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第14膳
伊緒さんのラーメン食べ比べ。札幌vs和歌山のご当地対決です
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道産子がラーメンにうるさいというのは、ご存じのとおりかと思います。
どういうわけか北海道はラーメンどころでもあり、観光地には必ずといっていいほど「なんとか横丁」とか「かんとか道場」みたいなラーメン屋さんの集中地帯があるのです。
わたしは札幌で生まれ育ちましたので、みそ味のこってりスープに太いちぢれ麺の"サッポロラーメン"になれしたしんできました。
なぜこのようなスタイルができあがったのかについては諸説ありますが、やはり寒さの厳しい北国で、身体を温めるための知恵として熱を失いにくいスープが工夫されたのだと思います。
でも、北海道はでっか……、とても広いので、各地にはそれぞれ独自のラーメンが発達したのです。
代表的なところをざっくりいうと札幌のみそに対して函館は塩。
これは普通に「ラーメン」といった場合、函館では塩味のスープで出てくるそうです。
海鮮風味のものもあり、ストレートの麺とシンプルな味わいが特徴です。
また、体験型の動物園ですっかり有名になった旭川は、しょうゆ味のスープが有名です。
現在では一般的となったガラや骨系のだしと魚介系のだしを合わせる、ダブルスープの技法を古くから用いていたことも特筆すべき項目です。
ラードを使うのでやはりこってりとしていて、麺は札幌同様のちぢれ麺です。
ほかにも広い道内の各地にそれぞれ個性的なラーメンがあり、日進月歩・群雄割拠の様相を呈しています。
さて、日本社会におけるラーメンの相対的地位が、上昇の一途を辿っているのは周知のことかと思います。
"戦国時代"ともたとえられるラーメンの競合はすさまじく、人気店には連日長蛇の列が並び、地域経済のバランスをおびやかすほどの影響力をもつとされています。
ものすごくたくさんの具がのっていたり、ものすごくスープが辛かったり、ものすごく大将がこわかったりと、とにかく"ものすごく系"のお店が大人気なのもよく知られています。
大将がお客さんを叱りつけるお店は一時期テレビでもよく紹介されていて、私語をしては怒られ、水を飲みすぎては舌打ちされ、スープを残そうものならそれこそ市中引き回しの刑にでもされそうな剣幕でした。
人民はおりこうに姿勢を正し、素早くそしてお行儀よく一滴も残さずラーメンを完食して、何度も頭を下げながら晴れ晴れとお店を出るのでした。
店主は一国一城の主ですから、どのような方針でも自由に決まっていますが、そんな様子をみるにつけわたしは戦慄しました。
でも、いったいどんな味なのか、気になりますよねえ。
ラーメンが大好き、という人は結構いらっしゃるもので、わたしが札幌の出身だとわかると地元っ子のおすすめの店を教えてくりゃれ、とインタビューされることがよくあります。
でも実をいうと、わたしは故郷ではそんなに頻繁にラーメンを食べていたというわけではなく、ぱっと名前が思い浮かぶお店は2軒しかないのです。
でもなんだか悪いので、知っている2軒の店名を挙げて先述の北海道3大ラーメンのうんちくを披露しつつ、
「札幌じゃあ、ラーメン屋さんにハズレはないしょー?あとはフィーリングでエイヤっ、と決めたらいいんでないかい?」
などとお茶を濁すことにしています。
でもたいがいそんな答えでも満足してくれて、いかにわが故郷のラーメンが愛されているのかを感じるのです。
わたしの夫は和歌山の人ですが、そこもまたラーメンどころとして有名ですよね。
結婚してしばらくは関東の方で暮らしていたのですが、たまたま二人で中華屋さんに入ることがあると、必ずお互いの故郷のラーメンの話が出ました。
もちろん関東ならではの、煮干しがきいたおしょうゆ風味の中華そばもとってもおいしいものでした。
でも、夫が語る和歌山ラーメンの様子があんまりおいしそうで、いつかそれを食べに連れて行ってね、とお願いしていたのです。
その夢がかなったのは夫の故郷である和歌山に引っ越してからのことで、彼はさっそくわたしとの約束を果たすべく、和歌山ラーメンのお店に案内してくれたのでした。
特徴としてはとんこつ醤油のスープに細めのストレート麺、具はチャーシューのほかにカマボコとたっぷりのきざみネギ、というのが基本のようです。
スープはさらっとしたものととろりとしたものの二系統があるそうで、それぞれ「醤油ベース」「とんこつベース」と分類されています。
