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八、逃避行
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私は先が見通せなかったので、ゆかちゃんに相談した。すると、かずまの家に警察が毎日来ていて迷惑がかかっているとの事だったので正式に家に帰る事を決意した。しかし、私は両親から怒られる事を恐れた。それに上手く両親に思ってる事を伝えられるか分からなかったのだ。そして一番心残りなのがもっとkurahaと一緒に居たかった。
「帰ったら親に上手く説明できるか不安だな…」
私は一人言のように呟いた。するとkurahaは信じられない事を口にした。
「じゃあ私も着いていって一緒に説明するよ」
嬉しかった。この冒険がまだ続く事が。何よりkurahaと一緒に居られる事が。私はkurahaの厚意に甘える事にした。私はもっとこの先ずっとkurahaと一緒に居たい。一緒に苦楽を共にしたい。私はこの三日間でそんな思いが湧いてきた。かずまと一緒に過ごす為に両親を説得する為に家出をしてきたという当初の目的は忘れていた。これからはこの先の二人の幸せの為に大人と闘う。
夜になり、私はkurahaと一緒に寝たいと言った。これが最後の夜であり、寄り添って寝たかったからだ。kurahaは最初は狭いよと笑って拒否していたが、最終的には
「良いよ」
と言ってくれた。私達は寝っ転がりながら二人の未来を考えた。群馬に来たらこんな事がしたい、させてあげたい。二人で目を輝かせながらこれから先の未来の事を想像した。
「私さ、桜一回も見た事ないんだ」
kurahaは寂しそうな顔で言った。
「え!?なんで!?」
桜は全国に咲いており、そこら中に咲いているはずだ。
「この時期検査入院だからさ」
kurahaは笑ってそう言った。笑った顔が寂しげで無理に笑っているような表情だった。
「じゃあさ、東京行ってかずまとゆかちゃんとクラちゃんと私の四人で桜見ようよ!この冒険で大人と闘ったメンバーでさ」
私は話しながら想像をした。きっとこのメンバーで花見をしたら楽しそうだ。
「いいね!ゆかちゃんやかずまくんと会うの楽しみだな」
kurahaも目を輝かせながら賛成してくれた。
「あとあと!群馬に行ったらエルちゃんに会いたいな」
エルはクミのTwitter名だ。
「もちろん!三人で遊ぼうね!」
クミと私とkurahaの三人で遊ぶのも楽しそうだった。想像するだけでも楽しい。
「エルちゃん可愛いだろうな~」
kurahaはシャーペンを持ってイラストを描き始めた。一分ほどでクミのミニキャラを描き上げた。可愛いイラストだ。何となくクミに似ている。kurahaは絵を描く事が上手でそんな所も尊敬していた。
二人で楽しい話をしながら気付いたら寝付き、朝になっていた。二人で作戦を立てた。
飛行機は昨日の夜に明日の飛行機を二人分予約してあるので準備万端だ。今日の夕方頃に二人で家を出て、カラオケで朝まで過ごし、バスがある北見ターミナルまで歩いて行くつもりだ。北見ターミナルから女満別空港へ行き、二人で羽田空港へ行って電車で私の家へ向かうつもりだ。家出の期間は
kurahaはスーツケースを出してお泊まりセットを用意しているようだ。紙に何か書き出したので
「何書いてるの?」
と聞くと、
「警察に通報したら通報した人の目の前で首を切って死にますって書いてる笑」
kurahaはあっけらかんと答えた。kurahaの覚悟は凄い。私なんかと比べ物にならないくらいに。
「そしたらさ、通報されないでしょ?」
確かに通報されないだろうと思った。いくら子どもの事が心配でも、通報したら目の前で死んでしまうんだから誰も怖くて出来ないだろう。人の死を間近で見るのはトラウマに残る。自分の身内なら尚更だ。私もkurahaと同じように家族を脅していればこのように警察に追われる事は無かったのだろうか。
私達は準備万端という事で早速歩いてカラオケに向かった。北見バスターミナルからkurahaの家まで遠くは無いが、中々の遠さだった。しかし、休めるような所も無ければ、休んでいる暇も無い。辺りはすぐ暗くなってしまって道が分からなくなってしまうからだ。痛い足を引きずりながらカラオケに着いた。
カラオケでは少し歌った。朝まで居れるから少しくらい娯楽をしようと思ったのだ。歌っている途中でkurahaのスマホが鳴った。どうやら電話がかかってきているようだった。
「もしもし」
kurahaは電話に出る。どうやら伯母さんから電話がかかってきたらしい。恐らく家に帰るように促されているのだろう。
「もう限界なの!!!」
kurahaはそう言って電話を切った。私は彼女にどういう顔を向けたら良いか分からなかった。私のせいで家出を実行させてしまったのだから。私はkurahaに向ける顔が無かったが、彼女は笑った。また悲しそうで辛そうな笑顔だった。
