189 / 226
182 推しと帝国のドラゴン
しおりを挟むそこに、小柄で細身の青年が、騎士に連れられてこちらにやって来た。
「初めまして。私は帝国でドラゴンの管理を任されております、カグラ・ソリュートと申します。伯爵位を頂いておりますが、平民の出ですので、失礼がありましたら申し訳ありません」
おお、この人が!!
ボブっぽい黒髪と、瞳は黒と緑が混ざったキレイな色をしていて、少しそばかすがあるが健康的で可愛らしい青年だ。
想像していたより随分と若く、可愛いね。
もしかしてドラゴンに消された伯爵って、彼にも手を出そうとしてたんじゃ無かろうか。
そんな下世話な事を考えつつ、俺達もそれぞれ自己紹介をした。
「ギル様とテオドール殿下には、直々にお礼を申し上げなければと思っていたのです」
「お礼ですか?」
お礼を言われる様な事って、何かしたっけ?
俺とテオが不思議に思っていると、カグラは実はと話し始める。
「レッドドラゴンが帝国外れの岩山に潜伏していた時に、我が国のドラゴンであるモモルルも気が付いておりました。皇帝閣下へ進言し、もしもの事があった時は、モモルルが全力で対応する事になっていたのです」
帝国のドラゴンって、モモルルって言うのか…。
可愛い名前だなと思いつつ、もしもの時とはと聞く。
「あの時、レッドドラゴンは産気づいておられたのでしょう?そしてとても危険な状態であった。もしも出産が無事では無く、最悪の事態が起きた時、番であるドラゴンは発狂して暴れ回った事でしょう。その時は我が国もトーレ王国も大変危険だったはずです」
おおっと、思った以上にもしもの時だった!
あの時は俺が会話が出来た事と、テオが持っていたレッドドラゴンリーフで何とかなったけど、確かにあの時のドラゴンの殺気には凄いモノを感じたな。
出産が上手く行かずに母体ごと最悪の事態になっていたら、大変なことになってたかも…。
番になるために、遥々遠くまで来たんだからね。
「お二人がドラゴンの元へ向かったとモモルルから聞いた時は、私とモモルルも近くまで行っていたのです。もしもの時は共倒れになっても構わないと覚悟しておりましたが…」
その言葉に、周りの貴族や騎士達も驚いていた。
どうやら一握りの人間しか聞かされて無かったみたい。
「私は平民でありながら帝国で爵位まで頂き、モモルルと一緒に良い生活をさせて頂いております。レッドドラゴンの強さは計り知れないですが、グリーンドラゴンも心が通じた人間と共になら、力を最大限に発揮出来るのです。その時はやはり少し周りを巻き込んでしまいますので、私とモモルルだけが乗り込む予定でした」
えええ~!!!
こんなに小柄で可愛らしい青年が、そこまで覚悟してたのか!!
いや~その心意気、気に入ったよ。
顔には出さずフンスフンスしていると、テオはそうかと頷いていた。
「あの時、実はドンガルバと仲間達も麓で待機していたのだ。もしもの時はギルだけでも逃がそうと思ってな。グリーンドラゴンの待機も知らされていた」
そうだったの!?
そんな状態で俺とテオを行かせてくれた帝国には感謝だな…。
まあ、あの状態なら誰が行っても危険だったから、国を代表してテオが行く事になったんだろうけど。
「そんな危険な状態でギルを連れて行ってしまい、ジャメル家の方々には申し訳無い事をした」
テオはそう言い父様達に頭を下げる。
しかし、父様もホセ兄様もケロッとしていた。
「いえ、その話ならレッドドラゴンに聞いておりましたので」
「そう言えば、殿下やギルには話していませんでしたね。申し訳ありません」
もー!!
レッドドラゴン達は、父様達に話をしておけば大丈夫だろって思ってるんでしょ!?
その通りだから何も言えない…。
俺も勝手に連れ帰ったくせに、父様達に放り投げてるもんね。
そりゃ父様達に懐くよねぇ。
そう反省していると、カグラは驚いた顔をしている。
「あの、ギル様がドラゴンと会話が出来るとは聞いておりますが、もしやご家族もお話が出来るのですか?」
んん?
もしかして、カグラの家族はそうでも無いって事??
「ええ。父と兄二人もドラゴン達と会話が出来ますが…」
「ええ!?あ、大声を出してすみません。驚いてしまって…。私の家族は特にドラゴンと会話は出来ませんし、エルフの国のドラゴンの管理者も同じだと聞き及んでおります。ご家族が皆様会話が出来るとは…」
え、そうなの!?
驚愕の事実を知らされ、父様達と顔を見合わせてしまう。
テオもそう言えばとそうだなと、今更ながら気が付いた様だ。
「ジャメル家が特殊なのだろうか?」
「うーん。父様達は会った時から会話が出来ていましたし…」
俺はてっきり、血縁者は会話が出来るもんだと思ってたよ。
周りも確かにと今更ながら言い出してるけど、父様達とドラゴンの組み合わせが似合い過ぎていて、違和感が無かったみたい。
「ええと、話が飛んでしまいましたね。あの時、ギル様がお話が出来たからこそ、レッドドラゴンの暴走が防げたのです。話が出来なければ交渉も出来ませんからね。おかげで帝国にもトーレ王国にも被害は及びませんでした」
おお、それのお礼でしたか。
でも、勝手にレッドドラゴンを連れ帰ったし、レッドドラゴンリーフの栽培も成功しちゃってて良いのかな。
そんな空気を少~し感じてたんだよねぇ。
そんな事を考えていると、カグラは柔らかく微笑んだ。
「ドラゴンは自分で住処を決めますから、ギル様達の所へ向かった事は誰にも責められません。少しお話をお聞きしたのですが、こちらについて行くと騒ぐ程、皆様に懐いているのでしょう?引き離す様な事をしたら、それこそ我が国以上の怒りを買ってしまいますよ」
おお!!
さすが帝国のドラゴンの管理者!!
気に入りましたぞぉ~!!
489
お気に入りに追加
1,141
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる