白と黒のメフィスト

るなかふぇ

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第八章 神殿の思惑

9 現れた三人

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(えっ。あれは……??)

 ようやくインテス様がお戻りになるというしらせが入り、前夜は小躍りしてしまったシディだったが。
 セネクス様やティガリエとともに、魔塔に到着した一行を迎えに出て凍りつくことになった。

(あれ、だれだろう──)

 そうなのだ。魔塔の前庭で魔導士による《跳躍》魔法が解かれたとき、そこに現れたのはインテス様とレオとラシェルタだけではなかった。
 ぞろぞろと長い神官服を身につけた見慣れない者たちが三名、ともに立っていたのである。
 ともあれシディは真っ先にインテス様に駆け寄った。

「お帰りなさい、インテス様!」
「ああ、シディ。長らく留守番をさせてすまなかったな」
「いいえ。ずうっとずうっと、お待ちしていましたっ……!」
「ふふ。相変わらずシディは可愛さが突き抜けているな」

 ああ、やっぱりインテス様はインテス様だ。
 陽の光を浴びて金のおぐしはきらきらしているし、周囲を圧倒せんばかりの素敵な微笑み。そのお顔で両腕を広げられたら、もうそこに飛び込む以外のことは考えられなくなる。
 シディは夢中で殿下に飛びつき、力いっぱい抱きしめた。インテス様の腕が同じように抱きしめ返し、頭や耳をぐりぐりと撫でてくださる。もう嬉しくてたまらない。

「ふふ。お日様の匂いがするな、シディ」
「えっ。あ、汗くさい……ですか?」

 ぎくっとして、思わずぴょんと飛びすさった。実はインテス様たちが到着されるまで、自分はまたティガリエとの剣の稽古に励んでいたのだ。もしかしたら相当臭いのかもしれない。
 が、インテスさまはすぐに大股に近づいてきて、あらためてまたシディをぎゅうっと抱きしめられただけだった。

「そうではない。懐かしいと言ってるんだ。離れないでおくれ、シディ。……とんでもなく寂しかったのだから」
「おっ、おお、オレもですっ──」
「ほれほれ。涙の再開はそこらへんまでにしてくんな。紹介する奴らがいんだからよー」

 めんどくさそうな顔で二人の間に入ったのはレオだった。
 神官風の三名をずいと前に立たせ、あごをしゃくる。

「今回から、神殿の神官どもが協力してくれることになったんだ。『そんな必要はねえ』って俺も殿下も断ったんだが、サクライエの野郎が『どうしても』って聞かなくてよ~」
「レオ千騎長。黙って聞いておればなんですか。無礼が過ぎまするぞ」

 すぐに口を挟んだのは、三名の中で最も小柄な、サルの顔をした人だった。この人がこの中では一番年上らしく、身分も高いようだ。ぼうぼうに生えた白い眉毛で隠れているが、その奥の眼光が驚くほど鋭かった。そして肌色が異様に黒い。

「ああん?」
「何度も言わせるでない。『サクライエ猊下げいか』とお呼びせぬかと、ずっと申しておろうが!」

 そう叫んだのは、最も大きな体をしたゴリラに近い顔をした男。これは神官服を脱いだらどこぞの武官だと言われても信じるほどに屈強な体躯の人だった。攻撃的な雰囲気の相貌に、剥きだした歯が妙に白い。ぎょろりとレオを睨んだ目が血走っている。
 が、レオは完全に「どこ吹く風」。とうに耳などほじっている。

「ああ? めんっどくせえな~」
「貴様ッ! きちんと礼を尽くせと申しておるのじゃっ」

 最後に金切り声を上げたのは女性で、これはダチョウの顔をした人だった。女にしては背が高く、ガリガリに痩せている。眼球が異様に大きく、そのまわりを長い睫毛がびっしりと覆っていた。下から見上げると、くちばしにあいた鼻の穴がひどく大きく見える。

「はいはい、そこまで」

 互いに敵意を隠そうともせず睨み合い始めたかれらの間にするりと割り込んだのは、トカゲの人ラシェルタだった。

「こんな所で面倒ごとを起こすな、レオ千騎長。ではあらためまして、私からご紹介いたしましょう。こちらのみなさまはサクライエ猊下の側近であらせられる、スピリタス教の高位神官様がたです」

 そしてひとりひとり、名前を紹介してくれる。サルの人がシィミオ、ゴリラの人がアクレアトゥス、ダチョウの人がストルティというのだそうだ。
 シディたちと一緒に迎えに出ていた魔塔の最高位魔導士セネクスは、いつも通りの微笑を悠然と浮かべたまま言った。

「さてもさてもご足労なことじゃ。してその方々が、なにゆえこちらに」
「サクライエ猊下からのご命令により馳せ参じた。今後、《闇の勢力》の討伐に神殿も協力することになったゆえである」
「ええっ」

 これまで聞いていた限りでは、神殿はこれらの作戦にまったく関与する気がなかったということだったのに。
 ここへきて急にそんな話になったのか。一体どうして?
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