上 下
80 / 157
4章 それぞれの愛のかたち

61.義姉の望み① 

しおりを挟む
 目的地まではルーナスさんの希望で車で行くことになった。車だと三時間ぐらいで着くようで、帰りは空間移動魔術を使うとかで日帰り旅行になるらしい。
 チョピのせいで朝食抜きの危機になったけれど、私の落ち込みを哀れんだパパがホットケーキを作ってくれ飢え死には免れた。
 チョピはすっかり反省していて、バックの中で不気味なぐらい大人しくしている。



「セイヤは、マヒナのことは覚えてるだろうか?」
「はい、結婚してからもよく遊び来ていました。ただ俺のことを嫌っているようで、毎回毎回バトルを挑まれて苦い思い出しかありませんが」

 しばらくしてようやくルーナスさんは口を開き確認すれば、パパは頷き苦い顔になり話し出す。

 結婚してからもよく遊びに来てたと言うことは、マヒナさんと言う人はお母さんと親しい間柄で私のことも知っている?
 そしてパパを嫌っているって……魔族?

「そりゃぁそうだろう? 大好きで尊敬している義母をマヒナが憎む人間に取られたのだからな? しかもいくら魔王を倒した実力者とは言え、普段のお前は頼りないし優しすぎる偽善者でしかないからな」
「アハハ、それよく言われました。俺としてはもっと仲良くしたかったんですけどね」
「は、母??」

 すごいことをさらりと言ってもパパは当然に受け答え今度は苦笑するけれど、私は信じられず耳を疑い声を裏返させ問い返す。

 今、お母さんのことを大好きで尊敬してる母って言った?
 何それ?
 私に姉がいたなんて初耳……。

 確かにお母さんにバツがついていて、その時に産んだ異父姉がいてもおかしくはない。
 パパも知っているから問題はない……。
 だけどそれでもあまり良い感じがしないのは、やっぱり私がお子様だからだろう。

「安心しろ。マヒナはスピカの養子だ。スピカの初恋で教育係だった人の、忘れ形見を引き取ったと聞いている。母親もマヒナが産まれてすぐ死んだそうだ」
「そう言うことか。……前夫がいてその時産んだ子だと思った…」

 私にとっては最悪な展開は免れ、ホッと安心する。
 お母さんの初恋の子供なら別にどうってことない所か、そう言う理由で養子として引き取ったんなら美談になると思う。
 ただ理由がなんであれパパを嫌っている人とは関わりたくないし、向こうだってパパの娘である私を嫌っているはずだから仲良くしなくてはいいはず。
 お母さんには申し訳ないけど。

「それでの要件は聞いてます?」
「セイカが聖女であると教えたら、頼みたいことがあると重々しく言われてな。そしてついでにセイヤにも言いたいことがたくさんあると」
「え、私に?」
「……言いたいことがたくさんある。骨の二三本折れるのを覚悟しといた方が良いか」
「!? だったら行くのを辞めよう」

 さっきから驚くことばかりで心臓に悪く、今度はげっそりするパパを見てストップをかける。

 んな危険な人物に会うことなんてない。
 なんで呼び出されわざわざ会いに行ったら、骨を二三本も折られなきゃいけないの?
 しかも頼みごとをするって、どこまで図々しい人なんだろうか?

「セイカは折られんから安心しな。マヒナはセイカを実の妹のように可愛がっていたんだぞ?」

 意外なことだったけれど、そう言う問題じゃない。
 しかもパパが折られるのには否定しないって駄目じゃん。

「パパに危害を与える人の頼みなんて聞きたくないです。そもそも頼みごとがあると言うならば、ならそっちが頼みに来るのが筋だと思います」
「確かにそれは言えてるな」
「星歌、驚かせてすまない。言葉の綾だから、本当に折られたりはしないよ。父さんもマヒナに話があるから、会いに行こう」

 強きな姿勢で正論をならべ拒否しあと少しでルーナスさんを言いくるめられそうになるも、パパは車を止め私を見つめ髪をなぜながら優しくそう言い行く意思を主張する。
 本当にパパはどこまでも人が良くってここまで言われたら、これ以上拒否が出来なくて認めざるおえない。
 でも認めたくなくって、言葉を渋らせていると