kurahaはストレスを発散させる為だか分からないが、連続して悲しい曲を歌った。歌声は切なくて聞いているこっちまで悲しくなった。kurahaにこんな思いをさせてしまったのは私が原因だ。私が提案しなければ、迷惑をかけていなければ、そもそも北海道に来なければ…色々な思いが巡った。しかし、覚悟が出来ていないのは私だけだ。kurahaは命をかけてまで覚悟をしてくれた。私はその気持ちに応えないといけない。気合いを入れた。最後までkurahaを群馬に辿り着かせる。責任を持つ。その覚悟を持った。
カラオケで歌い切ったら睡眠を取っていたが、問題が発生した。十八歳未満だからと八時に追い出されたのだ。カラオケに居られないのは困るので
「私、十八歳です」
と嘘をついたが、身分証が無いため、追い出されてしまった。その後、ネットカフェに行ったが、そこでも身分証が無い事を理由に追い出されてしまった。
私達は途方に暮れた。カラオケからネットカフェに歩く際にもう足が限界だった。ネットカフェがダメならもう泊まれる所はないだろう。私達は仕方なく公園に居座る事にした。ブランコを見ると、雪で危ないからだろうか。ぐるぐる巻きにされて乗れないようになっていた。ベンチで座りながら足の疲れを癒すが、北海道の冬を舐めていた。気温はマイナス十度という信じられない気温だった。二人で私が持ってきたタオルや毛布を被ったり、手袋をしたり、カイロを持ったりして寒さを凌ぐが、震えるばかりだった。
このまま目を閉じたら二人とも凍死してしまう。何かしなければ…
「お腹空かない?」
思えば、お昼から何も食べていない。パワーを付ける為にも何か食べないといけない。家から持ってきたおやつカルパスとチーズかまぼこ、ハイチュウを二人で分けて食べた。
そこから一時間程公園に滞在するが、限界が来た。
「ちょっと移動しようか…」
kurahaも限界なのだろう。
「そうだね、どこか室内に入ろう」
私はどこか室内に入る事を提案した。このままだと生き延びる事が難しいと感じたからだ。
二人で歩いていると、ふとkurahaのかじかんだ手が目に入った。kurahaは手袋をしてこなかったのだ。私はkurahaに半分手袋を貸してあげる事にした。kurahaは遠慮してたが、
「こうすれば寒くないでしょ」
私は片方の手袋を外してkurahaの手を握った。
「うん。暖かいね」
kurahaは少し笑った。kurahaの手は冷たくて少しだけ暖かった。
私はkurahaの彼氏の事を聞いた。彼氏さんはネットの人で『ピッピ』という人らしい。ネット恋愛だが、私とかずまよりも長く続いていて常に電話をしているらしい。愛おしそうに語るkurahaを見ると本当に幸せなのだろう。私は少し罪悪感を感じた。
近くを歩いていると、TSUTAYAを見つける。そこのトイレで時間を潰す事にした。室内というだけで暖かい。外の気温とはだいぶ違った。ここにずっと滞在しているのも良いと考えていた。しかし、外からの足音が聞こえた。私はかずまのマンションのロビーに滞在した際に警察が来た事を思い出した。ここにずっと滞在していると怪しまれて警察が来るような気がした。
「ここにずっと居るのは危険かもしれない」
私は外に出る事を提案した。行く宛てが無かった私達は再び別の公園を探した。
公園に着くとまた地獄の始まりだった。先程の公園より周りに住宅地が無いので人にバレづらい場所にあったが、時間が経ったからなのか寒いような気がした。二時間程我慢をするが、死ぬほど寒い。震えるkurahaを見ていると、私と同じくらいの身長のはずなのに小さく見えた。
目を離したら消えてしまいそうだった。大人っぽくて考え方も生きてきた経験値も大人なkurahaが子どもに見えた。ああ、本当はkurahaはまだ幼い。kurahaが大人に見えるのは育った環境のせいだ。本当はまだ守るべき存在だったんだ。そんな事にも気付けなかった。
「寒いし…お腹空いたね」
私は再び歩く事を提案した。私が守らなくては。消えかけている命を救わなくてはいけない。
私達はとりあえずコンビニ行く事にした。コンビニで私はパスタを購入し、kurahaはサンドイッチを購入した。コンビニの時計を見ると0時を回っていた。こんな時間に出歩いた事などもちろん無かった。そしてまだ0時だという事に絶望してしまった。これから朝まで外で過ごさなくてはいけない。私も彼女も限界だった。
コンビニを出て歩いていると、マックを見つけた。私は東京でマックに滞在していても怪しまれなかった為、ここでもいけると思っていた。
おまけにマックは二十四時間営業なのでここで朝まで過ごせるだろうと考えていた。
