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30. エクセル、決意する
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「あの剣は、王城の秘密の間で厳重に保管してあるはずだ。誰も取り出すことなどできぬ」
「しかしながら、陛下、殿下があの剣を見間違うとは思えません。それに、殿下の傷がまこと、あの刃によるものだとすれば、治癒能力に長ける殿下が極めて危険な状態に陥っている現状も、納得できるのです」
純粋なる者と名付けられた細身の剣。伝説によれば、剣自体は何の属性も帯びず、使うものによってその属性を変える名刀であったという。伝説の勇者が魔王を滅した際に使った剣であり、魔王の死により、闇の属性を取り込み、その白銀の刃は呪いのため黒く変じたと言われている。
エクセルは知っている。
『銀の聖女』が、その命を絶つのに使用した剣でもあるのだと。
「誰かが持ち去ったのか、それとも業火に焼き尽くされたのか。殿下を傷つけた凶器そのものは、現場から見つかってはおりません。しかし、もし殿下の言葉通り、あの剣が使われたとすれば、おのずと関係者は絞られます」
剣の存在を知り、なおかつ厳重に封じられていた剣の保管場所まで把握しうる者は極めて限られている。そして、その中でアルフォンソに強い殺意を持っているのは・・・
「まさか、今回の事件に王妃が関係していると?」
王の言葉にエクセルは肯首し、皮肉たっぷりに言った。
「今回も、です。陛下はご存じのはずです。妃殿下が、アルフォンソ皇子を亡き者にしたがっているのを。妃殿下は、殿下を疎むだけでなく、心底憎んでおられる。そのご誕生の折から何度も殺害を企てるほどに」
黙した王に、エクセルはほんの少し口調を和らげて続けた。
「だからこそ、殿下を遠方の母方の親族に預け、最強の戦士に育て上げさせた。彼を守るために、成人後すぐに、選び抜いた騎士たちで構成した騎士団のトップに据えた。あなたは、王妃の手から、愛する息子を守りたかった。違いますか?」
考えればわかることだ。なぜ、わざわざ、アルフォンソに王族にとってさえ極めて希少な魔道具『魔鏡』を持たせたか。なぜ、皇子自らに、それを通して王自身に直接、定期報告をするよう命じたか。
ただ息子が心配だったからだ。その無事な姿を自分の目で確認したかったからだ。
政を担う王としては、王家と並ぶ有力一族の出である王妃を、その親族たちを、うかつに切り捨てることはできない。アルフォンソを守るためには、表面上は無関心を装い、冷遇するしかなかったのだ。
それに、王は『伝承の書』により当然知っているはず。王家の血脈に生まれる黒目黒髪の御子の定めを。王家に伝わる伝承が真ならば、皇子が生まれ持つ『黒の救い手』としての宿命、魔との戦いは止められないと。
生まれたときから内なる敵に狙われ、長じては魔と戦い続ける宿命の子。だからこその苦渋の決断。
王は肯定も否定もしなかった。ただ、鋭い視線を、笑みのようなものを顔に張りつかせたエクセルに向けた。
「アルは、アルフォンソ皇子は、亡くなった母君、叔母上に、フォスティーヌ様に生き写しですからね。王としてではなく、陛下個人が欲した唯一の人に。彼女は、王という役目でがんじがらめの陛下が唯一叶えた私欲だった」
「エクセル・カッツェル、お前は自分が何を言っているのか、わかっているのか?この私に向かって?」
「わかっているつもりです。誰よりもよく」
この生真面目な男は、勇者と呼ばれたあの愚か者に本当によく似ている。国を、民を守るため、自分の欲も願いも犠牲にして、王としての義務を果たすことしか知らない名君。
けど、まあ、あの男よりは、ましと言えばましかもしれない。
この男は、自らの立場を無視して自らの願望を一つは叶えることができたのだから。短い時間とはいえ、愛する者を手中にできたのだから。
世界を救った『金の勇者』。
正義を振りかざしたあの男は、結局、一番守りたかった存在を救えなかった。
自分を敬う臣下に友を殺され、最愛の人にその命を奪われた、救いようもない哀れな男。
王は、ふっと目をそらして、ため息を吐いた。
「剣のことは、こちらで、しかと調べよう。この件については、王妃とその関係者にも、しかるべき調べを行う。我が名にかけて誓う。だから、どうか、アルフォンソを、息子を」
助けてほしいと、王は声には出さずに呟いた。
* * * * *
『魔鏡』を通じて王との会見を終えるとすぐに、エクセルは王宮の一室、アルフォンソが手厚い看護を受けている場所へ足早に向かった。
アルフォンソの傷が完治しない原因が、意識が戻らない理由が、あの刃の特性にあるのなら、望みはあるかもしれない。
