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第十六章 恐慌
13 邪教認定
しおりを挟む(……はあ。ずうっと殿下にお会いできてない……)
お忙しいのはわかっている。ティガリエから、インテス様だけでなくレオやセネクス師匠たちも事後処理のためにあれこれと飛び回っていると聞いている。のんびり療養しているのは自分だけだ。なんとも恥ずかしいし、悔しくも思う。
それになにより、寂しい。
事件が終われば、ずっとインテス様のそばにいて、ずうっとずうっと、同じ寝床にいられるものだと思っていたのに。
「貴人はもとより、真面目に働くかたほどお忙しいものなのでございます」
「……うん。わかってるよ、ティガ……」
そしてあのインテス様が、民のためならだれよりも真面目に働くかただということも。
「事後処理はどんな感じなのかな? 神殿は、あのあとどうなったの」
「は。それなのでございますが」
あのとき見たとおり、神殿も甚大な被害を被った。それは単に物理的なことばかりではなく、信仰の中心地としての威信も大いに揺らいだのだという。
さもありなん。なにしろ最高位神官サクライエはずっと、「白き神、黒き神などは邪神である、偽りの神である」「その子たる《救国の半身》などという存在もまやかしに過ぎぬ」と、言葉を尽くしてこちら側を貶めてきたのだから。
だがあの事件で、強大な《黒き皿》に対して神殿はなんの反撃らしい反撃もできなかった。むしろひたすらにやられるままで、《半身》と魔塔の魔導士たちに守られただけだった。
保護を求めて神殿に逃げ込んできた民たちのうち、かなりの者が強風にさらわれて行方不明になったままである。家族を奪われた信者たちは、信者たることをやめ、むしろ自分たちを長年だましつづけてきた大罪人として神殿を恨み、憎むものが増えたのだという。
おおっぴらに反抗する平民たちは多くはなかったが、それは単純に報復を恐れたからであって、自然に神殿から足が遠のき、あれほど集まっていた人々が蟻の子を散らすように神殿から消え去ったらしい。まさに「閑古鳥」が鳴いているのだとか。
「で、あの……サクライエは?」
「あの事件で神殿の一部が破壊されたとき、どうやら怪我をしたらしく。あれから神殿の自室に閉じこもって、側近数名以外は近づけないのだという話です」
「そうなんだ」
今からでも民たちを慰め、炊き出しをするなどすれば少しは民心も落ち着くかもしれないのに。サクライエは民からの報復を恐れて、硬い殻に閉じこもってしまったらしい。
「五柱の精霊さまたちが神様であることにまちがいはないのにね。その上に、さらに白き神と黒き神がおられた、それだけのことなのに」
「左様にございますな」
「サクライエはやっぱり、それは認められないのかな?」
「……難しゅうございましょうな」
ティガリエに言わせると、すでに手にしていた権益をあっさりと「すみませんでした」と返上することほど難しいことはないのだそうだ。これまで自身が神であるかのごとく崇められてきたサクライエにしてみれば、これまで主張してきた信仰の土台が崩れたことは、単に矜持が傷つくというだけのことでは済まない。
むしろ人々はサクライエたち神殿をこそ「邪教の巣よ」と噂しはじめているというのだ。身の危険を感じるのは当然だろう。
「インテス様はどうなさるおつもりなんだろう」
「それは、自分ごときには量りかねまする」
「それじゃ。自分で訊きにいくしかない、ってことだよね?」
「……は?」
にっこり笑ったシディを、ティガリエが怪訝な顔で見返した。
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