私達はマックに入り、飲み物だけ購入してコンビニで購入した食べ物を食べる。kurahaはどうやら別のお店で購入した物をマックで食べるのはいけない事だと考えていたようだった。しかし、私は大丈夫だろうと軽い気持ちで考えていた。
マックでは作戦を考えていた。私とkurahaはTwitterで知り合い、お互い住所を知っていた。その為、電子機器を使わなくとも来れたという設定にしようという話にした。警察や両親に電子機器でやり取りしてた事をバレたくなかったからだ。私は辻褄が合うようにkurahaが書いてくれた住所を暗記した。
暗記していて脳が疲れたのとマックの中とはいえ、寒かったので顔を伏せて寝ていた。すると、顔を上げた瞬間予想もしなかった出来事が起こった。『警察』がいたのだ。四、五人の警察に囲まれた。もうどうする事も出来ないと思った。もうこれでkurahaが群馬に来るという希望が砕けてしまった。絶望に満ちた。楽しい未来を想像していたから余計に。
「狩野愛奈さんだよね?」
警察は私に声をかけてきた。
「はい。」
そう答えるしかなかった。違いますと答えても、逃げても捕まるだけだ。こんなに沢山警察が居たら逃げれるわけがない。
「何でか分かるよね?署まで来てくれる?」
ああ…もう全てが終わってしまった。明日帰ろうと思ってたのにこんなにも運が悪い事があるだろうか。
「あれ君は?名前は?どうしたの?」
警察はkurahaの存在に気付いたようだ。どうやら私に気を取られて気付かなかったらしい。
「佐藤遥 」
kurahaはぶっきらぼうに答えた。
「君達未成年なんだからこんな時間に出歩いちゃダメだよ」
警察はそう言って私とkurahaにそれぞれ二人ずつ付いていった。どうやらパトカーもkurahaと分かれるらしい。私は警察署では一緒に居れるだろうと考えていた。
パトカーの中では私を挟んで警察が座った。そんな事しなくてももう逃げないのに。犯罪者の気分だった。
警察署に着くとkurahaがゆかちゃんにDMで
「け」と打っている姿が見えた。事前に警察が来たら「け」と打ってやり取りを消すようにゆかちゃんから指示されていた。kuahaは指示通りにやっていた。私はそれが最後に見るkurahaの姿だった。
警察署では取り調べが行われた。
「どうして家出したの?」
「どうして北海道に来たの?」
など在り来りの事を聞かれた。私は今までの経緯を簡単に話した。警察の人は優しく私の話を聞いてくれた。警察から家族に見つかったと電話をしたらしい。もう時刻は恐らく二時過ぎだろう。
「北見何も無いでしょ?笑」
「札幌とか函館とかそっちの方が良かったんに笑」
などフレンドリーに話し掛けてくれたので私もあまり緊張せずに話す事が出来た。そして驚いた事に食事を提供してくれたのだ。
「カップラーメンあるよ」
「パンもあるけどどうする?」
警察の方がお腹空いてるだろうと提供してくれたのだ。私は両方受け取り、快く頂いた。すると、若い女の人が話し掛けてきた。
「ボカロ好き?」
私は趣味が合う人を見つけ、楽しく話した。どうやら彼女はまだ十八歳らしい。十代の頃からこんなに遅くまで働いている姿に感動した。
「よく一人で北海道まで来たね」
「行動力があるね」
と皆褒めてくれた。何だかくすぐったい気分になった。何より、
「家出は悪い事ではないからね。もちろんしてはいけないんだけども」
と言ってくれた事が凄く嬉しかった。私は多くの人に怒られる事をしていると思っていたが、私のした事は間違っていない。そう思った。
警察署で朝まで寝た。酔っぱらいのおじさんが吐いた部屋らしいが、特に臭いがしなかったので敷かれていた布団で寝た。本来なら知らない場所ではあまり寝られないのだが、疲れていたのだろう。寝てしまった。
警察署では結局、kurahaに会える事はなかった。私はkurahaに「ありがとう」も「さようなら」も言えていない。あんなに沢山の事をしてもらったのに。後悔でいっぱいだった。こんな事になるのなら、kurahaを連れてくるべきでは無かった、一人で帰ればkurahaに迷惑をかける事は無かったのだ。あの時、私がマックに入ろうなんて言わなければ見つからなかったのかもしれない。全て私の責任だった。kurahaは今頃大丈夫だろうか。私は憂鬱な気分で目が覚めた。
朝になると、どうやら北見児童相談所へ行くらしい。私は言われるがままにパトカーに乗り、北見児童相談所まで送って行ってもらった。
児童相談所でも警察と同じような事を聞かれた。
「どうして家出したの?」
私は警察署と同じように理由を話す。同じような質問に飽き飽きしていた。
聞き取り調査が終わると、子ども達が居る所に案内された。
児童相談所では十人程の子ども達がいて年齢は様々だ。誰も私が何故ここに来たのか尋ねてくる人は居なかった。恐らく一人一人様々な事情でここに来ているからだろう。無邪気にはしゃぐ子どもでありながら事情を察してくれる人達で安心した。それと共に私よりも小さな年齢から家庭の事情を抱えている事を考えると何とも言えない気持ちだった。