「セイカ、良いことを教えてやろう? マヒナにセイヤを傷つけたら絶交。と言えば効果抜群だよ」
「だったら会ったらすぐ言います。そして取り敢えず話だけ聞くことにします」
「ありがとう。星歌」

 乗り気にはなれないけれどルーナスさんの助言を信じ、しょうがないからそう言い行く選択をする。パパは嬉しそうにお礼を言う。

 ……パパはずるい。




 しかし


 目的地に辿り着き車から降りると、パパの顔色が真っ青に染まった。

「……スピカの匂いだ」
『え?』
「あっちの方からしてくる。星歌、行くぞ」
「え、あちょっと待って」  

 信じがたいことを唖然と呟き驚く私達に構うことなく、私をお姫様抱っこして走り出す。冷静さを失っていても、私を気遣ってくれている。

 お母さんの匂い?
 確かになんかハーブ系の優しい匂いが微かに薫るけれど、お母さんって死んでいるんだよね?
 ここでは二十八年前のことだから、残り香と言う可能性はなさそう。

 ……だとしたら罠?
  忍ならやりかねない。

 不意に嫌な予感が頭の中を駆け抜ける。

「パパ、待っ──」

 とにかくパパを落ち着かせようと声を掛けるのだが、すでに遅かった。
 炎が私達に目掛けて勢いよく襲ってくる。

 防御魔術を──

 防御魔法を発動させようとしていると、パパは近くの高い木に跳び移る。
 炎は私達のいた場所で大爆発。辺り一面炎の海に変わった。

 間一髪。

「星歌、怪我はないか? すまん軽率だった」
「うん、してない。でも本当に軽率だよ」

 これにはようやくいつものパパに戻り、思いっきり自分の過ちを反省する。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

神様に貰ったスキルで世界を救う? ~8割方プライベートで使ってごめんなさい~

三太丸太
ファンタジー
多種族が平和に暮らす世界<ミリテリア>。 ある日、神様から人々に『別世界<フォーステリア>の魔物がミリテリアを侵略しようとしている』と啓示があった。 動揺する人々に、神様は剣術や魔法などのスキルを与えていった。 かつての神話の様に、魔物に対抗する手段として。 中でも主人公ヴィトは、見た魔法やスキルをそのまま使える“模倣(コピー)”と、イメージで魔法が作り出せる”魔法創造(クリエイトマジック)“というスキルを授かった。 そのスキルで人々を、世界を守ってほしいという言葉と共に。 同様に力を授かった仲間と共に、ミリテリアを守るため奮闘する日々が始まる。 『何となく』で魔法を作り出し、たまに自分の魔法で死にかけるヴィト。 『あ、あれいいな』で人の技を完璧にパクるヴィト。 神様から授かった力を、悪戯に使うヴィト。 こっそり快適生活の為にも使うヴィト。 魔物討伐も大事だけれど、やっぱり生活も大事だもの。 『便利な力は使わないと勿体ないよね! 練習にもなるし!』 徐々に開き直りながらも、来るべき日に備えてゆく。 そんなヴィトとゆかいな仲間たちが織成す物語。 ★基本的に進行はゆっくりですごめんなさい(´・ω・`) ★どうしたら読んでもらえるかなと実験的にタイトルや校正を変えたり、加筆修正したりして投稿してみています。 ★内容は同じです!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ

アキナヌカ
ファンタジー
僕はクアリタ・グランフォレという250歳ほどの若いエルフだ、僕の養い子であるハーフエルフのソアンが150歳になって成人したら、彼女は突然私と一緒に家出しようと言ってきた!!さぁ、これはお疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ??かもしれない。 村で仕事に埋もれて疲れ切ったエルフが、養い子のハーフエルフの誘いにのって思い切って家出するお話です。家出をする彼の前には一体、何が待ち受けているのでしょうか。 いろいろと疲れた貴方に、いっぱい休んで癒されることは、決して悪いことではないはずなのです この作品はカクヨム、小説家になろう、pixiv、エブリスタにも投稿しています。 不定期投稿ですが、なるべく毎日投稿を目指しています。

処理中です...