上 下
35 / 56

35

しおりを挟む

「あんちゃん、来たんだな。今日は有名な考古学の先生が来てるんだ。後で紹介してやるよ」
「こんにちは。それは嬉しいです」

 難いの良い現場監督っぽいおじさんが気さくにレオに声をかけると、レオは笑顔で挨拶を交わし会話を始める。和気あいあいでここに通ってることがよく分かる微笑ましいシーンだ。
 そんなことより有名な考古学の先生にバリバリ思い当たる私は、地味にヤバさを感じてしまい

「ヌク、フランダー教授を見つけ出して“私とレオがお忍びで来ていて、偽名を使ってる”って伝えてくれる?」
「うん、分かった。バレたら大変だもんね。偽名も教えておくね」

 小声でヌクにそんな伝言を頼み、現場監督っぽい人に見つからないよう先に行かせる。
これで多分大丈夫。

「所でそのお嬢ちゃんは、あんちゃんの彼女かい?」
「はい。トモって言って、俺と同じで考古学に興味があるんです」
「よよろしくお願いします」

 言葉に出して言われると気恥ずかしいと思いながら、変に思われないよう愛想良く挨拶をする。

 まぁ婚約者なんだから恋人か。

「こちらこそよろしく。俺の名はパルマ。そんじゃぁしばらくいつものように好きに見てくれ。また後でな」
『はい』

 この台詞でレオがどんなにここへ通いつめてるのか分かった。しかもシャーロットとではなく一人て来てるから、私にも愛想がいい。

「ねぇ有名な考古学の先生って誰だと思う?」
「え、そんなの決まってるだろう? フランダーあっ?」

 パルマさんを見送りながら小声で聞いてみると、当然に答えようやく質問の意味を知ったらしい。しまったとばかりの声をあげ、罰の悪そうな表情を私に向ける。
 予想がついてたのに頭が回んなかったのか。
 これからもお忍びライフを楽しみたかったら、もう少し危機感を持つべき。

「ヌクに伝言を頼んだから大丈夫だと思うけれど、考古学系ならあらかじめフランダー教授と口裏を合わせるべきでしょ?」
「そうだった。すっかり忘れてた。機転を効かせてくれてありがとう」

 滅茶苦茶素直だった。 



「トモここにいたんだな? 試したいことがあるから、一緒に来てくれ。ライアンも」
「え、はい」

 レオのマニアックな説明付きですっかり楽しみながらの見学中、いきなりフランダー教授がやってきて合意の元連行される。興奮気味のフランダー教授を見れば、何かあると一目瞭然。レオも目を更に輝かせ、私達の後をおう。

 何を私で試すんだろう?
 ちょっと怖い。



「これは異世界から聖女を呼び出す装置だと言われてる」
「は、そんな伝承あるんですか?」

 地獄の門のような遺跡の前でフランダー教授は宣言するも、見に覚えのない私は耳を疑い聞き返す。

 そんな設定私は知らな……初期設定の主人公は、異世界の女子高生にしていたんだよね? でもそれだとエミリーは悪役令嬢じゃなく姉御キャラになりかけたから、平民の特待生に変更した。
 それなのにどうして?

「一冊の古文書にな。それによると女魔王を倒した聖女が異世界人と言われてる。──つまり君とアーサーのご先祖様だ──」

 どうやら全部は消し切れてなく、一部だけ残っていたらしい。確かそんな設定だった。
 そして私との約束を覚えていたようで、後半は耳打ちされクスッと笑う。

「なるほどですね? それでフランダー教授は私に何を触れさせたいのですか?」
「この門だ。そして異世界から聖女を召還させる」
「……は? フランダー教授あなたは馬鹿なんですか?」

 とても人間とは思えない阿保過ぎる台詞に、私は軽蔑し暴言を吐き捨てる。スリッパで叩きたかったけれど、そこは一応教授なのでぐっと堪えた。

 天才は人間として壊れているって言うのは有名な話ではあるけれど、まさかここまで奇天烈な発想をするなんて思わなかった。常識なんかない。
 この世界はいつからギャグマンガになったんですか?

「何がそんなに気に食わないんだ?」
「すべてです。なんでこの平和な世に、異世界から聖女なんて召喚するのですか? 興味本位で気軽に呼び出された聖女様が大迷惑です」

 一般常識を強い口調で教える。フランダー教授はハッと考え込み、レオは迫力に押されたのか私から視線を逸らす。

「それなら我々は監禁されたクード神の元に向かうから、もしもの時の保険だな」
「聖女を保険に使ったらいけません。そう言うことなら私は帰らせてもらいます。ヌク、レオ行きましょ?」
「うん」
「そうだな。流石に俺もそれはないと思う」

 くだらない理由の上塗りに、説得するより鍵の私がとんずらすれば良いと考え冷めた口調で別れを告げる。
 レオも私と同意見でドン引き寸前で、さっさとここから離れようと。
 しかしここはお決まりなのか、バナナのようなヌメッとしたものに足を捉え滑って転けそうになる。とっさに近くにあった物に掴み、なんとか踏みとどまり危険を回避。

 これ滑って転けたら、私死んでた?
 デジャブ?

 カチャ

 ホッとしたのも束の間で、ボタンを押す感触がある。
 
「……門が光り始めたぞ」
「え、あ本当──」

 レオの呆然とした言葉に私は視線を門に向けると、確かに光り輝き出している。
 それはあまりにも崇高な物に見え、不思議と目が離せない。それは私だけではなく、レオとフランダー教授も同じ。
 絶対これはヤバい状況なのに、そう言うことも忘れていた。

 そして扉がゆっくりと開かれる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...