児童相談所では快適で皆優しくて明るいので、深い事情を抱えているようには見えなかった。
一日で友達が出来て先生方も優しくて素敵な場所だった。強いて言えば、自由を奪われているという事だろうか。ここでは通信機器であるスマホはもちろん、中に持って行ける荷物も限られている。お風呂の時間も決まっていて、確かに自由は多いが、縛られる自由も多い。外にはもちろん行けないし、まるで牢獄のようだった。
私にはそう感じた。一日だけなら楽しかったという気持ちで終わるが、恐らく何日も何ヶ月も居ると嫌になるだろう。そんな空間だった。もちろん先生や子ども達が沢山居て良い環境だが、私には少しだけ息苦しかった。
夜になると、両親が迎えに来た。皆と離れるのは少し心苦しかったが、両親の顔を見ると安心感があった。意外な事に両親は私を怒ったりしなかった。それよりも
「無事で良かった」
と言ってくれた。祖父母や親戚も心配してくれていたようだった。私はこんなにも多くの人に愛されていたなんて思ってもいなかった。私が居たところでどうにもならないと思っていたから。しかし、それは違ったようだった。祖父母は毎日泣いており、母も泣いていたそうだ。私は申し訳なさでいっぱいだった。もう家出なんてしない。家族が不幸になるだけだから。そう思った。
家出など無かったかのように家族の仲はすぐ元に戻った。北海道を楽しみ、お土産なども見て回った。見た事ない美味しそうなお土産に溢れていてついつい沢山買ってしまった。
群馬に戻ると今度は高崎警察署で取り調べが行われた。質問も児童相談所と北見警察と同じだった。私は淡々と質問に答え、家に帰った。久しぶりの家は五日間しか留守にしていなかったのに懐かしかった。
いつもの日常に戻ったが、一つだけ問題があった。警察に見張られている為、かずまが連絡を取るのを拒否したのだ。私は仕方ないと思ったが、寂しかった。もうすぐ半年記念日でもうすぐかずまの誕生日だったから。
kurahaと思い出を語りながらお互いの状況を伝えていた。しかし、ある日kurahaは児童相談所へ行くと言っていた。私のせいなのだろうか。児童相談所へは恐らく長くても一ヶ月程度で戻ってくるだろうと考えていた。その為、呑気に児童相談所の様子や居た人達の特徴などを伝えていた。kurahaは直ぐに帰ってきてまた今までのように連絡が取れると思っていたのだ。
四月一日
この日はクミとカラオケに来ていた。クミに北海道での出来事を語っていた時、突然kurahaからLINEが送られてきた。
「ごめん。大事な話がある。本当に謝らないといけないこと。」
私は嫌な予感がした。急いでkurahaにLINEを送った。
「…なに?」
私は聞くのが怖かった。
「私、もうすぐ居なくなる(スマホ内で)」
「ピッピと別れないと」
どうやらkurahaはスマホを解約されるらしい。それで私を最重要人物として選んで急いで連絡をしてきたらしい。スマホを解約されるという事はもう話せない。絶望した。
「待ってくれるんじゃない…?」
ピッピとkurahaは愛し合っていたのでピッピは何年だろうと待ってくれるだろうと考えていた。なので別れる必要は無いとkurahaを説得した。
「何年も待たせてられないわ。ピッピは若いし優しいから本当はもっと素敵な子と付き合った方が良いと思ってたの。」
「何年も待たせてたら人生なんてあっという間だし、ピッピが待っている間に私がぽっくり逝った場合、ピッピに申し訳ない。」
「本当に私もピッピと別れたくないし大好きなの。でも仕方ない気がするの。」
「それともう一つ言いたい事があって私は君を恨まないし、重い気持ちでこれからを過ごしてもらいたくないの。」
「だから強く生きてね!!遅くでも五年とかで戻ってこられるように頑張るから。」
kurahaからピッピに送ってほしい文が送られてきて施設では私が行った所と違うので会えないと言われた。
「ごめん…もう…」
「そっちもうまくやってね」
この言葉を最後に返信が途絶えてしまった。私はここに来て初めてkurahaが以前言っていた人生を壊してしまう可能性の意味が分かった。今頃分かってしまった。私はとんでもない事をしてしまった。一人の人生を奪ってしまったのだ。これから先楽しい事があるはずの人生を奪ってしまった。私が北海道へ行かなければ家出しなければ私が死んでしまっていれば。様々な事を考えた。この先、生きていける自信が無かった。この重い責任を背負って生きていかなければならないのだから。何度も自殺しようと考えた。何故なら私は人の人生を奪った人。生きている資格など無いのだから。しかし、その度に彼女の言葉が脳内で再生された。
「強く生きて」
私は踏みとどまった。kurahaの希望を裏切る訳にはいかない。彼女も新しい環境で頑張って生きているのだ。私がマイナスな気持ちでいてどうするのだ。私は人を救いたい。何よりkurahaを、そして同じような立場の人を。そう思った。私が生きる理由はそこにある。私は涙を拭って今日も強く生きる。彼女に再び会えるその時まで。
一章[完]
「帰ったら親に上手く説明できるか不安だな…」
私は一人言のように呟いた。するとkurahaは信じられない事を口にした。
「じゃあ私も着いていって一緒に説明するよ」
嬉しかった。この冒険がまだ続く事が。何よりkurahaと一緒に居られる事が。私はkurahaの厚意に甘える事にした。私はもっとこの先ずっとkurahaと一緒に居たい。一緒に苦楽を共にしたい。私はこの三日間でそんな思いが湧いてきた。かずまと一緒に過ごす為に両親を説得する為に家出をしてきたという当初の目的は忘れていた。これからはこの先の二人の幸せの為に大人と闘う。
夜になり、私はkurahaと一緒に寝たいと言った。これが最後の夜であり、寄り添って寝たかったからだ。kurahaは最初は狭いよと笑って拒否していたが、最終的には
「良いよ」
と言ってくれた。私達は寝っ転がりながら二人の未来を考えた。群馬に来たらこんな事がしたい、させてあげたい。二人で目を輝かせながらこれから先の未来の事を想像した。
「私さ、桜一回も見た事ないんだ」
kurahaは寂しそうな顔で言った。
「え!?なんで!?」
桜は全国に咲いており、そこら中に咲いているはずだ。
「この時期検査入院だからさ」
kurahaは笑ってそう言った。笑った顔が寂しげで無理に笑っているような表情だった。
「じゃあさ、東京行ってかずまとゆかちゃんとクラちゃんと私の四人で桜見ようよ!この冒険で大人と闘ったメンバーでさ」
私は話しながら想像をした。きっとこのメンバーで花見をしたら楽しそうだ。
「いいね!ゆかちゃんやかずまくんと会うの楽しみだな」
kurahaも目を輝かせながら賛成してくれた。
「あとあと!群馬に行ったらエルちゃんに会いたいな」
エルはクミのTwitter名だ。
「もちろん!三人で遊ぼうね!」
クミと私とkurahaの三人で遊ぶのも楽しそうだった。想像するだけでも楽しい。
「エルちゃん可愛いだろうな~」
kurahaはシャーペンを持ってイラストを描き始めた。一分ほどでクミのミニキャラを描き上げた。可愛いイラストだ。何となくクミに似ている。kurahaは絵を描く事が上手でそんな所も尊敬していた。
二人で楽しい話をしながら気付いたら寝付き、朝になっていた。二人で作戦を立てた。
飛行機は昨日の夜に明日の飛行機を二人分予約してあるので準備万端だ。今日の夕方頃に二人で家を出て、カラオケで朝まで過ごし、バスがある北見ターミナルまで歩いて行くつもりだ。北見ターミナルから女満別空港へ行き、二人で羽田空港へ行って電車で私の家へ向かうつもりだ。家出の期間は
kurahaはスーツケースを出してお泊まりセットを用意しているようだ。紙に何か書き出したので
「何書いてるの?」
と聞くと、
「警察に通報したら通報した人の目の前で首を切って死にますって書いてる笑」
kurahaはあっけらかんと答えた。kurahaの覚悟は凄い。私なんかと比べ物にならないくらいに。
「そしたらさ、通報されないでしょ?」
確かに通報されないだろうと思った。いくら子どもの事が心配でも、通報したら目の前で死んでしまうんだから誰も怖くて出来ないだろう。人の死を間近で見るのはトラウマに残る。自分の身内なら尚更だ。私もkurahaと同じように家族を脅していればこのように警察に追われる事は無かったのだろうか。
私達は準備万端という事で早速歩いてカラオケに向かった。北見バスターミナルからkurahaの家まで遠くは無いが、中々の遠さだった。しかし、休めるような所も無ければ、休んでいる暇も無い。辺りはすぐ暗くなってしまって道が分からなくなってしまうからだ。痛い足を引きずりながらカラオケに着いた。
カラオケでは少し歌った。朝まで居れるから少しくらい娯楽をしようと思ったのだ。歌っている途中でkurahaのスマホが鳴った。どうやら電話がかかってきているようだった。
「もしもし」
kurahaは電話に出る。どうやら伯母さんから電話がかかってきたらしい。恐らく家に帰るように促されているのだろう。
「もう限界なの!!!」
kurahaはそう言って電話を切った。私は彼女にどういう顔を向けたら良いか分からなかった。私のせいで家出を実行させてしまったのだから。私はkurahaに向ける顔が無かったが、彼女は笑った。また悲しそうで辛そうな笑顔だった。
