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「みんな聞いてくれ。旅客船のことなんだが、往復王家専用船を用意させた」
「王家専用船?」
「そうだ。と言ってもお忍びで使うものだから、たいしたことがないから気にしなくていい」

 研究室にレオがやって来るなり、ぶっ飛んだスケールの大きい話を始める。驚くだけで何も反応できない私達に、たいしたことないとあっさり言うけどありありだろう。

 皇太子の私用で船を出す……王族なら当然か。

「ありがとう。だったらキャンセルできるのか?」
「はい。この便はキャンセル待ちも多いので、まだ大丈夫です。帰りの予約は明日でしたしね」
「ではキャンセルしてくれ。クサナギ女史には私から伝えておく」

 我に返ったフランダー教授は気を取り直し先輩に指示し、リーダーに連絡するのか教授室に戻って行く。

 花音の件でいろんな人達から怒られたフランダー教授は、すっかり大人しくなり無茶ぶりはなくなった。
 おかげで準備は平穏にシクシクと進んでいる。
 試験は難なく終わり結果待ちで、今は前倒しで貰った宿題をみんなで片づけ中。後十日で出発だ。

「レオ、どうやって船を用意させたのですか? まさか馬鹿正直に話したとか?」
「正直に話したら、止められるに決まってるだろう? 友とバカンスに行くと言ってある。そう言うエミリーはどうしたんだ?」
「私はフランダー教授の発掘調査に同行すると言ってます。詳しい場所は曖昧にしてます」

 レオは意外にも嘘がつくのがうまいらしい。私もそう言いたかったんだけれど、顔に出てしまいそうだったから微妙な嘘で乗り切った。

「その手でいけるんだな。俺もそうすればよかった。父上は二十二歳まで何をしても良いと言われている。王位継承するのは四十歳の予定だからな」
「王様はレオのことをちゃんと考えてくれているのですね?」
「そうだ。父上は最高の父上だ」

 目を輝かせて迷いなく断言するレオが羨ましかった。

 エミリーの両親は、十一歳から王妃教育漬けの日々。自由時間は週に半日だけしか与えられず。だから悪役令嬢となった。
 現在はレオとの仲が良好だと知った上で、夏季休暇の自由が許されてと言う感じだ。つまりレオとの仲が良好にならなかったら、いくら教員付きでも許されなかったんだと思う。
 飴と鞭教育だろうけれど、極端に飴が少ない。ダメ親の典型的なパターン。

「そう言えば王様と王妃様は、若かかりし頃冒険者だったんですよね? 二人とも王族なのに破天荒だったそうで」
「らしいな。詳しくは恥ずかしいからと言って、教えてくれないが。って言うかどうしてカイリがそれを知っている?」
「伯父様が二人と一緒のパーティーだった見たいで、いろいろと聞いています」
「私達その話が大好きなんです。冒険にも憧れていたので、今回はとっても楽しみなんです」

 私も知らない衝撃的事実を、双子はニコニコしながら話し出す。

 モブキャラだった王様と王妃様には、とんでもなく素敵な過去があった。
 お堅いイメージでいたけれど、現実ではオンとオフがちゃんと出来ている人達なんだろうな。エミリーの両親もそうだったら良かったのに。

「張り切ってるとこ悪いんだけれど、シャーロットさんは参加するの?」
「いいや。彼女は故郷に帰省してこれからのことを考えるそうだ。誘われたが先約があると言って断った」
『…………』

 たまにと言うかレオは結構鈍感だ。

 それがどんな意味があるのかはレオ以外の誰もが気づき、信じられないと言わんばかりの冷たい視線で彼を見つけた。
 そんなイベントなかったけれど、あったら絶対恋愛フラグをへし折った奴。

 この人は本当にシャーロットも好きなのだろうか?

「なぜそのような覚めた眼差しで俺を見る?俺はエミリーを護ると約束してるんだから、断るのは当然だろう」

 臭い台詞を恥ずかしがることなく、当然とばかりに言い切った。
聞いた瞬間顔から多分火が出て、心臓も高鳴りだす。嬉しいやら恥ずかしいやらで、すっかり私は恋する乙女なんだろう。

 さっきレオが鈍感だと馬鹿にしてすみません。
 私のことをちゃんと考えてくれたんですね?

「すみません。それなら問題ありません。お嬢様を優先して頂き、ありがとうございます」
「私もごめんなさい。そうですよね? お嬢様との約束の方が大切ですからね」
「エミリーちゃん、良かったね」

 冷ややかな周りの空気は、一気に祝福ムードに変わった。

「そそうね。宿題を再開させましょうか?」

 これ以上から変われるのは勘弁だから、そう言いやりかけの宿題を再開させる。

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