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5章 私が目指す聖女とは
93.すべてが予想外
しおりを挟む「ようやく見つけましたよ。聖人様方」
急がず焦らずに進み後もう少しで武器工房と言う所で、初老だろう男性とすれ違う。
私達と視線が合うにこやかに声を掛けられる。しかしその笑顔が逆に不気味で、その呼び名に危機感を抱く。
私は息を呑みゆっくり後退すると代わりに太が私を護るように前進し、柄に手をあて戦闘態勢に入る。
今更私を連れ戻しに来たんだろうか?
でも聖人なんて星ちゃんを亡き者にするために作ったハリボテでしかないんだから、連れ戻されて祭り上げられても私達には特別な力なんて何もない。
そもそも魔族皆殺しは願い下げ。
「オレ達は聖人なんかじゃない。本物の聖女を護る戦士だ」
「聖女? あれは穢れし魔王の血筋。聖女のはずがないだろう」
「星ちゃんをそんな風に言わないで下さい。それに星ちゃんは英雄星夜の娘でもあるんです」
「セイヤ様は魔王の娘に騙されているだけ。あれとセイヤ様に血の繋がりはない」
『…………』
太の迷いのない全否定を、彼は顔色一つ変えずに酷い台詞を吐く。これには頭に来て怪訝しく言い返せば、真っ向から今度は根拠がない嘘で否定される。
これにはあまりにも男が愚かで、唖然となり何も言い返せない。
こんな台詞おじさんに聞かれてたら──。
「星歌は俺の娘だ!! いい加減なことを言うんじゃない」
ドスーン
そう思ってた矢先尋常じゃない邪悪な殺気が近づいてきたかと思えば、怒り声と供に男はものすごい地鳴りと供に地面へと沈められる。
巨大なクレーターが出来た。
………………。
………………。
何もかもが規格外過ぎて、訳も分からず呆然と立ちつくす。
一体何が……。
この世界は、隕石は横から落ちてくるんだろか?
でも星歌は俺の娘って……????
「ヒナタ、怪我はないか?」
「え、あはい。ってスピカさん? 太こっちむいちゃだめ」
「は、ひょっとして星歌の母ちゃんがいるのか?」
「そう」
頭の中が大混乱している中誰かに心配され振り返ると、弱冠うんざりしていて肩を落としているスピカさんがいる。おかげでようやくこの不可解な出来事に納得がいく答えにたどり着く。そしてスピカさんは魔族なので太に忠告。
おじさんが私達の話を聞いていて、男のあの言葉に聞いてブチギレこうなった。
納得です。そしてスッキリしました。ありがとう。
「さすがおっさん!!」
「これはさすがなのか? 少々やり過ぎだと思うが。そりゃぁあたしも頭に来ているが、こいつはおそらく重要参考人だろう?」
私も太と同じ意見だったため、スピカさんの先を見据えた受け止めにハッとなる。
初老で私達を聖人と呼び魔族に敵対していれば、確実に重要参考人。洗脳について何か知っているかも知れなかった。
だから一番良い方法は、言い方が悪いけれど生け捕りだったよね。
「……死んでませんよね?」
「セイヤの全力の一撃を、一般人であれば確実に死ぬと思うが。瀕死であればリュウノスケなら……」
ダメ元で微かな望みを言葉にして聞いて見るけれど、返ってきたのはごもっともな答えだった。スピカさんは様子を見にクレーターへと入っていく。
「それなら私が、龍ノ介さんをすぐに呼んで──」
「師匠ならこっちに向かってくるぞ。やべぇ星歌も一緒みたいだから、オレちょっと離れるわ」
視線に入ってくる二つの人影の正体を確認するなり、軽くそう言い急いで私達から離れる。洗脳の症状が現れ、苦しいんだと思う。
大好きな相手を見るだけでイライラして暴言を吐くって、どんなにキツいことなんだろう?
声だけなら大丈夫って言ったって最初は良くても、好きという気持ちが大きくなればなるほどそれだけじゃ物足りなくなる。
私なら耐えられない。龍ノ介さんを一ヶ月以上も見られないなんて。
「陽、一体何があったんだ?」
「簡単に言えば、私と太を聖人と呼ぶ人がやって来たんですけど、その人が星ちゃんを悪く言い出して。そしたらなぜかおじさんが出て来てこうなりました」
「うん、そうだな。そりゃぁ星夜はぶち切れるわな」
「パパ、私のためにありがとう」
星ちゃんを傷つけたくなくって出来るだけオブラードに包んだのに、龍ノ介さんは呆れ返り察しのついた答え。星ちゃんもちょっとだけ悲しげな表情を浮かばせた。
そんな顔見たくなかったのに、何を言ってもそうなっちゃうよね?
ただ本当のことを言ったら、星ちゃん泣いて怒るんだろうな?
「それでその怒り狂った星夜をスピカが落ち着かせているとこか?」
「はい。それで龍ノ介さんも……え?」
「どうした?」
男の治療をと言おうとした時、私が放った式達が騒ぎだしている。
どうやらどこかにたどり着いたらしい。
何かを見つけた?
「実は男の前に気になる人影がいたので、式を作って尾行させてたんです。そしたらその式達が騒ぎ出して」
「だったらすぐに真相を突き止めに行かないとな。星歌、あとはよろしく頼む」
私の言葉に緊急性を感じた龍ノ介さんはそっちを優先してくれ、男のことを星ちゃんに丸投げする。
言われてみれば龍ノ介さんより聖女の星ちゃんの方が治癒能力は高いかも。
「え~私がやるの? しょうがないな」
「サンキュー。それと聖剣は太に渡しておくから、心の準備をしておくんだな」
「!!」
どこか不満そうにも頷く星ちゃんだったのに、龍ノ介さんの意味深な台詞を聞いた途端、顔が真っ赤に染まり口をパクパクさせる。
これはもしやついに二人は結ばれる?
出来ることなら告白する心境を聞きたいけれど、今の状況はそれどころじゃないって分かっている。
そんでもって告白場面を盗み見するほど無粋でもないから、今夜ゆっくり聞けばいいか。
失恋の心配はないんだから、楽しみに待っておこう。
それよりも今は
「それじゃ、陽案内してくれ。太、どこにいるんだ?」
「はい、任せて下さい」
「オレならここにいる」
龍ノ介さんのかけ声に、私だけでなく太もすっと手を上げやる気も気合も十分だ。
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