上 下
79 / 157
4章 それぞれの愛のかたち

60.プレゼント

しおりを挟む
「セイヤ、セイカ。急で悪いんだが、今から私と一緒に来てくれないか?」
「どこにですか?」
「セイヤが領主をしていた村だ」

 ジョギングからお腹を空かして帰ると玄関でルーナスさんが待っていて、挨拶もなしに深刻な表情でそう言われ場所を聞くと一瞬で緊張感が走る。

「分かりました。用意をするので少し時間を下さい」
「ああ。三十分以内で頼む」

 いつにもなく上機嫌だったパパもたちまち真顔に変わり、時間をもらうと急いで階段を駆け上がって行ってしまった。
 私と言えば緊急事態と言うのは分かったけれど、いまいち状況を飲み込めずルーナスさんを見つめた。

「セイカも用意をしてきなさい」
「分かった。全員で行くんですよね?」
「いいや、私達三人だけで行く。あちら様のご使命だ」
「え、ってことは誰かと会うんですか?」
「まぁな。詳しいことは着いたら話す」

 ますます訳が分からなくなるも、後でと言われたらそれ以上聞けない。不思議に思いながら、私も自分の部屋に急いだ。






「一体何しに行くんだろうね?」
【セイカのパパは疲れているから、静養?】
「え、それはないと……龍くんがルーナスさんに頼んで計画したならありえる? でもそしたらパパにとって辛い場所は選ばないと思うけどな」

 分からない同士が推測しても答えなんて出てくるはずもなく、あっという間に推測するのを諦める。

 もし本当に静養なら計画した人は鬼だ。

「パパ、大丈夫かな?」
【セイカと一緒なら大丈夫だよ。手を繋げばいいって言ってたでしょ?】
「そうだね。村に着いたら真っ先に手をしっかり繋ごう」

 悩みの種は結局そこで、パパの心が心配になる。

 今朝のパパは悩みなど一切感じられない晴れ晴れとした笑顔で、ジョギング中はずーと鼻歌交じりだった。そんなパパの笑顔に私まで癒されていたのに、こんなにすぐ突き落とすなんていくらなんでも酷過ぎる。
 私が手を繋ぐだけでどうにかなればいいんだけれど、なんとなく嫌な予感がするんだよね?
 ルーナスさんの雰囲気からしてただごとではない感じだった。


「星ちゃん、陽だけど入ってもいい?」
「もちろんだよ」

 見覚えがあるクマさん柄の包みを持った陽が入ってくる。

「はい、これ朝食のお弁当。おにぎりと卵焼きだよ」
「ありがとう。そう言えばお腹空いてたんだ」
【ボクも!!】

 言われてお腹が空いていたことを思い出し、包みを受け取る。まだ温かく大きくて重い。多分三人前はあるだろう。
 チョピは目を輝かしよだれジュルジュルでもうお弁当に夢中。渡したら高い確率で食べられそう。

「それからこれはつよしから、こないだのお詫びだって」
「こないだのお詫び? ……うわぁ可愛いバラのピアス」

 続けてポケットから小箱取り出し渡されて、お弁当をテーブルに置き受け取る。中に入っていたのは、透き通った赤い小さなバラのピアスだった。

 お詫びの品だって言われるとなんだか気を使わして悪いなと思う物の、思いも寄らぬ素敵なプレゼントがすごく嬉しい。
 ううん。つよしからのプレゼントだったら、例えあめ玉一つだとしても嬉しい。 

つよしが初めて一人で倒した上級モンスターの戦利品見たいよ」
「え、そんな貴重な物もらえないよ」

 とんでもなく太にとっては価値ある物に驚き、もらうのを躊躇してしまう。

 いくらバラのピアスが多分女性物で使い道がないとしても、初めての戦利品だったら宝物のはず。
 そんな大切な物、どうして私にくれるの?
  まさか中身を間違……それはないか。
 それともそれだけつよしは気にしてるってこと?

 考えれば考えるほどこのピアスがお詫びになった理由が分からないけれど、少なくても誤解はしないように心の中で強く言い聞かせる。

 つよしと私は友達以上恋人未満の関係なのに、こんな物をもらったら私は馬鹿だから期待してしまいそうで怖いんだよね?
 恋愛感情がなくても、意識はしてくれてる。
 大切に思われているんだから、振られる可能性はない。
 
 確証が薄いくだらない自信を持って告白して振られでもしたら、ショック以上に傲慢だった自分が恥ずかしい。それでいて立ち直るのにも時間が掛かる。

「もらってくれないと星ちゃんに嫌われたと思って、つよしの奴相当落ち込むと思うよ。だったら星ちゃんも上級モンスターを倒した時、ゲットした戦利品をプレゼントしたら良いんじゃない?」
「あ、そうだね。そうしよう」

 マイナスなことしか考えられなくなり気分が沈む中、陽から嬉しい情報とナイスな助言をもらい気分は瞬時に浮上する。
 よくよく考ると誤解して期待するのには変わりないけれど、この時の私はそこまで考えられず。
 あっと言う間にルンルン気分で鏡を見ながらピアスをつける。
 瞳の色と同じだからなのかもう耳元になじでいて、変な主張せずキラキラ輝いている。
 つよしからのプレゼントじゃなくてもしお店で売っていたとしても、気に入っていて買っていたと思う。
 
「星ちゃんにすごく似合ってるよ。ねぇチョピちゃん?」
【うん、すごく可愛い!!】
「二人ともありあとう……ってチョピ??」

 ピアスを褒めてくれる二人に私は照れ隠ししながら目を泳がすと、笑顔のチョピの口の周りはご飯粒だらけ。慌ててお弁当箱に視線を向けると、あろうことかお弁当箱の中は空っぽ。
 あまり衝撃的な光景に血の気はサッと引き、これ以上ないぐらいに大きなお腹の音が鳴る。

 お腹空いた。

【セイカ、ごめんなさい。……ボク、すごくお腹空いてたの】
「それは私も同じ。パパだってお腹を空かしてるの。一人いじめは駄目だよ」

 滅茶苦茶落ち込みショボンとして謝るチョピだけれど、私はそれを許さず厳しく叱りチョピを抱き上げデコピンする。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

はじまりはいつもラブオール

フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。 高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。 ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。 主人公たちの高校部活動青春ものです。 日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、 卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。 pixivにも投稿しています。

神隠しの子

ミドリ
ホラー
【奨励賞受賞作品です】 双子の弟、宗二が失踪して七年。兄の山根 太一は、宗二の失踪宣告を機に、これまで忘れていた自分の記憶を少しずつ思い出していく。 これまで妹的ポジションだと思っていた花への恋心を思い出し、二人は一気に接近していく。無事結ばれた二人の周りにちらつく子供の影。それは子供の頃に失踪した彼の姿なのか、それとも幻なのか。 自身の精神面に不安を覚えながらも育まれる愛に、再び魔の手が忍び寄る。 ※なろう・カクヨムでも連載中です

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...