自分にはあの頃のような魔力はない。けれど、それでも・・・
試してみる価値はある。勝算は決して高くはないが。
手遅れになる前に。
ようやく見つけた『存在』のためにも。
エクセルは何としてでもアルフォンソを救う決意を固めていた。
今生に残された自分の全ての力を使ってでも。
「しかしながら、陛下、殿下があの剣を見間違うとは思えません。それに、殿下の傷がまこと、あの刃によるものだとすれば、治癒能力に長ける殿下が極めて危険な状態に陥っている現状も、納得できるのです」
純粋なる者と名付けられた細身の剣。伝説によれば、剣自体は何の属性も帯びず、使うものによってその属性を変える名刀であったという。伝説の勇者が魔王を滅した際に使った剣であり、魔王の死により、闇の属性を取り込み、その白銀の刃は呪いのため黒く変じたと言われている。
エクセルは知っている。
『銀の聖女』が、その命を絶つのに使用した剣でもあるのだと。
「誰かが持ち去ったのか、それとも業火に焼き尽くされたのか。殿下を傷つけた凶器そのものは、現場から見つかってはおりません。しかし、もし殿下の言葉通り、あの剣が使われたとすれば、おのずと関係者は絞られます」
剣の存在を知り、なおかつ厳重に封じられていた剣の保管場所まで把握しうる者は極めて限られている。そして、その中でアルフォンソに強い殺意を持っているのは・・・
「まさか、今回の事件に王妃が関係していると?」
王の言葉にエクセルは肯首し、皮肉たっぷりに言った。
「今回も、です。陛下はご存じのはずです。妃殿下が、アルフォンソ皇子を亡き者にしたがっているのを。妃殿下は、殿下を疎むだけでなく、心底憎んでおられる。そのご誕生の折から何度も殺害を企てるほどに」
黙した王に、エクセルはほんの少し口調を和らげて続けた。
「だからこそ、殿下を遠方の母方の親族に預け、最強の戦士に育て上げさせた。彼を守るために、成人後すぐに、選び抜いた騎士たちで構成した騎士団のトップに据えた。あなたは、王妃の手から、愛する息子を守りたかった。違いますか?」
考えればわかることだ。なぜ、わざわざ、アルフォンソに王族にとってさえ極めて希少な魔道具『魔鏡』を持たせたか。なぜ、皇子自らに、それを通して王自身に直接、定期報告をするよう命じたか。
ただ息子が心配だったからだ。その無事な姿を自分の目で確認したかったからだ。
政を担う王としては、王家と並ぶ有力一族の出である王妃を、その親族たちを、うかつに切り捨てることはできない。アルフォンソを守るためには、表面上は無関心を装い、冷遇するしかなかったのだ。
それに、王は『伝承の書』により当然知っているはず。王家の血脈に生まれる黒目黒髪の御子の定めを。王家に伝わる伝承が真ならば、皇子が生まれ持つ『黒の救い手』としての宿命、魔との戦いは止められないと。
生まれたときから内なる敵に狙われ、長じては魔と戦い続ける宿命の子。だからこその苦渋の決断。
王は肯定も否定もしなかった。ただ、鋭い視線を、笑みのようなものを顔に張りつかせたエクセルに向けた。
「アルは、アルフォンソ皇子は、亡くなった母君、叔母上に、フォスティーヌ様に生き写しですからね。王としてではなく、陛下個人が欲した唯一の人に。彼女は、王という役目でがんじがらめの陛下が唯一叶えた私欲だった」
「エクセル・カッツェル、お前は自分が何を言っているのか、わかっているのか?この私に向かって?」
「わかっているつもりです。誰よりもよく」
この生真面目な男は、勇者と呼ばれたあの愚か者に本当によく似ている。国を、民を守るため、自分の欲も願いも犠牲にして、王としての義務を果たすことしか知らない名君。
けど、まあ、あの男よりは、ましと言えばましかもしれない。
この男は、自らの立場を無視して自らの願望を一つは叶えることができたのだから。短い時間とはいえ、愛する者を手中にできたのだから。
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自分を敬う臣下に友を殺され、最愛の人にその命を奪われた、救いようもない哀れな男。
王は、ふっと目をそらして、ため息を吐いた。
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助けてほしいと、王は声には出さずに呟いた。
* * * * *
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自分にはあの頃のような魔力はない。けれど、それでも・・・
試してみる価値はある。勝算は決して高くはないが。
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