86 / 209
第八章 神殿の思惑
9 現れた三人
しおりを挟む(えっ。あれは……??)
ようやくインテス様がお戻りになるという報せが入り、前夜は小躍りしてしまったシディだったが。
セネクス様やティガリエとともに、魔塔に到着した一行を迎えに出て凍りつくことになった。
(あれ、だれだろう──)
そうなのだ。魔塔の前庭で魔導士による《跳躍》魔法が解かれたとき、そこに現れたのはインテス様とレオとラシェルタだけではなかった。
ぞろぞろと長い神官服を身につけた見慣れない者たちが三名、ともに立っていたのである。
ともあれシディは真っ先にインテス様に駆け寄った。
「お帰りなさい、インテス様!」
「ああ、シディ。長らく留守番をさせてすまなかったな」
「いいえ。ずうっとずうっと、お待ちしていましたっ……!」
「ふふ。相変わらずシディは可愛さが突き抜けているな」
ああ、やっぱりインテス様はインテス様だ。
陽の光を浴びて金のお髪はきらきらしているし、周囲を圧倒せんばかりの素敵な微笑み。そのお顔で両腕を広げられたら、もうそこに飛び込む以外のことは考えられなくなる。
シディは夢中で殿下に飛びつき、力いっぱい抱きしめた。インテス様の腕が同じように抱きしめ返し、頭や耳をぐりぐりと撫でてくださる。もう嬉しくてたまらない。
「ふふ。お日様の匂いがするな、シディ」
「えっ。あ、汗くさい……ですか?」
ぎくっとして、思わずぴょんと飛びすさった。実はインテス様たちが到着されるまで、自分はまたティガリエとの剣の稽古に励んでいたのだ。もしかしたら相当臭いのかもしれない。
が、インテスさまはすぐに大股に近づいてきて、あらためてまたシディをぎゅうっと抱きしめられただけだった。
「そうではない。懐かしいと言ってるんだ。離れないでおくれ、シディ。……とんでもなく寂しかったのだから」
「おっ、おお、オレもですっ──」
「ほれほれ。涙の再開はそこらへんまでにしてくんな。紹介する奴らがいんだからよー」
めんどくさそうな顔で二人の間に入ったのはレオだった。
神官風の三名をずいと前に立たせ、あごをしゃくる。
「今回から、神殿の神官どもが協力してくれることになったんだ。『そんな必要はねえ』って俺も殿下も断ったんだが、サクライエの野郎が『どうしても』って聞かなくてよ~」
「レオ千騎長。黙って聞いておればなんですか。無礼が過ぎまするぞ」
すぐに口を挟んだのは、三名の中で最も小柄な、サルの顔をした人だった。この人がこの中では一番年上らしく、身分も高いようだ。ぼうぼうに生えた白い眉毛で隠れているが、その奥の眼光が驚くほど鋭かった。そして肌色が異様に黒い。
「ああん?」
「何度も言わせるでない。『サクライエ猊下』とお呼びせぬかと、ずっと申しておろうが!」
そう叫んだのは、最も大きな体をしたゴリラに近い顔をした男。これは神官服を脱いだらどこぞの武官だと言われても信じるほどに屈強な体躯の人だった。攻撃的な雰囲気の相貌に、剥きだした歯が妙に白い。ぎょろりとレオを睨んだ目が血走っている。
が、レオは完全に「どこ吹く風」。とうに耳などほじっている。
「ああ? めんっどくせえな~」
「貴様ッ! きちんと礼を尽くせと申しておるのじゃっ」
最後に金切り声を上げたのは女性で、これはダチョウの顔をした人だった。女にしては背が高く、ガリガリに痩せている。眼球が異様に大きく、そのまわりを長い睫毛がびっしりと覆っていた。下から見上げると、くちばしにあいた鼻の穴がひどく大きく見える。
「はいはい、そこまで」
互いに敵意を隠そうともせず睨み合い始めたかれらの間にするりと割り込んだのは、トカゲの人ラシェルタだった。
「こんな所で面倒ごとを起こすな、レオ千騎長。ではあらためまして、私からご紹介いたしましょう。こちらのみなさまはサクライエ猊下の側近であらせられる、スピリタス教の高位神官様がたです」
そしてひとりひとり、名前を紹介してくれる。サルの人がシィミオ、ゴリラの人がアクレアトゥス、ダチョウの人がストルティというのだそうだ。
シディたちと一緒に迎えに出ていた魔塔の最高位魔導士セネクスは、いつも通りの微笑を悠然と浮かべたまま言った。
「さてもさてもご足労なことじゃ。してその方々が、なにゆえこちらに」
「サクライエ猊下からのご命令により馳せ参じた。今後、《闇の勢力》の討伐に神殿も協力することになったゆえである」
「ええっ」
これまで聞いていた限りでは、神殿はこれらの作戦にまったく関与する気がなかったということだったのに。
ここへきて急にそんな話になったのか。一体どうして?
0
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる