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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”

22.聖女の泉の洞窟

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「この洞窟の奥に聖女の泉になります。今は聖なる結界が張られているため、現在はセイカ様と聖霊チョピのみが通れます」
「それは危険じゃないのか?」
【それなら大丈夫。聖女の護りし戦士の中から一人だけ付き添いで選べるよ】

 セレス姫に案内されたのは、住居地域から離れた人通りがない森の中の洞窟だった。
 うっそうとしていて不気味な辺りに反して、洞窟の中からは清らかな空気が流れている……気がする。
 私とチョピだけが入れないことを心配するパパだけれど、チョピの言葉ですべて解決されて私もホッとする。
 
 いくら清らかな空気が流れていて、聖なる結界が張られていても、洞窟にチョピと二人だけで入るのは抵抗があった。
 確かに私にはカマイタチがあるけれど、襲い来る相手に使えるかと言われれば分からない。
 だから百人引きだ。

「一人の付き添いが可能みたい。だからパパ、よろしくお願いします」
「喜んでそのお役目引き受けます」

 その相手は悩むこともなくパパを選びお願いをしたら、パパったら嬉しそうな笑みを浮かばせ私の前に跪きそう言いながら私の手を取る。
 娘と父と言うより聖女と戦士のやり取りで、辺りは微笑ましいムードをかもし出す。

【あれ、ツヨシじゃなくて良いの?】
「いいの。私にとってはパパが一番のヒーローなんだから」
「良かったな星夜。まだ星歌の一番で」
「……ああ」

 少し納得を行かないチョピの疑問に恥ずかしいと思いながらも、打ち消すようにパパが私の一番だと言い切った。それで龍くんに茶々を入れられるパパだけれど、そんなの関係ないようで鼻の下が伸びきっている。

  つよしを付き添いに選んだとしたら、いろんな人に感づかれて本人にも気づかれる危険がある。
 それに つよしにはまだまだ役不足だし、迷惑かも知れない。
 その点パパだったら強いし私を一番大切にしてくれているから、間違えなく適任。

「星ちゃん、頑張ってきてね」
「星歌。待っているからな」
「うん、二人ともありがとう。じゃぁいってくるね」
『いってらっしゃい』

 太陽に笑顔で応援と見送られ、私とパパとそれからチョピは洞窟に入り聖女の泉をめざす。





「ねぇチョピ。聖女の泉で私は何をすればいいの?」
【みそぎをして、番人をしている聖獣の加護をもらえばいいんだ】
「え、みそぎだけじゃなく、番人の聖獣から加護をもらう?」

 洞窟の中は清らかな空気に包まれていてヒカリゴケのようなもので洞窟内は明るく、イメージしていたじめじめ薄暗い洞窟とは正反対だった。
 だからなのか緊張感は徐々に薄れ初め気軽な気持ちでチョピにこれからのことを聞いて見ると、チョピは楽しそうに楽しくないことを答えら再び緊張をするはめになる。

 聖女の泉と言うぐらいだから良くあるパターンで身を清めるだけだと思っていたら、聖獣の加護って何か試練があるの? 
 まさか聖獣と戦って聖女の素質を計るとか……?

「チョピ、それは危ない行為はないだろうな?」
【ないよ。 セイカならすぐ気に入られるから大丈夫。それにこの洞窟は聖域だから悪しき者が……】
「え、何? それ一番怖いフリなんだけど」

 心配性のパパの問いに自信満々なチョピは答えるの何かを察知したのか、いきなり話を中断させ鼻をクンクンさせ辺りを見回す。
 その姿は愛らしいけれど、今の状況からしてイヤなフラグしか立ちません。

「星歌はそこの岩陰に隠れていなさい。父さんが倒すから」
「それってやっぱり魔獣? チョピ、ここは聖域じゃなかったの?」
【聖域だよ。今はちゃんと結界が発動されているから、魔獣は入ってこれないはずだよ】

 瞬時に戦闘体制に入るパパの言う通りチョピを抱き急いで岩に隠れつつ、小声で悪くないチョピに文句と確認をする。しょんぼりするチョピはそれでも安全性を訴えるけれど、空気がいきなり張り詰めた空気に変わった。

 聖なる場所の結界に入れる魔獣なんだから、滅茶苦茶強いんだよね?
 パパなら大丈夫だとは思うけれど、もしもの時はカマイタチで応戦しよう。

 ドシン ドシン

 軽い地響きに似た足音が聞こえると供に、見上げないと頭上まで見えない魔獣が姿を現す。巨大な虎の姿。どす黒いイヤなオーラーをまとっていて全体に黒く、見ているだけでも怖ろし……苦しんでいる?

 なぜか本能的にそう思ったけれど、魔獣はパパを見つけ突進してくる。
 
【あれは聖女の泉の番人 聖獣ガーロット。でもなんであんなに穢されてるの?】
「え、これが聖獣?? 穢されるって闇に墜ちたってこと?」
【分からない。だけどガーロットはとっても強いから、セイカのパパでもあぶ……】


 バジーン


 血相を変え危ないと言い終わらないうちに、パパは襲いかかるガーロットに跳び蹴り。


 ドジャーン


 きれいに蹴りが決まり私達の目の前を通過し壁にぶち当たり地面にたたき付けられる。
 それはまさしく瞬殺でガーロットが赤子に見えるけれど、これがパパのチートの実力。
 
 今でさえこんな強いのに、英雄時代はどんなに強かったんだろう?

【セイカのパパ、メチャクチャつよーい。ガーロットを一撃で倒すなんて】
「うん、私のパパは世界で一番強いんだもん!! パパ、やったね」
「え、このぐらいたいしたことない……ありがとう」

 そんなパパを見て何も思わない人なんているはずもなく、チョピもまたパパの虜になり褒め称えパパの頭上に飛び移る。パパが褒められると自分が褒められた以上に嬉しくて、偉そうにそう言いながら私もパパに抱きつく。
 恥ずかしそうにも嬉しそうなパパの姿は、ガーロットと戦った気迫は一切なかった。
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