彼が連れて行ってくれたお店はとんこつベースのとろりとしたスープで、わたしがなれしたしんだサッポロラーメンの濃厚さに通じるものがありました。
北海道のラーメンに比べるとお鉢が小ぶりで、食べ盛りの男の人は足りないのじゃないかな?と思ってしまいました。
ところが、これには秘密があったのです。
なんと、和歌山ではラーメンと一緒に「早寿司」と呼ばれる鯖寿司を食べる習慣があり、その分に合わせてラーメンは控えめに盛り付けているのだそうです。
しかもたいがい各テーブルにゆでたまごなんかと一緒にどかんと置かれていて、お客さんは勝手にとって食べて「早寿司○個と、ゆでたまご○個もろたでー」と、お会計のときに自己申告するのです。
食べた個数をちょろまかすような不心得者はいないそうで、さすが徳川御三家の一翼を担う紀伊大納言のお国だと、心から感心したものでした。
夫から繰り返しお話には聞いていたのですが、いざ自分の目でその光景をまのあたりにしたわたしは、非常に興奮いたしました。
とんこつ風味というのはなじみがありませんでしたが、おしょうゆの香ばしさとほんのりとした酸味が心地よく、細い麺の口当たりともあいまってとてもおいしく感じました。
おそるおそる食べてみた鯖寿司も、意外なことにラーメンとすばらしく相性のよいものでした。
こってりしたスープの後味をお寿司の酢が中和して、ああ、これが「マリアージュ」と呼ばれる組み合わせなのかなあと、感動してしまいます。
たまご好きなわたしはテーブルのカゴに盛られたゆでたまごにもついつい手を伸ばし、お鉢の小ぶりさを補ってあまりあるくらい満腹してしまいました。
「ふわあーっ!おいしかったあ!」
お店を出た直後、わたしと夫は同じせりふをハモらせて笑いあいました。
おなかはぽんぽんで、「ラーメンを食べたぞー!」という満足感でいっぱいです。
「伊緒さんのお口にも合ったみたいで、よかったです」
夫がニコニコしながらそう言ってくれました。
ほんとうに、同じラーメンでもまったく違う系統のつくりなのに、どこか故郷の味を思い出させるような懐かしさもありました。
「うん、ありがとう!すっごくおいしかったわ!じゃあ今度は、札幌に行ったときにわたしがおいしいお店にご招待するからね!」
自信たっぷりにそう言ってしまったわたしですが、2軒しかお店を知らないことはまだ彼には内緒です。
どういうわけか北海道はラーメンどころでもあり、観光地には必ずといっていいほど「なんとか横丁」とか「かんとか道場」みたいなラーメン屋さんの集中地帯があるのです。
わたしは札幌で生まれ育ちましたので、みそ味のこってりスープに太いちぢれ麺の"サッポロラーメン"になれしたしんできました。
なぜこのようなスタイルができあがったのかについては諸説ありますが、やはり寒さの厳しい北国で、身体を温めるための知恵として熱を失いにくいスープが工夫されたのだと思います。
でも、北海道はでっか……、とても広いので、各地にはそれぞれ独自のラーメンが発達したのです。
代表的なところをざっくりいうと札幌のみそに対して函館は塩。
これは普通に「ラーメン」といった場合、函館では塩味のスープで出てくるそうです。
海鮮風味のものもあり、ストレートの麺とシンプルな味わいが特徴です。
また、体験型の動物園ですっかり有名になった旭川は、しょうゆ味のスープが有名です。
現在では一般的となったガラや骨系のだしと魚介系のだしを合わせる、ダブルスープの技法を古くから用いていたことも特筆すべき項目です。
ラードを使うのでやはりこってりとしていて、麺は札幌同様のちぢれ麺です。
ほかにも広い道内の各地にそれぞれ個性的なラーメンがあり、日進月歩・群雄割拠の様相を呈しています。
さて、日本社会におけるラーメンの相対的地位が、上昇の一途を辿っているのは周知のことかと思います。
"戦国時代"ともたとえられるラーメンの競合はすさまじく、人気店には連日長蛇の列が並び、地域経済のバランスをおびやかすほどの影響力をもつとされています。
ものすごくたくさんの具がのっていたり、ものすごくスープが辛かったり、ものすごく大将がこわかったりと、とにかく"ものすごく系"のお店が大人気なのもよく知られています。
大将がお客さんを叱りつけるお店は一時期テレビでもよく紹介されていて、私語をしては怒られ、水を飲みすぎては舌打ちされ、スープを残そうものならそれこそ市中引き回しの刑にでもされそうな剣幕でした。
人民はおりこうに姿勢を正し、素早くそしてお行儀よく一滴も残さずラーメンを完食して、何度も頭を下げながら晴れ晴れとお店を出るのでした。
店主は一国一城の主ですから、どのような方針でも自由に決まっていますが、そんな様子をみるにつけわたしは戦慄しました。
でも、いったいどんな味なのか、気になりますよねえ。
ラーメンが大好き、という人は結構いらっしゃるもので、わたしが札幌の出身だとわかると地元っ子のおすすめの店を教えてくりゃれ、とインタビューされることがよくあります。
でも実をいうと、わたしは故郷ではそんなに頻繁にラーメンを食べていたというわけではなく、ぱっと名前が思い浮かぶお店は2軒しかないのです。
でもなんだか悪いので、知っている2軒の店名を挙げて先述の北海道3大ラーメンのうんちくを披露しつつ、
「札幌じゃあ、ラーメン屋さんにハズレはないしょー?あとはフィーリングでエイヤっ、と決めたらいいんでないかい?」
などとお茶を濁すことにしています。
でもたいがいそんな答えでも満足してくれて、いかにわが故郷のラーメンが愛されているのかを感じるのです。
わたしの夫は和歌山の人ですが、そこもまたラーメンどころとして有名ですよね。
結婚してしばらくは関東の方で暮らしていたのですが、たまたま二人で中華屋さんに入ることがあると、必ずお互いの故郷のラーメンの話が出ました。
もちろん関東ならではの、煮干しがきいたおしょうゆ風味の中華そばもとってもおいしいものでした。
でも、夫が語る和歌山ラーメンの様子があんまりおいしそうで、いつかそれを食べに連れて行ってね、とお願いしていたのです。
その夢がかなったのは夫の故郷である和歌山に引っ越してからのことで、彼はさっそくわたしとの約束を果たすべく、和歌山ラーメンのお店に案内してくれたのでした。
特徴としてはとんこつ醤油のスープに細めのストレート麺、具はチャーシューのほかにカマボコとたっぷりのきざみネギ、というのが基本のようです。
スープはさらっとしたものととろりとしたものの二系統があるそうで、それぞれ「醤油ベース」「とんこつベース」と分類されています。
彼が連れて行ってくれたお店はとんこつベースのとろりとしたスープで、わたしがなれしたしんだサッポロラーメンの濃厚さに通じるものがありました。
北海道のラーメンに比べるとお鉢が小ぶりで、食べ盛りの男の人は足りないのじゃないかな?と思ってしまいました。
ところが、これには秘密があったのです。
なんと、和歌山ではラーメンと一緒に「早寿司」と呼ばれる鯖寿司を食べる習慣があり、その分に合わせてラーメンは控えめに盛り付けているのだそうです。
しかもたいがい各テーブルにゆでたまごなんかと一緒にどかんと置かれていて、お客さんは勝手にとって食べて「早寿司○個と、ゆでたまご○個もろたでー」と、お会計のときに自己申告するのです。
食べた個数をちょろまかすような不心得者はいないそうで、さすが徳川御三家の一翼を担う紀伊大納言のお国だと、心から感心したものでした。
夫から繰り返しお話には聞いていたのですが、いざ自分の目でその光景をまのあたりにしたわたしは、非常に興奮いたしました。
とんこつ風味というのはなじみがありませんでしたが、おしょうゆの香ばしさとほんのりとした酸味が心地よく、細い麺の口当たりともあいまってとてもおいしく感じました。
おそるおそる食べてみた鯖寿司も、意外なことにラーメンとすばらしく相性のよいものでした。
こってりしたスープの後味をお寿司の酢が中和して、ああ、これが「マリアージュ」と呼ばれる組み合わせなのかなあと、感動してしまいます。
たまご好きなわたしはテーブルのカゴに盛られたゆでたまごにもついつい手を伸ばし、お鉢の小ぶりさを補ってあまりあるくらい満腹してしまいました。
「ふわあーっ!おいしかったあ!」
お店を出た直後、わたしと夫は同じせりふをハモらせて笑いあいました。
おなかはぽんぽんで、「ラーメンを食べたぞー!」という満足感でいっぱいです。
「伊緒さんのお口にも合ったみたいで、よかったです」
夫がニコニコしながらそう言ってくれました。
ほんとうに、同じラーメンでもまったく違う系統のつくりなのに、どこか故郷の味を思い出させるような懐かしさもありました。
「うん、ありがとう!すっごくおいしかったわ!じゃあ今度は、札幌に行ったときにわたしがおいしいお店にご招待するからね!」
自信たっぷりにそう言ってしまったわたしですが、2軒しかお店を知らないことはまだ彼には内緒です。
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