kurahaはストレスを発散させる為だか分からないが、連続して悲しい曲を歌った。歌声は切なくて聞いているこっちまで悲しくなった。kurahaにこんな思いをさせてしまったのは私が原因だ。私が提案しなければ、迷惑をかけていなければ、そもそも北海道に来なければ…色々な思いが巡った。しかし、覚悟が出来ていないのは私だけだ。kurahaは命をかけてまで覚悟をしてくれた。私はその気持ちに応えないといけない。気合いを入れた。最後までkurahaを群馬に辿り着かせる。責任を持つ。その覚悟を持った。
カラオケで歌い切ったら睡眠を取っていたが、問題が発生した。十八歳未満だからと八時に追い出されたのだ。カラオケに居られないのは困るので
「私、十八歳です」
と嘘をついたが、身分証が無いため、追い出されてしまった。その後、ネットカフェに行ったが、そこでも身分証が無い事を理由に追い出されてしまった。
私達は途方に暮れた。カラオケからネットカフェに歩く際にもう足が限界だった。ネットカフェがダメならもう泊まれる所はないだろう。私達は仕方なく公園に居座る事にした。ブランコを見ると、雪で危ないからだろうか。ぐるぐる巻きにされて乗れないようになっていた。ベンチで座りながら足の疲れを癒すが、北海道の冬を舐めていた。気温はマイナス十度という信じられない気温だった。二人で私が持ってきたタオルや毛布を被ったり、手袋をしたり、カイロを持ったりして寒さを凌ぐが、震えるばかりだった。
このまま目を閉じたら二人とも凍死してしまう。何かしなければ…
「お腹空かない?」
思えば、お昼から何も食べていない。パワーを付ける為にも何か食べないといけない。家から持ってきたおやつカルパスとチーズかまぼこ、ハイチュウを二人で分けて食べた。
そこから一時間程公園に滞在するが、限界が来た。
「ちょっと移動しようか…」
kurahaも限界なのだろう。
「そうだね、どこか室内に入ろう」
私はどこか室内に入る事を提案した。このままだと生き延びる事が難しいと感じたからだ。
二人で歩いていると、ふとkurahaのかじかんだ手が目に入った。kurahaは手袋をしてこなかったのだ。私はkurahaに半分手袋を貸してあげる事にした。kurahaは遠慮してたが、
「こうすれば寒くないでしょ」
私は片方の手袋を外してkurahaの手を握った。
「うん。暖かいね」
kurahaは少し笑った。kurahaの手は冷たくて少しだけ暖かった。
私はkurahaの彼氏の事を聞いた。彼氏さんはネットの人で『ピッピ』という人らしい。ネット恋愛だが、私とかずまよりも長く続いていて常に電話をしているらしい。愛おしそうに語るkurahaを見ると本当に幸せなのだろう。私は少し罪悪感を感じた。
近くを歩いていると、TSUTAYAを見つける。そこのトイレで時間を潰す事にした。室内というだけで暖かい。外の気温とはだいぶ違った。ここにずっと滞在しているのも良いと考えていた。しかし、外からの足音が聞こえた。私はかずまのマンションのロビーに滞在した際に警察が来た事を思い出した。ここにずっと滞在していると怪しまれて警察が来るような気がした。
「ここにずっと居るのは危険かもしれない」
私は外に出る事を提案した。行く宛てが無かった私達は再び別の公園を探した。
公園に着くとまた地獄の始まりだった。先程の公園より周りに住宅地が無いので人にバレづらい場所にあったが、時間が経ったからなのか寒いような気がした。二時間程我慢をするが、死ぬほど寒い。震えるkurahaを見ていると、私と同じくらいの身長のはずなのに小さく見えた。
目を離したら消えてしまいそうだった。大人っぽくて考え方も生きてきた経験値も大人なkurahaが子どもに見えた。ああ、本当はkurahaはまだ幼い。kurahaが大人に見えるのは育った環境のせいだ。本当はまだ守るべき存在だったんだ。そんな事にも気付けなかった。
「寒いし…お腹空いたね」
私は再び歩く事を提案した。私が守らなくては。消えかけている命を救わなくてはいけない。
私達はとりあえずコンビニ行く事にした。コンビニで私はパスタを購入し、kurahaはサンドイッチを購入した。コンビニの時計を見ると0時を回っていた。こんな時間に出歩いた事などもちろん無かった。そしてまだ0時だという事に絶望してしまった。これから朝まで外で過ごさなくてはいけない。私も彼女も限界だった。
コンビニを出て歩いていると、マックを見つけた。私は東京でマックに滞在していても怪しまれなかった為、ここでもいけると思っていた。
おまけにマックは二十四時間営業なのでここで朝まで過ごせるだろうと考えていた。
私達はマックに入り、飲み物だけ購入してコンビニで購入した食べ物を食べる。kurahaはどうやら別のお店で購入した物をマックで食べるのはいけない事だと考えていたようだった。しかし、私は大丈夫だろうと軽い気持ちで考えていた。
マックでは作戦を考えていた。私とkurahaはTwitterで知り合い、お互い住所を知っていた。その為、電子機器を使わなくとも来れたという設定にしようという話にした。警察や両親に電子機器でやり取りしてた事をバレたくなかったからだ。私は辻褄が合うようにkurahaが書いてくれた住所を暗記した。
