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第七章 陥穽
9 新月と満月
しおりを挟むいきなり返事に詰まった。
なんか急に、色々とこっ恥ずかしくなってきたんだ。
つまりそれは、あれだな? 「抱く方か、抱かれる方か」ってことだよな?
そっち方面はぜんぜん詳しくないけど、俺もまるっきり知識がないってわけじゃない。高校の時なんかに面白半分にクラスメイトの男子連中があれこれ言ってたのを思い出す。
オカマがどうの、ホモやゲイがどうの、タチだのネコだのっていう、よくある下品な興味本位のガキっぽい野郎同士の話題。ああいうのってガキな男子の仲間意識強化のために不可欠なもんだろうけど、俺はあんまり好きじゃなかった。
もちろん、俺や凌牙や怜二がそういう会話に混ざったことは一度もない。怜二はさらりと話題を変える天才だし、凌牙も「つまんねーこと言ってねえで、サッカーしようぜ、サッカー」とか言って、先に運動場に飛び出ていくしでさ。
そのおかげもあって、俺も今までそんな話題に混ざる必要がなかった。けど、同じ教室の中で話す内容はどうしたって聞こえてくるもんだし。
「勇太がどっちをやりたいかに合わせるよ。僕はどっちもできるからさ」
「へ? そうなの?」
まあね、なんて言いながら、怜二は例の「キラキラ王子様」の笑顔を見せた。こういう時にその笑顔、ちょっとずるい。
「というか、千年以上も生きてるわけだから。人種も性別も年齢も問わず、色んな人間の相手をしてきたんだし」
「そーなんか!」
びっくりして思わず大声を出してしまってから、俺は後悔した。怜二がふっと寂しそうな目になったから。
「そうだよ。……幻滅した?」
「あ、いや。そんなんしねえよ。ごめん……」
相手っていうかまあ、最後は相手を喰っちまったわけだろうけどな。それはこいつらにとって捕食活動の一環なだけであって、セックスそのものは目的じゃないわけだし。
わかっちゃいたけどこいつ、要するにそっち方面でも百戦錬磨っていうやつなんだろうな。
あーあ、なんか悔しい。初心者、悔しい。今さら言ってもしょうがねえけど。
とかなんとか思ううちにも、怜二の手はするすると俺の服を脱がせている。
どうでもいいけど、めっちゃ手際よくねえか?
「で、どっち? シャワーの内容が変わってくるから、先に決めておいたほうがいいよ。勇太はどっちがしてみたいの、僕と」
「んー。ええっと……あー、うー……よく、わかんねえ……ッス」
言いながら俺はどんどん俯いて、言葉の最後なんてもう消え入りそうになる。
「そ。じゃあ、僕がリードした方がいいね、やっぱり」
にっこり笑ってそう言うと、怜二は俺の手を取って立たせ、寝室の隣についているシャワールームへ連れて行った。
◆
「ぎゃあ! 何すんだバカ! やめっ、こらあ!」
「暴れるんじゃないの。じっとしてればすぐに終わるよ」
「って無理! むりむりむり! そんなとこ触んな、ひぎゃあ!」
そう。
その後はなんていうか、めちゃくちゃにすったもんだがあった。
そして十五分後。俺は怜二のベッドに膝を抱えて座りこんでいた。
なんかもう、なにもかも吸い尽くされてカスカスの抜けがらになった気分で。
一応、白いバスローブだけは着せられている。その下は完全にマッパ。俺はバスローブの上から、かけ布団をグルグル巻きにして丸まっている。
と、ざっとシャワーを浴びた怜二が颯爽と現れた。腰にバスタオルだけ巻いた姿なのに「颯爽と」って形容が似合うの、おかしくね? でも、そうとしか表現できねえのがめっちゃ悔しい。
文字通り「水もしたたる」なんとやら、だ。
くっそう。色気の鬼かよ。この色気垂れ流しヴァンピールが!
「大丈夫? 勇太……」
怜二が心配そうに近づいてくる。俺はぷいっと横を向いた。
大丈夫かどうか、俺の姿を見てから訊けよ。
「そんなに下唇を突き出さないでよ。勇太、ほんと昔から変わらないよね」
「そんっ……突き出してねえっ!」
言葉とは反対に、思わず口元を手で隠してしまった。さらにもぞもぞと布団の中にもぐりこんで、顔が見られないようにする。
(くっそう……。舐めてた)
まさかあんなとこ、あんな風に洗わなきゃならないなんて。
そりゃ怜二は「ただ洗ってるだけなんだから、じっとしてて」って言ったけどさ。確かにそれだけなんだけどさ。
いや、あれはそんなもんじゃないって!
絶対、なんかが搾取されてるって。なんか、めっちゃ大事なもんが!
だってそうでなきゃ、今の俺がこんなにカスカスになってんのおかしいじゃん!
執拗に穴を広げてくる怜二の指が、なんかめちゃめちゃエロい気がするし。なんか、体の奥の変なとこに指が当たって、腰にビリッて電気が走ったみたいになるしさ。思わず変な声が出そうになったし!
ベッドが少し沈んだのがわかる。怜二が俺の脇に座ったようだ。
困ったような声がした。
「……そんなにイヤだった? もう、今夜はやめておく?」
「やだ」
蓑虫状態のまま即答する。
そうだ。その選択肢だけはない。
だって、明日は新月だ。
シルヴェストルは、ちゃんとその日を選んで俺に「来い」と言ってきた。
凌牙たちウェアウルフには、ひと月のうち二日間だけ使い物にならない日がある。もちろん、新月と満月の夜だ。
新月は分かる。あいつらがウェアウルフとしての能力をいっさい使えなくなる日だからな。
『実はもうひとつの満月も、悪いがあんまり使い物になんねーのよ』。
これは凌牙の台詞だ。
満月を見てしまうと、かれらは能力が倍増する。でもその代わり、理性的な判断力が恐ろしく削がれてしまう。力は半端なくすごいけど、敵と味方の区別もできなくなり、誰かれ構わず襲い掛かってしまうわけだ。
それで間違って人間を襲ってしまったりしたら大変だ。それはそれで、確かに使い物にはなんないよな。
だから、チャンスは今夜だけ。
「ぜってぇやだ。……ぜってえ、する」
「そう」
怜二の声が柔らかくなった。
「じゃ、機嫌を直して出てきてよ」
布団の上からそうっと背中のあたりを撫でられた。
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