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第七章 共闘
17 再会
しおりを挟むさらに五日後。サクヤたちは昼夜兼行で《星間ジャンプ》を繰り返し、ほぼ最速でこちら宙域に到着した。最速でも十日と言われていたのだから、それを二日縮めたのはもはや偉業といっていい。その代わり、かれらを運んできた戦艦の人員の疲弊度はとんでもないことになっているらしかった。
そうしてそれは《レンジャー》たち自身も例外ではなかった。
護衛艦に乗って旗艦《トリーフォン》にやってきた仲間たちの久しぶりの顔を見て、リョウマは驚いた。みんな一様に青白く、必死に吐き気をこらえるような顔ばかりだ。ハルトなど足元がおぼつかなくて、犬顔をした士官に肩を貸してもらっているほど。
リョウマはつい、おずおずと声をかけた。
「みんな、ひさしぶり。よく来てくれたな……大丈夫か?」
「だ、大丈夫……とは、言えないわね。悔しいけど」
幽霊のように蒼白な顔色のサクヤだけがなんとか返事をしてくれたが、それはほとんど気力だけによるものに見えた。あとのみんなは軽くこちらに片手を上げたり、薄く微笑んだりするのが精いっぱいに見える。いますぐにでもベッドに倒れ込みたいところだろう。
リョウマは胸に突きあげてくる熱いものを堪えるのに苦労した。
(みんな……)
全員、「地球のため」「みんなのため」そして「リョウマのため」と思ってここまでして来てくれたのだ。それはわざわざ説明されるまでもないことだった。
「みんな……本当にありがとな。大変だったろ。お疲れ様。まずはしっかり休んでくれ。ほかの兵士のみんなも、作戦の前にまずしっかり休養を取ってくれ。これはトリーフォンのダンナからの命令でもあるからな」
「了解いたしました。お気遣いありがとう存じます、リョウマ殿。しばしお言葉に甘えさせていただきます」
犬顔の士官が、ピッときれいな敬礼を返してから去っていく。彼の代わりにハルトに肩を貸して、リョウマはみんなを事前に準備された《レンジャー》のための居室に連れていった。
まずはそれぞれ、ベッドやソファに楽な姿勢で落ち着いてもらい、今後の動きについてリョウマから説明して、その日は個々の部屋へ解散となった。ともかく今回の件では、《レンジャー》たちが万全の体調で作戦に赴くことが最重要だ。
そのためには、休むことも非常に重要。あの鷲顔の将軍トリーフォンは兵士の休養の重要性をよく理解していて、「最悪、気絶させてもよいから眠らせろ」とまで言ったのだ。
翌日になってようやく、全員がトリーフォンの執務室に集合することになった。一日ゆっくりと休養をとったことで、明らかに仲間のみんなの顔色はよくなっている。それを見てほっとするとともに、リョウマは気を引き締めた。
「まずは《レンジャー》の皆々には、久しぶりと申しておこう」
場にいるのはリョウマを含む《レンジャー》五名とダンパ、トリーフォンとその側近らしき上級将校たちが三名だ。いずれもこれまで見たことのある顔だった。
トリーフォンは自分の執務机の前に座り、《レンジャー》たちは来客用のソファセットに座っている。将校とダンパは立ったままだ。
まず簡単な挨拶のあと、トリーフォンが口火を切った。
「一応、先に確認させていただこう。過去にはお互い色々とあった身ではあるが、今は非常時。過去の遺恨についてはお互い不問ということで構わぬな?」
「もちろんだ」リョウマが言った。「今はそんなこと言ってる場合じゃねえ。だな、みんな?」
「うん」
「ああ」
「そりゃそうよ」
「地球のためでござる。当然にござるよ」
《レンジャー》たちがそれぞれにうなずく。
トリーフォンは重々しくうなずくと、側近の一人に目配せをした。側近が一礼して壁の一部を操作すると、目の前に緑色に光る画像が映し出された。リョウマにとってはすでに見慣れた光景だが、ほかの四名はまだ驚いた表情を隠せぬ様子だ。
「こちらが、我が艦隊の現在地点。そしてこちらが問題の彗星。魔王陛下の旗艦と護衛艦等々がこちらだ」
トリーフォンが語るのに合わせて、画像の上の光る点がそれぞれ赤く明滅していく。それぞれの距離がよくわからないが、将校が追加で説明をしてくれた。いずれも《星間ジャンプ》一回で到達できるほどの距離なのだという。
「彗星は恐るべき速さで宇宙空間を飛んでおり、刻一刻と地球に向かっている。速度はほぼ一定ゆえ、軌道の計算は難しくない。ただ問題は、陛下が一刻も早く彗星を止めるべく動いておられるということだ」
「エルが? 今はどうなってんだよ」
リョウマのぞんざいな話し方に、側近士官の一人がじろりとこちらを睨んだが、そんなものを意に介している暇はない。トリーフォン自身も、とうにこの件については慣れてしまったらしく、今にも文句を言いそうになった士官を即座に片手でとどめただけだった。
「陛下の戦艦《エルケニヒ》の乗員からの情報によれば、陛下はすぐにも彗星殲滅のために出発しようとなさっているとのこと」
「なんだって……! じゃあ、俺らもすぐにそっちに行かなきゃ」
「その通りだ。今、あちらの戦艦と《星間ジャンプ》の最適ポイントについて話し合っている。折り合いがつき次第、こちらの《ジャンプ》を開始する。そなたらは、そこからすぐにも陛下のサポートに回ってほしい。できるか?」
「できるか、できねえかじゃねえだろ。やるっきゃねえよ」
「《ジャンプ》酔いについては大丈夫か。そちらはあれには不慣れであろう」
「一回ぐらいならなんとかなるわよ。昨日のあれは、昼も夜もなく十回以上もくりかえされたからだし。ね、そうよね、みんな?」とサクヤ。
「ああ」
「左様にござる」
「い、一回なら、なんとか……」
最後の気弱な発言はもちろんハルト。彼はまだ少し顔色がよくなかった。
不安要素はあるが、やはり時間は惜しい。ハルトには申し訳なかったが、最終的に《ジャンプ》は翌日の朝いちばんに、ということに決まった。
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