血と渇望のルフラン

るなかふぇ

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第二章 怜二の秘密

2 食堂にて

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 それから。
 俺たち三人の関係に何か変化があったかっていうと、実は特になかった。
 今日も今日とて、俺は学食の食券販売機の前で悩んでる。

「えーと。今日のA定食は生姜焼きか。おおお、うっまそ! あ、でもB定食は唐揚げか。うーん。こっちも捨てがてえ……!」
「って、勇太。毎回よくそんなに迷えるもんだね」
「後ろがつかえてんだから、そこで悩むな。さっさと決めろや。いっそ両方食っちまえ!」
「あっ、さすが凌牙。その手があったか。わんこ賢い! けど軍資金が足んねえわ。バイト代、まだ入ってねえし。わんこ残念!」
「わんこわんこ連呼すんな、ぶっ飛ばすぞ!」

 凌牙が狼さながらの唸り声をあげる。
 俺らの毎度の風景だ。まあ「わんこネタ」だけは新しいけど。
 大学に来て、講義をうけて、昼休みには学食に来る。怜二が俺のぶんも弁当を作ってもらってくれた日には、中庭の方へ出てそこで食べる。まあ、天気がいい日限定だけどな。
 怜二の弁当ってのが、これまたすごい。でかいお重に、鷹曽根家御用達のシェフの手によるめっちゃうまい料理がてんこもり。最初に「いっしょに食べる?」って勧められたときは俺、本気で泣きそうになったもんだ。もちろん、うますぎて。

 あの日。俺が怜二と凌牙の正体を知らされた日。目が覚めたら、俺はもう自分の部屋の自分のベッドに寝かされていた。親父もおふくろも、俺が出て行ってたことすら知らなかった。
 その翌日、凌牙は『なんかお前、前と全然変わんねえけど。いいのかよ?』って、逆にいろいろ心配してくれた。
 ああ、そうそう。俺の自転車チャリはちゃあんと持って帰ってきてくれてたぜ。もちろん両親には気づかれないようにな。そこはやっぱり、さすが凌牙だ。友だち甲斐の鬼、いや狼だ。
 
 え、俺?
 いやそりゃ、びっくりはしたよ。驚かねえほうがおかしいだろ?
 だって幼稚園からの幼なじみが吸血鬼で、高校からの親友が狼男だっていうんだぜ?
 マンガかよ。ファンタジーかよ。 
 普通なら、腰をぬかしてびびっちまってもおかしくない。
 だけど、だからって俺がこいつらを怖がったり、嫌いになったりできるかよ。そこはやっぱり、できねえし。
 あの日、家に帰ってからめちゃくちゃ考えた。そんで思ったんだけど、「あー、納得」ってことのほうが大きかったしな。

 ずっと昔、ガキの頃、俺のひざの血を舐めてめっちゃおいしそうにしてた怜二。
 めちゃくちゃ匂いに敏感で、足が速くて仲間意識の強い凌牙。肉、大好きだし。
 それなりに苦労して隠してはいたんだろうけど、あらためて考えたらふたりとも、どこもかしこもすんげえそれっぽいじゃないか。
 っていうか隠す気あったのか、お前ら?

「あ、そうだ。じゃあさあ、あの時ってなんかあったの」
「んお?」

 A定食をもりもり口につっこみながら訊いたら、すでにB定食をほとんど平らげつつある凌牙が俺を見た。
 怜二は俺の隣で、単品のきつねうどんをものすんごく上品に食べている。どこの王侯貴族だよって感じ。どこぞの王侯貴族がそんじょそこらの学食のきつねうどんを食べるかどうかはともかく、だけど。
 この学校のイケメン二人がそろい踏みなもんで、周囲の、特に女子学生の視線が妙に痛い。まあしょうがないけどな。この席だけいやに目立ちまくってるし。

「ほら、高校の時さあ。お前、入学早々しばらく学校休んだじゃん。風邪で入院したとかなんとかで──」
「あー。あれな」
 凌牙はなぜか、意味深な目をして怜二をちら見した。
「そいつぁ、そっちに訊いたほうが早いんじゃね?」
「え? 怜二、なんか知ってんの」
 ひょいと隣を見たら、怜二はまたものすごく冷たい目で凌牙を睨んでいた。食べ終わったうどんの器をトレイに戻して、顔の前で手を合わせた状態で。
「こいつの自業自得だよ。あんまり勇太の周りをうろちょろするから、ちょっとをしただけさ」
「はあ!? おしお──」

 素っ頓狂な声を上げかけて、はっと口をおさえる。
 やばいやばい。ここ、食堂だっつの。そうでなくても目立ってんのに。誰に聞かれないとも限らない。

「しつけのなってない犬にはおしおきが必要だろう? 勇太にちょっかいを掛けたら次は容赦しないからねって、ちょっと釘を刺しただけ」
 しれっと何を言ってんだ、こいつ。
「まさかあんなに休むとは思わなかったけどね。少しばかり毛皮を引き裂いて、ひん剥いただけじゃないか」
 おいおい。さらっと怖いこと言ってんな。
昨今さっこんのルー・ガルーは、ずいぶんとひ弱になったものだよ」
「だーれがひ弱だ。ウェアウルフって呼べっつってんだろ。あのくらい、どってことねえ。俺らの回復力を舐めんなっつの」
 うるるっ、と凌牙の喉が鳴った。ラ行の音が完全に巻き舌になっている。器用だな、こいつ。
「ったく、これだから記憶力の弱ったお年寄りはよー」
「やかましい」

 ビキッとなにか鳴ったと思ったら、怜二の手の中でプラスチックの箸が真ん中でぽっきり折れていた。

「うわ。なにやってんだよ、怜二! 食堂の備品をそんなんで壊すんじゃねえ、バカ!」
「バカって、勇太……」
 怜二がむすっとした顔で俺を見返す。
「手、見せてみろよ。怪我したんじゃね?」
 ぱっと手を取って開かせてみたら、手のひらには傷ひとつついてなかった。怜二がなんとなく嬉しそうな目になる。
「勇太……。心配してくれるんだね」

 ってそんな、目をきらきらさせて両手で俺の手を握るなっつの。なんですか、俺、公衆の面前でプロポーズでもされるんッスか?
 凌牙の目が剣呑になった。

「くぉら。俺の目の前でいちゃつくな」
「なっ……別にいちゃついてねえ!」
「いやいちゃついてるよ。もうめちゃくちゃのめろめろにね。だから貴様が入る余地なんてない。髪の毛ひと筋の隙間もだ。どうだ羨ましいだろう野良わんこ」
「野良わんこ言うなあ!」

 ふふん、と言わんばかりの怜二。完全に挑発してる。
 対して、でかい犬歯を剥きだす凌牙。
 ほらな、いつもどおりだろ。

「あーあーもう、わかったから! お前らちょっと離れてろ。怜二、ストップ。凌牙、おすわり!」

 途端、ハッとしたようにふたりが止まったのにはちょっとびびった。
 特に凌牙。凍り付いたみたいに動かない。
 ん? この命令、マジで効くの? まあいいか。

「メシぐらい落ち着いて食わせろっての。すぐに五限が始まっちまうっつの~!」

 俺はまだ睨み合ってるふたりを両肘でぐいぐい押しやりながら、残ったA定食を口のなかにつっこんだ。

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