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1.入れ替わり

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それは、本当に偶然の出来事だった。

他人に話したって、信じてはもらえないだろう。

だってそれは、普通だったらあり得ないことなのだから。





「ねぇ、私達一週間入れ替わらない?」



金髪のパーマがよく似合う美少女が、無邪気な笑みを浮かべながらそう突然訪ねられた。



少女の名前はジュリアン。

あたしの好きな漫画の主人公で、世界の王女様だ。

ストーリーは、彼女と彼女に使える五人の者達が世界の起きる事件を解決していくアドベンチャーロマンス。各話によって恋愛対象が変わっているため、結構人気のある漫画だったりする。

そのジュリアンがいると言うことは、これってあたしの夢なんだ。



「うん、いいよ」



全てを理解したあたしも笑顔で考えなしに答えると、



「本当に?じゃぁ、お願いね」



ジュリアンはますます笑顔になる。その表情はもう天使とも言えるだろう。













「王女様、朝ですよ。起きて下さい」



温かい聞き慣れない女性の声が聞こえ、寝ているあたしの体を優しくさすり起こそうとする。



「お願い、後五分寝かせてよ」



寝ぼけているあたしは口癖を言いいつものように蒲団にくるまろうとしたが、異変に気づき勢いよく飛び起きる。



声の持ち主であろうメイド服を着た恰幅の良い女性が、驚いた表情であたしを見つめている。

もちろんあたしはその女性なんて見覚えがない。

第一一般家庭の家にメイドなんかいるはずもない。

しかもこの部屋もあたしの部屋とは違い、広くてちゃんと片付けている。



「誰?」



首をひねり目をこすりながら、女性の目を見て真面目に訪ねる。



「あら、イヤだ。王女様、何を寝ぼけているのですか?」



女性は笑い、そう答える。

どうやら冗談だと思われているらしい。



「え、まさか?あの手鏡を取ってくれませんか?」

「?はい、どうぞ」



あたしはさっきの夢を思い出し女性から手鏡をもらい、顔を見るとそこには青いつぶらな瞳と愛らしい唇、色白の肌をした美少女が写っている。

それはまさしくジュリアンの顔だ。



「オーマイガー」



あまりにもビックリしたあたしは思わず、悲鳴に近い大声を上げたしまった。



あれは夢じゃなかったの?それともまだこれは夢の続きなの?



