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第七章 闇の鳴動
10 離宮の夜(2)※
しおりを挟む寝室にふたりで立てる淫靡な水音と、甘い吐息が満たされている。
シディは腰を上下させながら器用に入り口をつかってインテスさまのものをタイミングよく締め付け、律動を少しずつ早めていく。
「うっ……く」
インテス様の柳眉がしかめられ、抑えようとしても欲望に濡れたようなひそやかな声が漏れ出している。それが嬉しい。
シディは自分の感じやすい場所を器用に避けながら、インテス様に最大の快楽を届けようと腰と内側を存分に使った。男娼として身につけた技術をこの人に披露することはずっと憚っていたけれど、今夜はもういい。
この人からばかり、一方的に気持ちよくさせられている状態は、やっぱりダメだと思うからだ。
「んっ……ん、んん……っ」
じゅぽじゅぽと自分の尻から濡れた音がまき散らされ、インテス様のものがさらに固くなって質量を増していくのをじかに感じる。うっかり自分が先に達してしまわないよう、シディは自分の手で自分の根元を戒めている。
「そっ、んなこと、しなくて……いいぞ。シディっ……」
言いながら伸ばしてくる手をやんわりと押し戻して首を左右にふった。
「いい、んですっ……」
気持ちよくなって。
オレのこんな体で申し訳ないけれど、それでも。
オレは、あなたに気持ちよくなってほしいんだ──
思いながら、腰の律動をどんどん早くしていく。それに伴い、自分とインテス様の呼吸がどんどん早くなり、ひとつの音楽みたいに絡まり合って高く、熱くなっていく。
「はっ、あ……! シディ……っ」
シディの腕をぎゅっと掴んで、遂にインテス様がびくんと震えた。内側に、どっと熱いものがぶちまけられた感覚。
それと呼吸を合わせるようにして、シディも自分の手の中に自分の精を放った。
「はあ……あ」
あまりの快楽に恍惚とする。目の前が一瞬、真っ白になる。
腰の上で上体をふらつかせているシディを、起き上がったインテスさまがゆっくりと抱き込み、強く抱きしめてくださった。そのまましばらく抱き合って、ふたりで荒い息をついていた。
が、それもつかの間のことだった。自分の内奥に挿しこまれたものはすぐにまたもとの力を取り戻したのだ。
シディの耳にそっと囁く声が届いた。
「……すまない、シディ。もう少し、いいだろうか」
「はい……」
「今度は私が。……いいだろう?」
まだ脳の中心が痺れたようになっていたが、シディは朦朧としながらもこくんとうなずいた。
次にはぐっと腰をつかまれ、持ち上げられた。
「ああ……っ」
そのまま落とされ、下からインテスさまに突き上げられる形になる。ずぷん、と自分のそこからきわどい音がしたような気がした。
「ひゃああん……っ!」
今までになく、突然ものすごく深いところを突かれる形になる。シディはたまらず悲鳴をあげた。
深いだけではない。容赦なく悦い場所を突かれている。しかも、そこを執拗なほどに狙われた。これではもたない。
「あっ、あ、あっ……イン、テス、さま……そんっ、だめえっ」
目の奥がちかちかする。
両足を思い切り開いて、無意識のうちにインテス様の腰に絡めていた。自分の口から勝手に溢れ出していく嬌声をどうにもできない。
「あっ、あひっ、ひゃう、うああんっ……」
「ああ、シディ、シディ……」
インテス様もなにか夢中になっている様子だ。とはいえ、その時のシディにそんなことを考えている余裕はなかったけれど。
ひたすらに自分の中に激しく送り込まれている抽挿に耐え、蕩けきった嬌声を溢れさせているばかりで。
縦に抱かれて、後ろから突かれて、その夜はインテス様も少し度を越されたようだった。
全部が終わって、インテスさまの指先による便利な魔法のおかげで体の中も外も綺麗にしていただいて、ようやく二人は眠りに就いた。
インテス様はシディを抱きしめて眠っている間じゅう、今やお気に入りとなったシディのふかふかの黒い耳やふさふさした黒いしっぽを撫でてくださっていた。
自分がもしも猫系の獣人だったら、きっとずっと喉をごろごろいわせていたに違いない。
(しあわせ、って……こういうこと、なのかな……?)
よくわからない。
みんなが言う「しあわせ」の意味が、自分にはまだよくわからないから。
でも、この人とこうしているこの時間が、ずっとずっと続けばいいなと、うつらうつらと眠っている間もずっとシディは考えつづけていた。
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