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4章 それぞれの愛のかたち

58.娘は情緒不安

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「……パパ、大好き……」
「俺もだよ。おやすみ、星歌」

 いつの間に俺肩を枕代わりにしてスヤスヤ眠ってしまった星歌をベッドまで運び、布団を掛け離れようとすると天使の寝顔で寝言を呟く。
 寝言に返事をするのは良くないと分かりつつも、あまりにも愛しくてそう答え頬にキスをする。小学生低学年ぐらいまでは毎晩やっていた。

 甘えん坊でお父さんっ子だった星歌も思春期を迎え普通の父と娘の関係になり淋しさを感じていたが、三ヶ月前のあの事件以来また甘え坊に戻ってしまい仲良し親子となった。
 俺にとってもそれは嬉しい限りでその関係がずーと続けば良いと思っていたのだが、果たしてそれは本当に良いことなんだろうか? 
 高校生の娘が父親と一緒に寝たい言うのは、いくらなんでも異常なんじゃないのか? しかも一度拒否をすると、悲しそうな表情を浮かべ必死に頼む。
 スキンシップがある仲良し親子ではいたいが、……ん?
 スキンシップがあること自体異常なんだろうか?





「龍ノ介。星歌のことで相談したいことがある」
「は、喧嘩でもしたか?」

 庭で懸命に素振りをしている龍ノ介に俺は真面目に言うと、素振りを辞め俺をぽかーんと見つめ首を傾げる。

「そうじゃない。星歌と徐々に距離を取った方が良いんだろうか?」
「なるほどそう言うことか。安心しろ。星歌はファザコンでもまともに育ってる。太の洗脳さえ解ければ、星歌は自然とお前から巣立っていく」

 すべてを話さなくても理解され適切だろう求めていた回答をもらえるのだが、それを聞いた途端ショックのあまり頭の中が真っ白になった。安心すべきはずなのに、不安でしかない。

 俺は星歌に何を望んでいる?
 今の関係が異常じゃないか思うも、普通の父と娘になるのは淋しい。
 俺の元気の源は星歌を抱きしめることであって、それかなくなったら情けない話俺は駄目になってしまうのだろう。

「まったく。そう言うことは地球に戻ってから考えろよ。そもそも星歌の異常すぎるファザコンは、本人が気づいていないだけで極度な不安とストレスから来てる物だから、今は求めてきたら甘やかすだけ甘やかせば良いんだ」
「極度な不安とストレス?」
「そう。魔王の孫娘。魔王の力。忍との一件で大好きな父親は自分のためなら命を粗末にしてしまう。異世界での扱い。おまけに偽りであったとしても好きな相手に罵倒されたんだ。短期間のうちにこれだけの不安要素満載ならば、普通であれば鬱まっしぐらだろう?」
「…………」

 言われてようやく星歌の異常の原因に気づく。

 確か考えてみればたった三ヶ月の間に考えられないことばかり起きていて、龍ノ介の言う通り平常心ではいられない。俺だって星歌がいなければ心が折れていた。

 いつも龍ノ介は星歌の異変にいち早く気づくんだよな。
 星歌の心を傷つけさせないと言いながらすでに星歌の心は傷ついて、俺に助けを求めていたのに気づかず星歌のためだと思い突っぱねようとしていた。
 俺は星歌に元気をもらっている癖に、星歌には何も与えられない。
 ……最低だな俺。

「そんなに落ち込むなって。お前だって星歌のために自分を押し殺して、無茶苦茶な修行してきたんだろう? 太と黒崎から聞いたよ。昼間はあいつら同時に稽古を付け、夜はガーロットと戦闘を繰り返し続けた。そんな状態で一度本気のガーロットと対戦して、ボコボコにされ生死を彷徨ったそうだな?」
「さすが聖霊だよな。それでも最初のうちは互角と思っていたが、すぐに格の違いを見せつけられたよ」

 二人とガーロットには一週間の修行のことは黙っていろと言ったいたはずが、すでに龍ノ介にはもろバレで冷静に何があったのかを言われてしまう。滅茶苦茶怒っている。

 ガーロットでなければ俺はとどめを刺され確実に殺されていただろう。
 だがガーロットの戦闘は久々に全力を出し切れて、こんな感情を持ってはいけないんだが楽しめた。もっと実力をつけたら再戦を申し込みたい。

「オレ達の目的はあくまでも忍打倒だ。必要以上に力を追い求めたら、地球に戻れなくなるぞ」
「そんなことは分かってる。忍の実力が分からない以上、これは必要なことだ。地球に戻ればすべて捨てられる」

 必要以上に心配する龍ノ介の言いたいことは分かってありがたいとは思うが、俺だって考えがあって行動をしている。

 あの時の忍を倒せたのは星歌の力であって、俺は何も出来ずに終わっている。
 今回も全員がそれぞれ強くなっているが、忍の方もそれは同じ。どのぐらいの軍勢を引き連れているか分からない。だから強くなれるだけ強くなっても損はない。鋼の精神さえ手に入れれば、戦闘が好きな自分だって抑え込めるはずだ。

「今度は最後までオレには背中を預けてくれよな? 魔王戦での仕打ちはごめんだからな。そんなにオレは頼りないのか?」
「言われなくても、そうするつもりだ。実の所魔王とサシで戦いたかっただけで、誰にも邪魔をされたくなかったんだ」
「は、そんなくだらない理由だったのかよ? この戦闘バカ」

 今まで隠していた魔王戦の真相。
 聞いた瞬間拍子抜けした声を出され、呆れられ結構本気のチョップをお見舞いされる。

 こうなると思ったから言いたくなかったんだ。

 魔王との戦いが楽しくてしょうがなかった。

 そんなこと言ったら、世界中から非難されただろう。

「すまん。あの時は自分は魔王より強いと錯覚もしていた。実際五分五分で紙一重の差で決着がついたんだがな」
「そうそう。腕は一本肩から吹っ飛んでるし、もう片方も辛うじてくっついている程度。全身は複雑骨折のオンパレード。あの時は助からないと覚悟したぐらいだ。治療するのに丸一日。意識を取り戻したのは二日後。動けるようになるまで三日掛ったよな?」
「龍ノ介がいなければいくら自然治癒があったとしても、冗談抜きで回復する前にモンスターの餌食になってた」
「だったらオレはお前の命の恩人だな」

 星歌に聞かせたら喪神してしまうだろう当時を、俺達はふっと懐かしむように語り合う。
 この真実を正直に話したのは、ルーナス先生だけ。スピカとヨハンには内容が内容なだけに話せず、龍ノ介がうまく隠蔽してくれた。とは言え魔王戦で大切な仲間を亡くしている。懐かしむと言うのは不謹慎だった。
 
「そうだな。どうだこれから久しぶりに一戦交えるか?」
「な、オレ言ったよな? 明日いっぱいは安静にしてろって。軽いジョギング程度ならまだいいが、普段通りのトレーニングはもちろん禁止。その代わり」
「え?」

 軽い気持ちでそう言ったのだが龍ノ介から真顔で却下され、素振りはもう終わりなのか肩を軽く叩かれる。

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