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45 推しと貪欲な貴族
しおりを挟むオルネス伯爵家は、豪華絢爛な家具から、質素だが良質な家具や生活道具を幅広く取り扱っている名家だ。
伯爵家と公爵家の息子同士が幼馴染なのも、オルネス伯爵家が優秀だからである。
水の管理を疎かにして、自分達の快楽に走っているウォーク家は、貴族の間でも鼻摘み者になっている。
しかし、当時の王のお気に入りだった事と、先代伯爵が優秀で人望があった事、そして水質が悪くても水が止まっては困る為、周りは苦言しか出来なかったのだ。
そんな中、オルネス伯爵は俺の開発した浄水魔術水道を持って、直接王家に直訴しに行ったのだ。
さすがに王家や周辺には良い製品を卸していた様で、事の顛末を知った王は大激怒したそうだ。
水質管理を任されていたくせに、どうやらそのデータも改竄してたみたい。
公爵家やその他の上位貴族には良い製品を使い、疑われてない様にしていたのも腹が立つよね。
オルネス伯爵が淡々と説明すると、粗悪品を高額で買わされていた貴族達は一家を睨み付けていた。
「どおりで。最近羽振りが良いはずですな」
「まぁ、それも今期まででしょうね。管理者は交代が決まったようですから」
「あら、爵位返上も耳にしましたわ」
「では、お会いするのは今日が最後かしら?」
ちくちくした言葉の中に、聞き捨てならない言葉が多く、ウォーク伯爵は青くなっていく。
元々、溺愛した娼妃の息子に爵位を与えた時も不満は出たのだが、先代伯爵が優秀だった事もありそれは消えていた。
当時の王も先代伯爵も亡くなっている為、爵位返上もおかしな話ではない。
当時の王が早くに亡くなると娼妃は城を出され国外へ出て、正妃が女王となり、立派に勤め上げた。
それが後にドンク公爵家に降下した女王だったりする。
そんな事を考えていると、父様達が帰って来るのが見えた。
話はついた様で、王家の方々、ダイヤ公爵やドンク公爵の姿も見える。
そして、衛兵がウォーク夫妻を取り囲む。
「な、な、何を!?我々が何をしたと言うのです!」
伯爵が声を荒げると、第一王子のオール様が前に出る。
パーティーと言う名の、膿を出す場でもあるし、第一王子が取り仕切る事で直訴国王のアピールもあるんだろうな。
「我が国の水道の管理を怠り、更に横領の容疑。そして、先代伯爵の子供達に対する虐待の容疑が掛かっている」
「なんですって!!まさか、あんた達!!」
伯爵夫人が、貴族らしからぬ口調で、双子を睨み付ける。
俺がサッと双子を後手に庇うと、事態を把握したお祖父様がすぐに周りに声を掛ける。
「ふざけないで!!コレが見えないの!!」
夫人が手を挙げると、その手には凶々しい玉が握られていた。
「!!アレは!!」
「まさか!!」
周りの貴族が騒ぎ出す。
そして、青い顔で震え寄り添い合う双子に、何が起きているか悟る。
「これは奴隷具よ!!私に何かしたら、そこの双子が死ぬと思いなさい!!」
奴隷具。
文字通り、奴隷を好きに扱うための魔術道具だ。
魔術を掛けた首輪や腕輪を相手に装着させ、激痛を走らせたり、そのまま爆発させたりできる危険な道具である。
しかし、現在では人権問題もあり、多くの国で禁止されている。
使用しているのは問題のサンジカラくらいであろう。
「まさか、ウォーク家もサンジカラと?」
「くそ!なんてことだ!」
周りが手を出せずにいると、ウォーク夫人は俺を見て鼻で笑う。
「あんたが優秀であろうと、この魔道具は簡単には外せないわ。操作するためのこの玉は簡単には壊せないの。絶対に外せない様に、特別な物なの。普通とは違うのよ」
「…」
俺が言い返さないでいると、夫人は楽しそうにケラケラ笑う。
「こんな所で終わる訳にはいかないのよ。さ、道を開けなさい。それとも罪の無い子供を見殺しにするつもりかしら?この子達は私達の土偶よ?それとも、死んだ伯爵の子供なんて見殺しにしても良いって考えかしら?」
取り囲んだ衛兵達は、どうしたものかと一歩下がる。
しかし、夫人の発言を聞き、第一王子は後ろに声を掛けた。
「…君の話は全て本当の様だな」
ザッと視線の集まる先に。
ウォーク夫妻の娘が立っていた。
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