頭の中が混乱していると、廊下の方から複数の足音がこの部屋に近づき扉は勢いよく開く。すると男性三人の姿が現れる。



「何事ですか。姫?」



ジュリアンと同じく金髪でさっぱりした髪型で、一番背が高い落ち着きのあるロイド。



「怖い夢でも見たの?」



幼さが残っている愛らしい顔立ちをしたこの中で最年少のフルマ。



「顔色が真っ青ですよ。お風邪でもひかれたのでしょうか?」



腰まであるストレートの緑の髪で、おっとりした顔のルミネ。



全員してあたしのことを心配しているようだ。

三人ともジュリアンに使える優秀な美形キャラ達である。

ロイドはリーダー的存在でジュリアンに忠実なお堅い人。

フルマは心優しき将来有望な医者の卵。

ルミネはマイペースなジュリアンの家庭教師。



「あ、うん。ちょっと寝ぼけていただけです」



取り敢えずあたしはそう答えた。



どうせ本当のことを言ったって信じてくれるはずがない。

それにそんなこと言ったら、良く分かんないけどジュリアンに悪い気がする。



「そうなの?でもなんでもなくて良かったよ」

「心配掛けてごめんなさい。大声出したら目が覚めちゃたみたい」



本当に大声を出したら頭の中がすっきりした。

こうなったらなんだか知らないけど、一週間しっかりジュリアンのフリをするしか方法はない。



「おはよう、ジュリアン。騒がしかったみたいだけど何かあったの?」



と遅れてきたのは、ジュリアンの幼馴染みで兄貴分のチャールド。

チャールドはジュリアンの用心棒でもある。



「ちょっと、寝ぼけていただけだから」



再び同じことを言うあたしに、他の四人は苦笑する。



「最近忙しいから、疲れてるんじゃない?」

「そ、そうかもね」



あたしは適当に話を合わせる。



下手な嘘を付いて突っ込みを入れられるよりこっちの方が悪知恵を使わなくて済む。



「きっとそうだよ。そうだ、今日はゆっくりと休んだ方が良いんじゃない?」

「それはいい。一日とは言わず、二、三日別荘に行かれてはいかがです?」



チャールドの提案は、とんでもない方向に行こうとしている。ルミネがそう言えば、間違いなく実行されるだろう。



あたしにとっては好都合なんだけど。



「リモス、馬車の手配を頼む」

「かしこまりました。ロイド様」



ロイドが指示すると、女性はお辞儀をしてジュリアンの部屋を後にした。



「僕あそこの森大好きなんだ。姫様、一緒にお散歩しようね」



たちまちフルマは笑顔になる。他の人達の顔も和んでいる。







「なんだよ。朝っぱらからうるせぇな」



そんな話をしていると、赤毛でゴーグルが印象的なフィルが機嫌悪そうに欠伸をしながら入ってくる。



ジュリアンに仕える最後の一人で、ぶっきらぶうな上がさつな幼馴染みのエンジニアだ。



「お前、また徹夜したんだろう?」

「別に良いじゃんか。・・・ってお前誰だ?」



あたしの顔を見るなり、フィルは変な顔をして指さしながら訪ねる。だがロイド達は変な顔であたしではなくフィルの顔を見つめた。



一瞬沈黙が走る。



「誰って、姫様に決まってるじゃない?変なフィル君」



そして当然そうに笑みを浮かべながら答えるフルマ。



「お前も寝ぼけてるんだろう。だからいつも十一時までには寝ろって言ってんだ」



続けてチャールドも笑った。



「バカ野郎。いくら寝ぼけていてもジュリアンの顔を見間違える訳ねぇだろう。お前らこそ寝ぼけてるんじゃねぇか?こんなどブスがジュリアンな訳」



 バシ



次の瞬間あたしは思わずフィルの顔面をグーで思いっきり殴っていた。それは思いっ切り入ってしまったらしく、フィルは倒れ込んでしまった。全員今度は引きつった顔に変わった。



「少しフィルと話したいことがあるから、二人だけにしてくれる?」

「はい。それでは失礼します」



それだけ言って全員はジュリアンの部屋から出て行った。



どういう訳か知らないが、どうやらフィルにはあたしの本当な顔が見えるらしい。何とかしなければ。







「解ったよ。協力すれば良いんだろう?」

「うん、ありがとうフィル」



全ての事情を(あたしが解る範囲で)説明し、渋々ながらそう納得してくれた。あたしの顔に笑顔が戻る。

もしみんなにばらすと言われたらどうしようかと真剣に悩んじゃった。



「それで、お前の名前は?」

「あたしの名前は永染実沙。高一の十六歳」

「ナガソメミサって、ドジでおっちょこちょいの好奇心旺盛な台風娘の?」



なぜかあたしの性格を言い当てるフィルに、あたしは戸惑う。



「な、なんで、知ってるの?」

「この世界ではお前を主人公にした学園青春物の小説があるんだよ。ジュリアンが好きなんだ」



あたしを主人公にした小説って一体どんなことが書いてあるの?

読みたいような読みたくないような複雑な気分。



「そうなんだ。フィルは読んだことあるの?」

「ああ。一作だけだがすげぇお前ドジで笑えた」



フィルが初めて笑った。

あたしはそんな笑顔に見とれてしまう。

だってフィルはあたしが一番好きなキャラなんだもん。意地悪で素直じゃないんだけど、本当はすごく優しいキャラなんだ。



「な、何、ジッと見てんだよ。気持ち悪いだろ」

「あ、ごめん」



焦ったあたしは少し顔を染め笑った。やっぱり現実でも口の悪さは天下一品のようだ。気おつけないといけないな。

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