよ。ごめん……」

 相手っていうかまあ、最後は相手を喰っちまったわけだろうけどな。それはこいつらにとって捕食活動の一環なだけであって、セックスそのものは目的じゃないわけだし。
 わかっちゃいたけどこいつ、要するにそっち方面でも百戦錬磨っていうやつなんだろうな。
 あーあ、なんか悔しい。初心者、悔しい。今さら言ってもしょうがねえけど。
 とかなんとか思ううちにも、怜二の手はするすると俺の服を脱がせている。
 どうでもいいけど、めっちゃ手際よくねえか?

「で、どっち? シャワーの内容が変わってくるから、先に決めておいたほうがいいよ。勇太はどっちがしてみたいの、僕と」
「んー。ええっと……あー、うー……よく、わかんねえ……ッス」
 言いながら俺はどんどん俯いて、言葉の最後なんてもう消え入りそうになる。
「そ。じゃあ、僕がリードした方がいいね、やっぱり」

 にっこり笑ってそう言うと、怜二は俺の手を取って立たせ、寝室の隣についているシャワールームへ連れて行った。





「ぎゃあ! 何すんだバカ! やめっ、こらあ!」
「暴れるんじゃないの。じっとしてればすぐに終わるよ」
「って無理! むりむりむり! そんなとこ触んな、ひぎゃあ!」

 そう。
 その後はなんていうか、めちゃくちゃにすったもんだがあった。
 そして十五分後。俺は怜二のベッドに膝を抱えて座りこんでいた。
 なんかもう、なにもかも吸い尽くされてカスカスの抜けがらになった気分で。
 一応、白いバスローブだけは着せられている。その下は完全にマッパ。俺はバスローブの上から、かけ布団をグルグル巻きにして丸まっている。
 と、ざっとシャワーを浴びた怜二が颯爽と現れた。腰にバスタオルだけ巻いた姿なのに「颯爽と」って形容が似合うの、おかしくね? でも、そうとしか表現できねえのがめっちゃ悔しい。
 文字通り「水もしたたる」なんとやら、だ。
 くっそう。色気の鬼かよ。この色気垂れ流しヴァンピールが!

「大丈夫? 勇太……」

 怜二が心配そうに近づいてくる。俺はぷいっと横を向いた。
 大丈夫かどうか、俺の姿を見てから訊けよ。

「そんなに下唇を突き出さないでよ。勇太、ほんと昔から変わらないよね」
「そんっ……突き出してねえっ!」

 言葉とは反対に、思わず口元を手で隠してしまった。さらにもぞもぞと布団の中にもぐりこんで、顔が見られないようにする。

(くっそう……。舐めてた)

 まさかあんなとこ、あんな風に洗わなきゃならないなんて。
 そりゃ怜二は「ただ洗ってるだけなんだから、じっとしてて」って言ったけどさ。確かにそれだけなんだけどさ。
 いや、あれはそんなもんじゃないって!
 絶対、なんかが搾取されてるって。なんか、めっちゃ大事なもんが! 
 だってそうでなきゃ、今の俺がこんなにカスカスになってんのおかしいじゃん!

 執拗に穴を広げてくる怜二の指が、なんかめちゃめちゃエロい気がするし。なんか、体の奥の変なとこに指が当たって、腰にビリッて電気が走ったみたいになるしさ。思わず変な声が出そうになったし!
 ベッドが少し沈んだのがわかる。怜二が俺の脇に座ったようだ。
 困ったような声がした。

「……そんなにイヤだった? もう、今夜はやめておく?」
「やだ」

 蓑虫ミノムシ状態のまま即答する。
 そうだ。その選択肢だけはない。
 だって、明日は新月だ。
 シルヴェストルは、ちゃんとその日を選んで俺に「来い」と言ってきた。
 凌牙たちウェアウルフには、ひと月のうち二日間だけ使にならない日がある。もちろん、新月と満月の夜だ。
 新月は分かる。あいつらがウェアウルフとしての能力をいっさい使えなくなる日だからな。

『実はもうひとつの満月も、わりいがあんまり使い物になんねーのよ』。

 これは凌牙の台詞だ。
 満月を見てしまうと、かれらは能力が倍増する。でもその代わり、理性的な判断力が恐ろしく削がれてしまう。力は半端なくすごいけど、敵と味方の区別もできなくなり、誰かれ構わず襲い掛かってしまうわけだ。
 それで間違って人間を襲ってしまったりしたら大変だ。それはそれで、確かに使い物にはなんないよな。
 だから、チャンスは今夜だけ。

「ぜってぇやだ。……ぜってえ、する」
「そう」
 怜二の声が柔らかくなった。
「じゃ、機嫌を直して出てきてよ」

 布団の上からそうっと背中のあたりを撫でられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

総受けなんか、なりたくない!!

はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。 イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…? どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが 今ここに!!

プロデューサーの勃起した乳首が気になって打ち合わせに集中できない件~試される俺らの理性~【LINE形式】

あぐたまんづめ
BL
4人の人気アイドル『JEWEL』はプロデューサーのケンちゃんに恋してる。だけどケンちゃんは童貞で鈍感なので4人のアプローチに全く気づかない。思春期の女子のように恋心を隠していた4人だったが、ある日そんな関係が崩れる事件が。それはメンバーの一人のLINEから始まった。 【登場人物】 ★研磨…29歳。通称ケンちゃん。JEWELのプロデューサー兼マネージャー。自分よりJEWELを最優先に考える。仕事一筋だったので恋愛にかなり疎い。童貞。 ★ハリー…20歳。JEWELの天然担当。容姿端麗で売れっ子モデル。外人で日本語を勉強中。思ったことは直球で言う。 ★柘榴(ざくろ)…19歳。JEWELのまとめ役。しっかり者で大人びているが、メンバーの最年少。文武両道な大学生。ケンちゃんとは義兄弟。けっこう甘えたがりで寂しがり屋。役者としての才能を開花させていく。 ★琥珀(こはく)…22歳。JEWELのチャラ男。ヤクザの息子。女たらしでホストをしていた。ダンスが一番得意。 ★紫水(しすい)…25歳。JEWELのお色気担当。歩く18禁。天才子役として名をはせていたが、色々とやらかして転落人生に。その後はゲイ向けAVのネコ役として活躍していた。爽やかだが腹黒い。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

処理中です...