7 / 227
5 推しのお家へ
しおりを挟む「ギル殿。迎えの馬車が来ているんだ」
「はい。ご一緒させて頂きます」
放課後にフロル様に声を掛けられ、俺はウッキウキした気持ちを隠しながらフロル様と一緒の馬車に乗り込んだ。
いやはや、公爵家の馬車は凄いな。
椅子はフッカフカだし、大きい。
揺れないよう魔術も掛けられているし、こんな馬車ならジェレミー兄様の体にもさわらないな。
今度帰ったら早速作ってみよう。
浮かれてワクワクソワソワしながら座っていると、フロル様に心配される。
「こんなに立派な馬車に乗るのは初めてなので、緊張します」
正直に話すとフロル様は優しく微笑んでくれた。
「ふふふ。いつもクールなギル殿もそんな一面があるんだね」
こんな感じで推しと夢のような会話をしながら、公爵家の門をくぐる。
「そういえば、放課後に我が家に来ることは、ご家族にはこちらから連絡をさせて頂いたよ」
「わざわざ、ありがとうございます!」
「ふふ。父の恩師でもあったリネー伯爵だからね。失礼な真似はできないよ」
ご存じだったんだと感動する。
俺は元々フロル様とは最優秀クラスでご一緒な訳なのだが、推しはひっそりじっくり見ていたいタイプだし、基本的に一人行動が好きな人間である。
最優秀クラスは皆の輪に積極的に入らなくても責められたりはしないし、個人を尊重してくれるのでとても良いクラスだと思う。
そんな訳で、俺は裏で情報を仕入れまくってクラスの皆の情報は持っているのだが、俺はミステリアスな魔術の天才として通っている。
母方の祖父は国内でも優秀な魔術師であり、学園の教師でもあったヘロルト・リネー伯爵。
優秀な魔術と功績で伯爵の爵位を授かっており、領地はジャメル伯爵家のお隣。
そんな訳で、コリーヌ母とゼノン父は幼馴染からの結婚であったのだ。
コリーヌ母は祖父に似て大変優秀であり、そして容姿は祖母に似て美しく分け隔てなく優しく、大層モテたそうだ。
男女共に人気があったので、ゼノン父は随分嫉妬されたようだ。
しかしコリーヌ母がゾッコンであり、他の爵位の高い貴族からの婚約の申し入れがあった際は、断ることが出来ないのなら修道院に入りますと宣言したのだ。
祖父は両親の結婚後は領地をジャメル家へ譲り、学園の教師として暮らしやすい王都に屋敷を構えていた。
先の戦で一人娘を亡くしてからは、随分気落ちしていたのだが、俺が学園へ通う為に居候するようになってからは元気になっている。
現在は教師を引退しているのだが、可愛い孫には惜しみなく指導してくれるし、高齢ではあるが足腰の丈夫なダンディな紳士である。
そして俺が同じ黒髪黒目なので、随分可愛がってもらっている。
そんな事を考えていると、王都というのにとても広い庭が目に入る。
大変綺麗に剪定された草木と、美しい花々に感動する。
やはり田舎の伯爵家とは違い、洗練されている庭に感動しつつ、屋敷前に到着した馬車からフロル様に続いて降りて行く。
入り口には数人のメイドやら執事やらが並び、フロル様のお迎えをしていた。
「お帰りなさいませフロル様。ギル様も、ようこそいらっしゃいました。お荷物はこちらでお預かり致します」
さすが公爵家である。
俺の訪問は事前に知らされていたようで、皆が一斉に頭を下げる。
仕事の出来るザ・執事の出立のイケメン中年男性が、流れるようにフロル様から荷物を受け取り、後ろについていたメイドに手渡す。
「さ、旦那様とお兄様がお待ちです。こちらへどうぞ」
「ありがとうクラード。さ、ギル殿こちらへ」
「はい。お邪魔します」
そして他のメイドがにこやかに俺から荷物を受け取ると、クラードと呼ばれた執事は誘導するように歩き出す。
茶髪で美しく刈り上げられた襟足に、美しく撫でつけられた前髪。
きっちりと執事服に包まれているが、中々の肉体をしているのは見てわかる。
このクラードという執事は、多分というかきっと腕も立つんだろう。
先程荷物を受け取ってくれたメイドも、メイドらしからぬ手をしていた。
あれは剣術をしている手だ。
公爵家やらに務める執事やメイドは、下位貴族や良い商家の子供が多い。
育ちが良いので失礼の無いよう動けるし、嫁入り前の修行にもなるからだ。
しかし先程会っただけでも、数人は腕の良さそうな騎士上がりを感じさせる者が居た。
それだけ公爵家に使えるということは危険もあるだろうし、腕も必要なのだろうと考えつつ執事とフロル様に付いて長い廊下を歩く。
応接室であろう扉を執事がノックする。
「旦那様。セルジオ様。フロル様とギル様をお連れ致しました」
「ああ、入ってくれ」
中から、柔らかいが力強い声が聞こえる。
そして扉が開かれた。
_____
330
お気に入りに追加
1,141
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
勘違いの婚約破棄ってあるんだな・・・
相沢京
BL
男性しかいない異世界で、伯爵令息のロイドは婚約者がいながら真実の愛を見つける。そして間もなく婚約破棄を宣言するが・・・
「婚約破棄…ですか?というか、あなた誰ですか?」
「…は?」
ありがちな話ですが、興味があればよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる