血と渇望のルフラン

るなかふぇ

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第六章 罠

2 ゆづきちゃん

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「というか、勇太。連絡なんてしないよね?」
 にやにやしながらスマホを見つめて車に戻った途端、冷たい声で怜二が言った。
「は? ゆづきちゃんに? ええっと……うん。別に今んとこ、連絡する理由もねえし──」
「どアホ。ってか、危ねえだろうが。あの子が普通の人間だとしても、今度はこっちの件に巻き込む可能性が大いにあんだ。人質にでも取られたらどーすんだよ。しばらくは距離を置け。いや永遠に距離を置け」
「永遠にって、凌牙。むちゃくちゃ言うな、お前も」
「人間の女に鼻の下なんかのばしやがって、許さねえ。何が『ゆづきちゃ~ん』だ、鳥肌がたったわ。こンのすっとこどっこいが!」
 この野郎。そっちが本音か。って「すっとこどっこい」っていうのは何だ!
「珍しく意見が合ったな。僕もまったくの同意見だよ」
「えええ? 怜二まで何いってんだ!」
「いいから。さっさと帰るよ、勇太。もちろん僕の邸へね」
「え? 今日も泊まるの?」
「そうだよ。ご両親にはすでに連絡済み。なにか文句ある?」
「……う」

 ギロッと睨まれて、黙り込む。
 つまり、アレだな。「話があります」ってことだよな? こいつ、実は結構怒ってたみたいだ。目の底にごまかしようのない怒りの炎がちらついてるのがはっきりわかる。
 ということで、俺はそれ以上ふたりに抗議するのは諦めた。

 怜二の邸で風呂に入り、自分にあてがわれた寝室に戻った俺は、クロエが俺のスマホの上で「きゅうきゅう」いいながら跳びはねているのに気が付いた。
 見れば、スマホに連絡が入っている。

《渡海さん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。もしよかったら、また会ってもらえますか?》──。

 それは、俺が生まれて初めて女の子から受け取った、個人的なメッセージだった。
 




 さて。
 結論から言うと、そこから数日は何もなかった。
 驚くべきか、ゆづきちゃんから一日に一回、俺のスマホに連絡が入ったぐらいで。
 いや、でもこれはすごいですよ。驚きですよ! これまでの人生で一回も女の子とつきあったこともねえ野郎にしてみたら、快挙中の快挙ですよ!
 怜二と凌牙にはそのことはわざわざ言わなかったんだけど、やっぱり俺の顔がだいぶ緩んでいたのか、ふたりには全部お見通しだった。そしてもちろん、「絶対にふたりきりでは会うな」って、恐ろしい顔で約束もさせられた。

 シルヴェストルについては、ふたりはまだ全然安心はしてなかったけど、少しずつ俺の護衛を減らす方向で動いている。俺は自分の家へ戻り、その周囲を怜二と凌駕の仲間たちが護衛する形になった。
 最近になって俺に近づいて来た人間として、当然ゆづきちゃんのことは警戒してたけど、調べてみても特におかしな部分はないそうだ。本当にいいとこのお嬢さんだし、おじいさんが海外での事業も持ってて、親戚が何人か海外在住だったりするけど、そんなのはまあそんな家なら普通のことだし。
 ともかくも。
 そんな感じで、俺は次第に普通の大学生活を取り戻しつつあった。

(やっぱりもう、あいつはあれで滅んだんじゃないか……?)

 そんな気持ちが、日を追うごとに強くなっていく。いつもどおり大学に行って、バイトがある日にはバイトして。怜二と凌牙のどちらかが常にそばにいるのはいつものことだし、少しずつ、少しずつ油断していたかもしれなかった。
 なにより、俺には普通以上に浮かれてしまう大きな理由も存在していた。
 もちろん、ゆづきちゃんだ。

 別に、まだ単なる「友だち」でしかない。なかったけど、自分に好意を持ってくれてる可愛い女の子が、たったひとりとはいえ本当に地球上に存在してるっていう、その事実だけで俺はよかった。たったそれだけのことでもう舞い上がっちまうもん、俺なんか。
 ただ、ゆづきちゃんの両親は厳しい人で、男との付き合いなんて絶対に認めないってことらしかった。良家の子女にはありがちなことだけど、親のお眼鏡にかなった相手としか、お付き合いは許されない。両家公認となってようやく、おつきあいやらお見合いやらが許される。そういう家らしいんだよな。なんかもう、ドラマみてえ。
 だからもちろん、ゆづきちゃんはあんまり自由に外を出歩くこともできない。普段は大学と家とを運転手つきの車で往復するだけだ。この間の合コンだって、たまたま親が仕事の会合かなにかで夜までいない日を狙って、やっとこっそりと出かけてきたってことらしかった。く、苦労してんなあ……。
 そういえば、神林さんと出会ったっていうバイトも、短期の巫女さんのバイトだったらしいし。固いバイトでないと、絶対に両親が許してくれないんだってさ。ああでも、ゆづきちゃんの巫女さん衣装姿、見てみてえ~。

 それにしても、なんか気の毒。
 俺ら庶民とは、そもそも感覚からして違うみてえだ。
 だから俺も、別に彼女と「友達」以上の関係なんて望んでないし、元から期待してもいなかった。あっちが「お話しがしてみたい」って言うなら、その間はそういう関係でいてもいいかな、っていうぐらいだ。

 ただ不思議だったのは、怜二と凌牙がいやそうにしながらも、「絶対に会うな」とか「連絡を取り合うな」とか、強い言葉では禁止してこないことだった。
 ふたりが何を考えてるのかは、俺にはよくわからなかった。もっと反対してくるもんだと思ってたんだけど、なんか肩透かしを食らった気分。
 シルヴェストルのことがきちんと解決するまでは、お互いに「一線を越えない」っていう約束もしてるみてえだし、それで余計にあれこれ言いにくくなってるのかも知れないけどさ。
 とにかく。
 その日、俺は遂に、ゆづきちゃんからこんな連絡を受け取ったんだ。

《渡海くん。今度の日曜、時間が取れそうなの。両親が一日出かける用事があって。どこかで会いませんか?》ってさ。

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