暗記していて脳が疲れたのとマックの中とはいえ、寒かったので顔を伏せて寝ていた。すると、顔を上げた瞬間予想もしなかった出来事が起こった。『警察』がいたのだ。四、五人の警察に囲まれた。もうどうする事も出来ないと思った。もうこれでkurahaが群馬に来るという希望が砕けてしまった。絶望に満ちた。楽しい未来を想像していたから余計に。
「狩野愛奈さんだよね?」
警察は私に声をかけてきた。
「はい。」
そう答えるしかなかった。違いますと答えても、逃げても捕まるだけだ。こんなに沢山警察が居たら逃げれるわけがない。
「何でか分かるよね?署まで来てくれる?」
ああ…もう全てが終わってしまった。明日帰ろうと思ってたのにこんなにも運が悪い事があるだろうか。
「あれ君は?名前は?どうしたの?」
警察はkurahaの存在に気付いたようだ。どうやら私に気を取られて気付かなかったらしい。
「佐藤遥 」
kurahaはぶっきらぼうに答えた。
「君達未成年なんだからこんな時間に出歩いちゃダメだよ」
警察はそう言って私とkurahaにそれぞれ二人ずつ付いていった。どうやらパトカーもkurahaと分かれるらしい。私は警察署では一緒に居れるだろうと考えていた。
パトカーの中では私を挟んで警察が座った。そんな事しなくてももう逃げないのに。犯罪者の気分だった。
警察署に着くとkurahaがゆかちゃんにDMで
「け」と打っている姿が見えた。事前に警察が来たら「け」と打ってやり取りを消すようにゆかちゃんから指示されていた。kuahaは指示通りにやっていた。私はそれが最後に見るkurahaの姿だった。
警察署では取り調べが行われた。
「どうして家出したの?」
「どうして北海道に来たの?」
など在り来りの事を聞かれた。私は今までの経緯を簡単に話した。警察の人は優しく私の話を聞いてくれた。警察から家族に見つかったと電話をしたらしい。もう時刻は恐らく二時過ぎだろう。
「北見何も無いでしょ?笑」
「札幌とか函館とかそっちの方が良かったんに笑」
などフレンドリーに話し掛けてくれたので私もあまり緊張せずに話す事が出来た。そして驚いた事に食事を提供してくれたのだ。
「カップラーメンあるよ」
「パンもあるけどどうする?」
警察の方がお腹空いてるだろうと提供してくれたのだ。私は両方受け取り、快く頂いた。すると、若い女の人が話し掛けてきた。
「ボカロ好き?」
私は趣味が合う人を見つけ、楽しく話した。どうやら彼女はまだ十八歳らしい。十代の頃からこんなに遅くまで働いている姿に感動した。
「よく一人で北海道まで来たね」
「行動力があるね」
と皆褒めてくれた。何だかくすぐったい気分になった。何より、
「家出は悪い事ではないからね。もちろんしてはいけないんだけども」
と言ってくれた事が凄く嬉しかった。私は多くの人に怒られる事をしていると思っていたが、私のした事は間違っていない。そう思った。
警察署で朝まで寝た。酔っぱらいのおじさんが吐いた部屋らしいが、特に臭いがしなかったので敷かれていた布団で寝た。本来なら知らない場所ではあまり寝られないのだが、疲れていたのだろう。寝てしまった。
警察署では結局、kurahaに会える事はなかった。私はkurahaに「ありがとう」も「さようなら」も言えていない。あんなに沢山の事をしてもらったのに。後悔でいっぱいだった。こんな事になるのなら、kurahaを連れてくるべきでは無かった、一人で帰ればkurahaに迷惑をかける事は無かったのだ。あの時、私がマックに入ろうなんて言わなければ見つからなかったのかもしれない。全て私の責任だった。kurahaは今頃大丈夫だろうか。私は憂鬱な気分で目が覚めた。
朝になると、どうやら北見児童相談所へ行くらしい。私は言われるがままにパトカーに乗り、北見児童相談所まで送って行ってもらった。
児童相談所でも警察と同じような事を聞かれた。
「どうして家出したの?」
私は警察署と同じように理由を話す。同じような質問に飽き飽きしていた。
聞き取り調査が終わると、子ども達が居る所に案内された。
児童相談所では十人程の子ども達がいて年齢は様々だ。誰も私が何故ここに来たのか尋ねてくる人は居なかった。恐らく一人一人様々な事情でここに来ているからだろう。無邪気にはしゃぐ子どもでありながら事情を察してくれる人達で安心した。それと共に私よりも小さな年齢から家庭の事情を抱えている事を考えると何とも言えない気持ちだった。
児童相談所では快適で皆優しくて明るいので、深い事情を抱えているようには見えなかった。
一日で友達が出来て先生方も優しくて素敵な場所だった。強いて言えば、自由を奪われているという事だろうか。ここでは通信機器であるスマホはもちろん、中に持って行ける荷物も限られている。お風呂の時間も決まっていて、確かに自由は多いが、縛られる自由も多い。外にはもちろん行けないし、まるで牢獄のようだった。
