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84 推しと二人の宝石
しおりを挟む馬車でちょっとエッチな事をしつつ、俺たちはランデバス商会へと着いた。
テオが俺に指輪を贈ってくれるらしいから、ここは甘えておこう。
「テオドール殿下、ギル様。ようこそいらっしゃいました」
ランデバス家のサイとセーラ嬢が、従業員を従えて出迎えてくれる。
「こちらには良い宝石が多いと聞いている。今日は指輪を作りたいのだが」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
テオの言葉に、サイがすぐに別室へと案内してくれる。
前回セルジオ様達が通された部屋で、一番大きな別室の様だ。
「今回貴重なシルバーブラックのダイヤモンドを入手しました。ご覧になられますか?」
「ぜひ」
そんなダイヤもあるんだね。
テオが見たいと言って持って来て貰ったダイヤは、黒と銀とが星空の様に混ざっていてとてもキレイだ。
「すごくキレイ…」
思わず呟くと、テオは満足そうに頷く。
「私とギルの髪の色だな。気に入った。こちらで指輪を作ってもらいたい。大きさはこちらで、バングルに合わせて下地は金にして欲しい」
テオの選んだ石は、一番大きいサイズだ。
これは中々お高そうだぞ。
「一粒のデザインになさいますか?」
「いや、周りも同じシルバーブラックで囲んで欲しい。サイズはこちらで。バングルと揃いの様にして欲しい。…そうだな。この石でクラヴァットとカフリンクス。そしてピンブローチも作って欲しい。こちらはシンプルで良い」
「かしこまりました。少々お待ちください」
サイが下がると、テオはにっこりと笑顔で俺の手を握る。
ちょっと指輪だけじゃなかったの…?
でも、確かにお揃いに見えるデザインは良いね。
「ありがとうテオ。とてもキレイな石だったから嬉しい。あの石は初めて見たかも」
「あれはラッカルの名産の一つで、私もあそこまで立派な石は初めてだ。良い物が贈れそうで嬉しいよ」
テオとイチャイチャしていると、ドアがノックされセーラ嬢が石を持ってくる。
「失礼します。こちらギル様ご要望の宝石です」
「ありがとう。自分で加工したい物があったから、石だけ購入しようと思ってたんだ」
並べられた石は、ハートや星などの形に加工されており、俺の目的に必要なモノなのだ。
「ふむ。こちらも私が支払おう」
「あんなに素敵な指輪や、他にも沢山の物を頂くのに…」
「ギルが身に付けるのだろう?それなら私が贈らねばな」
テオったら俺に甘いんだから。
そんなとこも好き!
俺は自分のポケットマネーで十分買えそうだけど、テオに甘えておこう。
「嬉しい!それなら、この赤のハートを二つと、銀の星を二つ。サイズはこれくらいで」
「小さいが、良いのか?」
「うん。このサイズが良いんだ」
ニコニコとテオと会話する俺を、セーラ嬢が微笑ましく見ている。
その左手には、この前には無かった指輪が光っていた。
「それでは、こちらを。…セーラ嬢も指輪を?」
「ええ、私も婚約者に贈ったんです。ギル様がテオドール殿下にバングルを贈った話が皆様に好評で、最近は男女関係無くお相手に贈る行為が流行っているんですの」
おお、なんだか照れ臭いけど新しい流行りが出来ているなら良い事だね。
「それでは、こちらはお包みして参りますわ。そろそろ指輪も出来上がる頃合いですので、お待ちくださいませ」
さすが早いねと思いつつ、テオとお茶を飲んでいるとサイが指輪を持ってくる。
「お待たせいたしました。こちらの出来上がりでよろしいか、確認をお願いいたします」
赤いベルベットの上質なリングピローに置かれた指輪は、とてもキレイだ。
テオは、躊躇なく手に取ると満足気に頷いた。
「ふむ。とても良い仕上がりだ。…テオ。左手を」
「はい」
テオに恭しく左手を持たれ、薬指にそのまま指輪が嵌められる。
シルバーブラックのダイヤは、力強い金地に良く合い美しい。
「とてもキレイ。バングルとお揃いだね。ありがとうテオ」
俺は笑顔で言い、今度はテオの左手薬指に指輪を嵌める。
ゴツめのデザインだけど、テオに良く似合う!
「うむ。良い買い物だった。素晴らしい魔術加工だ。これからも贔屓にさせてもらう。帝国のポートランス公爵にこちらの店を紹介しても?この技術がある宝石店になら、喜んで宝石を卸すだろう」
「ありがとうございます。ポートランス商会の宝石を扱えるなど、大変光栄です」
帝国の宝石商とのルートが太くなれば、この国への宝石産業も盛んになりそうだ。
宝石はあまり取れないけど、加工技術は逸品だからね。
セーラ嬢がキレイに包まれた宝石を持って来てくれたので、俺たちはカフェに移動する事にした。
「支払いは全て私で頼む」
「かしこまりました。ご利用ありがとうございました」
商会の方々に見送られ、次の目的地はアイール伯爵家のカフェだ。
昼食はがっつり摂らず、軽く軽食を食べるくらいが貴族達の昼食だったりするから、カフェが丁度良い。
そう思いつつ指輪をニコニコと眺めていたら、テオの手が重なる。
「気に入ってくれたか?」
「うん!とても。こうやってお揃いを身に付けられて嬉しい」
素直に喜ぶと、テオは頬にキスをする。
「購入した宝石で、ギルは何を作るんだ?」
あ、気になるよね~。
テオの手をにぎにぎしつつ、上目遣いでテオを見る。
「…。カバーを作ろうと思って。胸の」
イタズラっぽく言うと、テオは色気たっぷりに笑う。
「もっと購入して良かったんだぞ?二人だけの宝石なのだから」
「そんな贅沢はしたくないの。二人でお揃いで、周りにアピールできるモノの方が素敵でしょ?」
そう言うと、満足そうにテオがキスをしてくる。
テオは次は別の揃いでクラヴァットや、カフリンクスも作りそうな勢いだけど、無駄遣いにならない程度なら喜んで受け取っておこう。
テオの愛の一つだからね。
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