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おまけのおはなし2 ロマン君のおたんじょうび

7 愛撫 ※

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 暗めに調節された間接照明だけの寝室。
 その広い寝台に座って、ロマンは思うさま黒鳶の口づけをうけた。
 ロマンの頬を包んでいた黒鳶の手が、首筋をなぞり、すでに二の腕あたりまで落とされているガウンのあわいに滑り込む。
 彼の手に初めて触れられたロマンの肌は、ひとつひとつにぞくりぞくりと快感を生み出しながら色を変えていく。
 指先が触れたあと、こんどはそこに黒鳶の唇が触れてきた。
 首筋に、鎖骨の上に。肩先に、胸の尖りに。
 やがて、ゆっくりと寝具の上に横たえられた。

「はっ……う、んん」

 やや強めに、胸のちいさな粒を吸い上げられて腰が跳ねる。
 こんな風に、だれかに肌を愛撫されるなんてはじめてのことだった。だからどうしても違和感はある。あるが、決して嫌ではなかった。
 むしろ、もっともっと求めてほしい。女のように柔らかい曲線もなく、鍛えられた筋肉に守られてもいない身体。ただ薄くて骨ばっただけの、つまらない身体だということは百も承知だ。
 そんな身体でも、この男が求めてくれるというのなら。
 自分はどんなことだってする。どんなものだって差し出すだろう。

「あっ、は……あん」

 舌先で粒の先をくりくりと舐められ、じゅっと音を立てて吸い上げられる。何度かそうされているうちに、そこは女のそれのように色づいてぷくりと起き上がり、まるで男を煽るように淫靡な形を晒しはじめた。
 黒鳶は片方をそこまで育て上げると、今度はもう片方を愛し始める。

「あ……も、もう……そこは」
「お嫌ですか」
「そっ……そうでは、ありませんが」

 答えるまでもない。ロマンの身体は勝手にその愉悦よろこびを表現してしまっているのだから。両足をもぞもぞとこすり合わせ、腰を揺らし、男の背中に回した腕には力がこもる。
 すでにかなり潤んでしまっているだろう瞳で見下ろしたら、黒鳶は伸びあがってまた唇を愛してくれた。その舌はもう、遠慮することもなくロマンのそれに絡み合わされてくる。

「んう……ん」

 ロマンも少しずつ大胆になった。差し入れられてくる黒鳶の舌に自分から吸い付いて、顔の角度を変えながら何度も彼の唇を求める。
 いつのまにか、ガウンのあわせはすっかりはだけられている。対する黒鳶の浴衣はまだほとんど乱れてもいなかった。

「ん、くろとび、どの……」

 帯を解いて。
 肌を見せて。……触れさせて。
 もっと、ちゃんとあなたを見たい。あなたに触れたい。
 その肌で、この体を感じて欲しい。
 目でそう訴え、彼の帯に手を伸ばしただけで、男はロマンの意図をすぐに察したようだった。しゅるしゅると衣擦れの音がする。次にはもう、男の引き締まった裸の胸に抱きこまれていた。

「ん……」

 男の背中に滑らせた手のひらが、ふと違和感を知らせてきて目を開ける。きれいに走った背中の筋肉の上には、あちこちに不自然な、ミミズのような膨らみがあるのだった。背中ばかりではない。そう思って見てみれば、腕にも胸にも、同じようなものがいくつも走っている。
 ……傷だ、と気づくのに大した時間は要らなかった。

 そうだ。この男は滄海の忍びなのだ。
 これまでどんなにか自分の身体を張って、貴人の警護をしてきたことか。そうした中で、貴人の代わりに敵の刃に身を晒したことも一度や二度ではなかったのかも知れない。あるいは、訓練そのほかで傷ついたものか。
 実際、この人はアルネリオでユーリ殿下と自分を庇い、敵の矢面に立って戦ってくれたこともあるのだ。
 と、男がほんのわずかに笑ったようだった。

「……気になりますか」
「えっ。い、いえ……!」

 つい、治癒した傷痕の上を指であちこちなぞってしまっていたらしい。ロマンは恐縮して目線を落とした。

「ご、ごめんなさい……」
「謝らないでください。自分は一向に構いませぬ。このような無様な傷、修行不足であるがゆえのただの恥にて。誇れるようなものではございませぬが──」
「いえ、そんな」
「お嫌でないならどうぞ、好きに触れてくださいませ。あなた様なら構いませぬ」

 男は低い声で静かに言うと、そのままロマンへの愛撫を再開させた。
 こちらはすでに、下着だけの姿である。その中に収まったものが、とっくに欲望を主張して固く起き上がりかけていた。黒鳶はどうだろうかと密かに目をやるけれど、彼はまだ浴衣を上半身しか脱いでおらず、しかと見ることは叶わなかった。
 が、今回も黒鳶は目敏めざとかった。ごく低く喉奥で笑うような声を出したかと思うと、ひょいとロマンの手首を掴んで己が股間へと導いたのだ。

「あ……!」

 布地を通してもわかった。
 男のそこも、はっきりとロマンを求めて熱く、硬く勃ちあがっていた。

(こ、これを……迎えるのか)

 思わずそう考えて、すっと血の気が引いてしまった。
 こんなに大きくて猛々しいものを、あんな場所に?
 自分みたいな細っこい人間がちゃんと受け入れられるのだろうか。
 彼のそこから逃げるように手を放して、ロマンはぐるぐる考えてしまう。

 でも、できればそうしてあげたい。
 黒鳶のことだ。どうせまた「ロマン殿さえ良ければよいのです」とかなんとか言って、自分の欲望のことはずっとずっと後回しにして、平気な顔でいるに違いない。ロマンだって、今回は絶対にそんなことだけは許すまいと思って来たのだ。
 しかし。
 実物を目の前にし、あまつさえ触れてしまうと、そういう覚悟らしきものもどこかへ飛んでいってしまいそうになる。正直いってちょっと恐ろしい。いざとなったら自分はどうなってしまうのか。そう考えると、どうしても腰が引けるのだった。

(ど、どうしよう……)

 ロマンは思わず、こくりと喉を鳴らしてしまった。
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