私にはそう感じた。一日だけなら楽しかったという気持ちで終わるが、恐らく何日も何ヶ月も居ると嫌になるだろう。そんな空間だった。もちろん先生や子ども達が沢山居て良い環境だが、私には少しだけ息苦しかった。
夜になると、両親が迎えに来た。皆と離れるのは少し心苦しかったが、両親の顔を見ると安心感があった。意外な事に両親は私を怒ったりしなかった。それよりも
「無事で良かった」
と言ってくれた。祖父母や親戚も心配してくれていたようだった。私はこんなにも多くの人に愛されていたなんて思ってもいなかった。私が居たところでどうにもならないと思っていたから。しかし、それは違ったようだった。祖父母は毎日泣いており、母も泣いていたそうだ。私は申し訳なさでいっぱいだった。もう家出なんてしない。家族が不幸になるだけだから。そう思った。
家出など無かったかのように家族の仲はすぐ元に戻った。北海道を楽しみ、お土産なども見て回った。見た事ない美味しそうなお土産に溢れていてついつい沢山買ってしまった。
群馬に戻ると今度は高崎警察署で取り調べが行われた。質問も児童相談所と北見警察と同じだった。私は淡々と質問に答え、家に帰った。久しぶりの家は五日間しか留守にしていなかったのに懐かしかった。
いつもの日常に戻ったが、一つだけ問題があった。警察に見張られている為、かずまが連絡を取るのを拒否したのだ。私は仕方ないと思ったが、寂しかった。もうすぐ半年記念日でもうすぐかずまの誕生日だったから。
kurahaと思い出を語りながらお互いの状況を伝えていた。しかし、ある日kurahaは児童相談所へ行くと言っていた。私のせいなのだろうか。児童相談所へは恐らく長くても一ヶ月程度で戻ってくるだろうと考えていた。その為、呑気に児童相談所の様子や居た人達の特徴などを伝えていた。kurahaは直ぐに帰ってきてまた今までのように連絡が取れると思っていたのだ。
四月一日
この日はクミとカラオケに来ていた。クミに北海道での出来事を語っていた時、突然kurahaからLINEが送られてきた。
「ごめん。大事な話がある。本当に謝らないといけないこと。」
私は嫌な予感がした。急いでkurahaにLINEを送った。
「…なに?」
私は聞くのが怖かった。
「私、もうすぐ居なくなる(スマホ内で)」
「ピッピと別れないと」
どうやらkurahaはスマホを解約されるらしい。それで私を最重要人物として選んで急いで連絡をしてきたらしい。スマホを解約されるという事はもう話せない。絶望した。
「待ってくれるんじゃない…?」
ピッピとkurahaは愛し合っていたのでピッピは何年だろうと待ってくれるだろうと考えていた。なので別れる必要は無いとkurahaを説得した。
「何年も待たせてられないわ。ピッピは若いし優しいから本当はもっと素敵な子と付き合った方が良いと思ってたの。」
「何年も待たせてたら人生なんてあっという間だし、ピッピが待っている間に私がぽっくり逝った場合、ピッピに申し訳ない。」
「本当に私もピッピと別れたくないし大好きなの。でも仕方ない気がするの。」
「それともう一つ言いたい事があって私は君を恨まないし、重い気持ちでこれからを過ごしてもらいたくないの。」
「だから強く生きてね!!遅くでも五年とかで戻ってこられるように頑張るから。」
kurahaからピッピに送ってほしい文が送られてきて施設では私が行った所と違うので会えないと言われた。
「ごめん…もう…」
「そっちもうまくやってね」
この言葉を最後に返信が途絶えてしまった。私はここに来て初めてkurahaが以前言っていた人生を壊してしまう可能性の意味が分かった。今頃分かってしまった。私はとんでもない事をしてしまった。一人の人生を奪ってしまったのだ。これから先楽しい事があるはずの人生を奪ってしまった。私が北海道へ行かなければ家出しなければ私が死んでしまっていれば。様々な事を考えた。この先、生きていける自信が無かった。この重い責任を背負って生きていかなければならないのだから。何度も自殺しようと考えた。何故なら私は人の人生を奪った人。生きている資格など無いのだから。しかし、その度に彼女の言葉が脳内で再生された。
「強く生きて」
私は踏みとどまった。kurahaの希望を裏切る訳にはいかない。彼女も新しい環境で頑張って生きているのだ。私がマイナスな気持ちでいてどうするのだ。私は人を救いたい。何よりkurahaを、そして同じような立場の人を。そう思った。私が生きる理由はそこにある。私は涙を拭って今日も強く生きる。彼女に再び会えるその時まで。
一章[完]
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