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98 推しとそれぞれの結末
しおりを挟む「ジャメル家にも礼を言う。アルミスから話を聞いた。ギル殿とテオドール殿下に声を掛けて頂いたおかげで、王家主催のパーティーでも周りに溶け込めたと」
お、恩を売っといて良かった。
まあアルミスは可愛くて優秀だから、彼らが阻害されるのは避けたかったんだよね。
父様の視線に、俺は軽く頷く。
「いえ、アルミス様と婚約者殿が大変努力家で優秀なのは、学園でも知られていますし、優れた友人も多いですからね。今回は周りも話し掛けにくい空気でしたので、そのきっかけを作ったに過ぎません」
取り敢えず当たり障り無い様に返しておく。
アルミスとは良い関係を築いて行きたいけど、ダイヤ公爵とは仲良くしたく無いのだ。
父様とシェル様を苦しめてたからね!!
「それにしても、サンジカラが帝国を救うなど。自国の民も救えずにいたと言うのに」
テオがグイッと話を変えてくれて、俺はテオに向き直る。
そうだよね~。
民を苦しめて、ラッカルをブチ切らせた国が、他の国を助けるとか無理な話だよね。
「帝国は民も皇帝を崇拝していますし、人気もありますもんね。サンジカラの様に王族第一主義でも無いのに、彼女は勉強が足りない所の話では無かったのでしょう。勝手に思い込んで、その物語が始まると信じていたのでしょうね」
俺のフォローに、テオは優しく頷いてくれる。
「本当に、彼女の妄想にしては共通点が多くありますが、全く違うお話でしたね。転生したと言う戯言が本当だとしても、生まれた環境が違う時点でお気づきにならないなんて」
リーカイ様の呟きに、オール殿下も頷く。
「確かに。テオドール殿下やニルケス叔父上の存在を知っていながら、全く違う姿で認識していたからな」
存在する人間を、別の人格で認識していたって事だもんね。
「私は随分前に王位継承権を放棄していると言うのにな。それに彼女には会った事すら無いぞ?」
ニルケス殿下の言葉に、確かにと皆頷く。
結構この国を離れてたもんね。
彼女の知ってる話は、この世界のパラレルワールド的な感じがする。
「転生者ですか…。確か、最近発見されたラッカルの文献にも、似た様な女性のお話がありました」
そこに、ジェレミー兄様が話に加わる。
俺その文献まだ見て無いかも…。
さすが兄様勉強熱心だ。
「どの様な話で?」
ドンク公爵に促され、ジェレミー兄様は思い出しながら話し出す。
「確か、お生まれになった時の診断で聖女に匹敵する程の癒しの力を持った、ラッカルの宝石商であるパニール伯爵家のエパーニュ令嬢です。下水道の整備に携わったり、かまどの開発や馬車の発展に尽力されたとか。現在の薔薇も彼女が品種改良したそうです。当時にしては最先端の技術や知識があったので、転生者ではと噂になっていたと。そして、彼女の本人証には不思議な模様があったとか。彼女だけはその文字が読め、本物と書いてあったそうなんです」
パニール伯爵家のエパーニュって。
パニ伯爵家のエパとめっちゃ似てるね。
ジェレミー兄様の話によると百年前の話で、その令嬢は神父と結婚し、その子孫が今のラッカルの四大神父の一人なんだとか。
「うーむ。先程のギルの診断で、エパの本人証にもおかしな模様が浮かんだ。しかし、私やギルには読めなかった。本人に見せた所、偽物と呟いていたので、もしかしたらあれは偽物と言う文字だったのかもしれないな」
オール殿下に言われ、俺は話を合わせて頷く。
読めましたなんて言えないわ。
「ギル、どんな文字だったの?」
「ええと、確かこんな感じで…」
ジェレミー兄様に聞かれて、誤魔化す訳にはいかないので、俺は極力下手な感じで偽物と紙に書く。
「ああ、やっぱり。その文献では、エパーニュ令嬢が本物と言う文字と対に偽物と言う文字も教えた様で、その文字も書かれていたんです。これは偽物と言う文字だそうですよ」
ジェレミー兄様の言葉に、周りは感心している。
つまり、本物は百年前にやって来ていてもう亡くなってるんだな。
かまどや馬車や下水道の整備って事は、俺よりもっと昔の人だったんだろう。
その時にはオール殿下達も生まれてないし、あの変な物語は発動しようが無いから、その時の人と結ばれたんだろう。
それなら、話が変わってくるのも無理は無いのかも。
転生者は時代がバラバラに飛ばされてるのかもしれない。
「私はまだその文献に目を通して無かったです。帰ったら見せてもらえますか?」
「もちろん」
少し反省しつつ、ジェレミー兄様にお願いすると、兄様は笑って承諾してくれる。
「ジェレミー殿はとても勤勉なのだな。その文献は私も知らなかった」
ドンク公爵に褒められ、ジェレミー兄様は笑顔を見せる。
「父や家族が、昔から沢山の本や資料を与えてくれたので。現在はセルジオ様も沢山の本や資料を集めてくださいますし。世界の情勢や昔の話なども、今の私達に必要な情報がありますから、なるべく勉強するようにしているのです。ギルも、私の知らない世界の話を沢山仕入れてきてくれますしね」
周りのおかげですよと謙遜する兄様を、セルジオ様が愛おしそうに見ている。
ドンク公爵は父様の教育も誉めてくれ、何となく鼻が高い。
「転生者と言ったら知識が豊富で、新しい物を開発提案するなんて、まるでギルだな」
テオの鋭い指摘に、一瞬固まりそうになるが、必死で笑顔を向ける。
何でそんなに鋭いの!!
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