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147 推しと貴族の失恋
しおりを挟む「…!!いいえ!!その様な事実はございませんわ!!そちらの女性は嘘をついているのです!!」
アンルカは、真っ青になりながら大きな声でそう反論した。
その間に、困惑していた音楽隊は舞台から降ろされ、音楽祭から一転して糾弾の場に変わる。
「いいえ、嘘ではありません。私とユータルとの婚約を破棄する様に何度も言われました。あの日も、婚約を破棄しないのなら食堂を潰すと脅され、暴れ始めたのです。それを止めようとして、この様にケガをしました」
ココンはユータルにしっかりと支えられながら、皆に傷が見える様にと前に出る。
「ユータル殿と言えば、トロン伯爵家へ養子が決まった騎士ではなかったか?」
「と、言う事は。彼女はもしやパーラ伯爵の忘れ形見ではないのか?平民であるが友人である者に預けられ、不安定になった時もそちらの家族と一緒なら大丈夫だった為に、そのまま預けられたと聞いているぞ」
「なんと!!パーラ伯爵だと!?その令嬢にあんなに酷い傷を負わせたと言うのか!!」
貴族達も話が見えて来た様で、アンルカには軽蔑の視線が集まり出す。
「お、俺もその場にいました!!」
「私もよ!!そちらの女性に、食器を投げつけて、酷い血が出ていたわ!!」
「治癒院に運ぼうとしたら、その女の取り巻きに脅されたんだ!!」
食堂に居たであろう客達が、勇気を出して大声で証言し始めると、アンルカはスゴイ形相で彼らを睨み付ける。
「平民風情が、貴族を糾弾しようなんて!!オール殿下、彼らも嘘をついているのです!どうか彼らにも罰をお与えください!!」
アンルカがそう言うと、証言をした者達は怯んだが、俺もホセ兄様も前にズズイッと出る。
「彼らに罰を与えるのは私が許さない。もし彼らが嘘をついていると言うのなら、私が責任を取りましょう!!弟であるギルが診断もできますので、この場で診断をしても結構です!!」
ホセ兄様がそう声を上げると、観衆はワァッと盛り上がる。
「ホセ様!!」
「ギル様ー!!」
にこやかに観衆に手を振りつつ、俺はズイッとアンルカに近寄る。
「そんなっ!冤罪ですわ!!」
アンルカは怯んだ様に一歩下がるが、周りに注目されている中、何処にも逃げ場は無い。
「…ギルによる診断を許そう。ギルだけでは信用出来ないのなら、私の護衛の魔術師も診断に参加しよう。アンルカ嬢よ。もし冤罪だと言うのなら、このまま診断を受ける様に」
オール殿下の声が響くと、スッと俺の後ろから王室の魔術師が二人やって来る。
アンルカは、さすがに王室の魔術師を否定は出来ない様で、青い顔をしながら俺達の診断を受けるしか無かった。
「出ました」
「それでは、殿下へ結果を」
俺と他の二人の診断結果をオール殿下へ渡す。
実は、こっそりアンルカの本認証も準備して貰ってたのだ!!
オール殿下はしっかりと本認証を確認すると、椅子から立ち上がる。
「…なるほどな。衛兵よ!!シンプラー家のアンルカを捕らえよ!!シンプラー伯爵夫婦もだ!!」
「はっ!!」
オール殿下の指示で衛兵がワッとシンプラー伯爵夫婦とアンルカを拘束すると、あれよあれよと舞台から連れ立って行く。
「嫌!離してください!!そんな、そんなっ」
アンルカは必死で抵抗しつつ、ふとユータルと目があった様で、ユータルの名を叫ぼうと口を大きく開けた。
俺がスッと声が出せない様にしたけど。
この場でユータルに変な誤解が生まれると厄介だからね。
アンルカは何が起こったのか分からない様子で、涙を流しながらユータルを見つめていた。
随分間違った感情だとは思うけど、彼女はユータルを強く思っていたんだろう。
プライドが高く、平民に恋焦がれる自分を受け入れられず、無闇矢鱈に他の貴族の婚約者を探しても上手くは行かなかった。
そして、ユータルがまさかの貴族になる事を知り、思いが暴走したのだ。
引き摺られていくアンルカ嬢に、周りから罵声が浴びせられる。
観衆も盛り上がる中、オール殿下に俺達は頭を下げた。
「素晴らしい花祭りには相応しくない騒動であったが、こうやって真実が炙り出された事は良い事だろう。ココンよ、治癒院へ行けなかったとの事。こちらで治癒を行いたい」
「…っ!ありがとうございます!」
オール殿下の言葉に、フロル様とジェレミー兄様が前に出て来る。
さて、始まりますな。
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