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47 推しと元貴族
しおりを挟むウォーク夫妻が連行されると、オール王子が皆の前に出る。
「ウォーク伯爵夫妻の悪行は、娘のカイラにより全て明かされている。二人は今後パニ伯爵と共に処罰を受ける。嘆かわしいことに、二つの家と同じ様に動いていた貴族も数名確認が取れた。取り敢えず、今回の膿出しは以上だ」
王子の言葉に、心当たりがありそうな貴族は顔を青くしているが、他の貴族は頷いている。
こんなやりとりが毎年あるとか怖いわ。
もちろん今回の様な大捕物は数年に一回あるか無いからしいけどね。
「ウォーク家の爵位は一旦王家預かりとなり、先代の子息はドンク公爵家預かりとなった。夫妻の娘であるカイラは今後取り調べを受け平民となる。それでは皆、ここからはパーティーを楽しいんで欲しい」
王子の声に、皆は頭を下げ、カイラは衛兵と共に部屋の外に出て行こうとする。
「…姉様っ!」
双子は揃って姉の元を追いかける。
「…私はもう、姉ではありません」
「!!」
「…どうか、幸せに」
双子を振り返りもせず、カイラはそのまま衛兵に連れられて行く。
静かに涙を流す二人を、ドンク公爵夫人が優しく慰めていた。
俺はそれを、静かに見ていた。
「…ギルや。彼女を知っているのか?」
お祖父様の言葉に、いいえと笑顔で答えると、お祖父様はそうかと納得してくれた。
嘘だと分かっていてもそれ以上は聞かないお祖父様の優しさがありがたい。
カイラとは、隣国のギルドで初めて会った。
その時は既に腕を切り落とし、双子にはその事は告げずに両親を騙すよう指示していた。
最優秀クラスに入れば、両親が嫌がらせをするだろうと、目立たないように指示をし、陰で二人にしっかり教育を受けさせていた。
俺の事も知っていたが、周りには何も話さずにいてくれたのも、大変ありがたかった。
国では母親の言う通りに着飾っていたが、隣国では顔半分をマスクで隠し、パンツ姿でさながら女性騎士だ。
周りの人にも分け隔てなく接し、ギルドでは魔物討伐などを行い金銭を集めていた。
その金銭を使い、両親や他の貴族の悪行を暴く準備に奔走していたのだ。
『両親の悪事を暴き、双子にきちんと爵位を譲りたい。サンジカラと繋がりのある貴族の動向も把握している』
『そしたら、あなたにも処罰が下るのでは?』
『覚悟の上だ。…私は元はしがない貴族の娘。聡明だった先代の死後、混乱の中で私の父が後を継いでしまった。お祖母様が存命中は静かにしていたが、やはり両親は欲深く派手好きであったから。双子には辛い思いをさせてしまった。私の様な姉は居なかった事にして、幸せになってもらいたい』
俺は彼女の強さに胸を打たれた。
そして、血は繋がらなくても兄弟を救いたいと言う気持ちにとても賛同したのだ。
俺の力も使い、ウォーク伯爵家とパニ伯爵家の繋がりや、サンジカラの絡みを調べ上げ、今日の日に至った。
『私は、運よく処罰を免れたらこの国を出て行こうと思っている』
『どこへ?』
『マラサッタから、ラッカルへ行こうと思っている。何度かパーティーを組んでいる人にラッカルで冒険者として暮らさないかと誘われていてね。私の話も全て受け止めてくれた。向こうで、新しく生きていこうと思う』
『…そうか。あなたが処罰を受ける事になったら、俺が全力で抗議するよ』
『ふふ。ありがとう。でも、その時は貴族として罰を受けるよ。君は私の事を口にしない方が良い。協力に感謝する』
貴族ではなくなるという彼女が、貴族に相応しいとは皮肉な話である。
「ギル、そろそろダンスが始まる」
「はい」
お祖父様に誘導され、俺は目立たない場所へ移動する。
ダンスが始まれば、国外からのお客様もゾロゾロ移動してくる。
「上の二人はお相手が決まっているが、ギルは一人だからな。レッドドラゴンリーフの事もあり、お前に婚約を迫る者も出てくるだろう。ダンスの誘いは無理に乗らなくて良いぞ」
「分かりました。…私を誘う勇気がありますかね」
「うーむ。それも問題だがの」
お祖父様との会話を楽しみながら、音楽隊の準備や来賓の登場を静かに待つ。
「お聞きになって?マラサッタ帝国の皇帝弟君がいらしているんですって!」
「まぁ!今回の事で?」
近くの令嬢達がきゃっきゃと話をしている。
リリーの件での謝罪も含め、位の高い貴族が来るであろうとは思ったが、まさか皇帝の弟を寄越すとは。
そこまでしたらこちらも文句を言えないな。
「皇帝には弟殿下が二人と、妹殿下が二人いらしたわね?」
「妹殿下は二人とも嫁がれているわ。下の弟殿下もラッカルから婿を取ったようで、今回いらっしゃるのは上の弟殿下かしら」
「あら、上の弟殿下はあまり表に出てらっしゃらないわよね?以前帝国の皇帝閣下達の従姉妹にあたる公爵令嬢が、上の弟殿下の子供を成したと話題になったけれど…。殿下のご子息ではなかったとか」
「そうそう。公爵令嬢の嘘だったそうですわ。診断の結果も違った様で、隣国に訪れた時は騒ぎになっていましたもの」
「あらぁ。素敵な女性だと聞いていたけれど…」
ワイワイとゴシップ話に花を咲かせる令嬢達の言葉に、確かに皇帝の弟の情報は少ないなと思い出す。
妹達は近隣の国の王族へ嫁に出て、下の弟はラッカルの貴族を婿に迎えて公爵の爵位を授かったと聞いている。
皇帝は息子が三人いて後継も決まっているから、上の弟は独身貴族なんだろう。
そんな事を考えていると、王族の入室になり、王がそれぞれ来賓の紹介を始めた。
あーはいはいと思いながら、俺は一応視線を向ける。
「本日は多くの来賓が来ている。皆無礼の無いように。ラッカルからは…」
一人一人紹介されて行く中、最後に紹介されるであろうマラサッタからの来賓に目が止まる。
「え?」
「どうしたんだい?ギル」
「あ、いや。ええと…」
俺がそれ以上声を出せずにいると、お祖父様が心配そうな顔をする。
それでも、俺は最後に王の隣に並んだ男から目が離せない。
「マラサッタ帝国からは、皇帝閣下弟君の、テオドール・マラサッタ殿下がいらしてくれた」
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