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第五章 鷹の男
5 ※
しおりを挟むそのまま店の隠し扉を使って、ベータはアルファをそのずっと階下にある隠し部屋へと連れて行った。
ベータの隠れ家は様々な星域に点在しており、アルファでさえもその全貌は分からない。しかしどこにもここのようなバーや喫茶店などの窓口が備えられており、その近くに普通に寝起きのできる部屋が用意されているのだった。
「ん、……ん」
ほとんどものも言わずにベッドのある部屋に連れ込まれ、アルファはそのまま男に抱きすくめられた。扉を背にしてしばらく口づけを交わしたあとは、ゆっくりと着ているものを脱がされながらベッドに近づいていく。
本人がそう保証したとおり、彼の手は優しくて、アルファに快感以外のものを与えることはなかった。手馴れた様子でアルファの着ていた普通のダークスーツを脱がせていく。頬に、顎に、首筋にと唇を触れさせていきながら上着を脱がせ、ネクタイをほどき、スラックスのベルトをすとんと落とす。
アルファは男の背中や後頭部に腕を回して、その優しい愛撫にただ酔った。
火の灯った体はあっけなく暴走をはじめ、下腹に燃えるような熱がどんどん集まってゆく。
ベッドに沈められるころにはすでに、アルファは半裸の状態にされていた。ワイシャツの前は全部はだけられ、スラックスの前はくつろげられている。
男はアルファの足の間に腰を入れ、ゆっくりとあたたかなキスを顔から首、胸にとほどこしていく。耳朶を舐められ、唇で食まれながら胸の突起をくりくりと指先で弄ばれると、腰の中のせつないものが一気に加速した。
「あ、……あ、あ」
たまらなくてもぞもぞと腰を揺らせば、胸の飾りをぺろぺろと舐めていた男がくすりと笑った。硬くなったその部分にするりと手を差し入れられ、下着の上から触れられる。
「っひゃ……!」
変な声が出てしまって、慌てて手で自分の口を抑えこんだ。しかし、布の上からゆっくり摩られ、指先で巧みにくすぐられると、喉奥からひくひくと、恥ずかしい声が漏れ出した。腰が勝手にがくがくと震えてしまう。
我慢しようとすればするほど、その分だけ目尻に涙がたまっていく。男はそれを見下ろしながら、アルファが快感に震える姿をじっくりと楽しむ様子だった。男の手の動きに合わせて、無意識に腰を振っている自分に気づき、アルファの脳の中心がかっと焼けつくように熱くなる。
「ふぐ……ッ、や、いや――」
恥ずかしい。恥ずかしくてたまらないのに、やめてほしいとは思わない。口元をおさえこんだまま横を向いていたら、男はまた慣れた様子でアルファの足からスラックスを引き抜いた。
その手が、唇が、アルファの感じやすい部分を探して肌の上をなぞっていく。
「んっ……ん、んっ……」
「なかなか、感じやすくていやらしい体をお持ちだ」
アルファの乳首をその唾液でほとんどふやかしてしまいながら、ベータが笑う。そこは桜色に変えられて濡れ光り、すでにつんと空を向いて立ち上がってしまっている。
「こんな体を軍服に包んで、毎晩さぞや色々ともてあましておいでだったんだろう。気の毒に」
「……!」
思わず見上げて睨んだら、意外にも男の瞳の中でなにか熱いものが揺らめいていて、アルファは言葉を失った。
が、「どうして」と考える暇もなかった。
「ひゃあっ……! あ!」
ベータがするりとアルファの下着の中に手を忍びこませ、そこをやわやわと撫で上げ始めたからだ。明らかにアルファに聞かせるように、早くもその先端から零れ始めていたものをくちくちと音を立てて指先で弄ぶ。
「はっ……あ」
腰の奥から、堪えられないような衝撃が何度も襲ってくる。それが彼の指であると思うだけでも、アルファは必死に射精感を耐えなくてはならなかった。
指の動きを止めないまま、そうっと耳朶に囁かれる。
「……訊いてもいいか? 自分でここを触ったことは」
「……っ」
かあっと、全身に羞恥が走りぬけた。
正直なところ、何もしたことはないと言えば嘘になった。
特に、この男に出会ってからは。
男はこちらの表情から何事かを読み取ったように、笑みを含んだ声でまた訊いた。
「後ろもか? 自分で何かを挿れてみたことは」
「…………」
「触れるとき、誰のことを考えていた」
「…………」
何も答えずに唇を噛みしめて彼を睨みつけたら、ベータはあっさりと諦めたらしかった。
「悪かった。『客』に訊くことじゃなかったな」
(……!)
その単語を聞いた瞬間、体が竦んだ。
「客」。
いきなり耳朶に飛び込んできたその言葉は、そのままアルファの胸を冷たい槍で突きとおした。
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