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しおりを挟む「朋子さん、申し訳ありません」
「え、エミリー? 何どうしたの?」
目の前でエミリーが土下座をしていた。あまりの突然のことに意味不明で、頭の中は大混乱。
まずはどこを突っ込んでいいか分からないけれど、なんでエミリーが目の前にいるの?
鏡?
だったら私が土下座してんの?
なんで?
「朋ちゃん、実はね。エミリーちゃんが復活したから、事情をすべて話したの。そしたら同期する前に一度現状を見てみたいって頼まれたから、一日だけそうしたの」
ヌクまで出て来て、真相を話し出す。
イヤな予感は気のせいだと言って。
「まさかまた悪役じゃなくって高飛車したとか?」
「それはしてません。ただ……」
「あがり症になって、目を合わせられず、会話が出来なかったんだよね?」
「だって双子はすっかり友人になってくれていたんです。その上あんなに冷たかったレオなんて、こんな私にすごく優しく声を掛けてくれるので……」
ニコニコのヌクに促され、エミリーは頬を赤く染め小声で理由を語る。
まったく最悪事態なんかじゃなく、むしろ可愛すぎる展開。
あの極悪令嬢エミリーがあがり症になったら、誰だって驚くよね?
その場面を見たかった。
「可愛いね。エミリー」
「!!」
ますます真っ赤に染め小さくなり言葉を失う。
こんな子を悪役令嬢にさせた私は鬼だな。
これからは全力で私が護ります。
「それで朋ちゃん。エミリーちゃんはしばらく同期しないで、朋ちゃんを通して見たいんだって」
「ええ。同期してあがり症が表に出たら、やりにくいと思うの。ですからある程度ならしていきたいのです」
それでも可愛い気もするけれど、私はエミリーの意志を尊重する。
これから先何十年も一緒に生きて行くのだから、無理矢理はしたくない。
「分かった。所でレオのことだけど、エミリーは好きなの?」
「好きだと思うわ。幼い頃に婚約者だと言われて以来、好きになることを心がけていたの。昔のレオはとても優しかったから、不満なんて何一つなかったのです。でも私がレオの婚約者として接しようとしたら、変に空回りしばかりの失敗続きで自分がイヤになりました。次第にレオは冷たくなっり喧嘩も多くなってしまって。私はただレオの傍にいたいのなら、ちゃんとした覚悟を持って、しっかりするようシャーロットに忠告しただけだった。なのに気がついたら見下していて、シャーロットのことを何一つ知らないのに相応しくないと決めつけていました」
エミリーの恋心は思い込みから始まったかもだけれど、レオを大切に思っていることは確か。この様子だとその気持ちは、まだ恋愛感情とは呼べない物なのかも?
だからなのかシャーロットには親切心でいろいろ助言したつもりが、物の見事に真逆の結果になり悪役令嬢になった。
エミリーったら王女のプライドを優先する生真面目さんだから。
本当はこんな可愛いのに。
「エミリーちゃん、元気出して。きっと朋ちゃんがなんとかしてくれるよ」
「ええ。ドーンと任せなさい」
そんなエミリーを見てヌクに頼りにされたら、何が何でも助けてあげたくなる。
そもそもこんのぐらいなら、いくらでも軌道修正する。
「お願いします。それからシャーロットの豹変っぶりは、やはり私のせいですよね?」
「まぁね。あれでも当初よりかだいぶ落ち着いたんだけど」
やっぱり聞かれたシャーロットのこと。
ショックを受けないようオブラードに答えたのに、顔面蒼白になりわなわなと震えヌクをぎゅっと抱きしめる。
え、シャーロット何をやらかしたの?
最近のシャーロットは重婚は反対のようで、レオとギクシャクしてる。
私には諦めろとか勝負だと言って……あ、これがエミリーには怖いのか。
「なぜ重婚が嫌なのか分からないです。それとも重婚とは貴族だけなんですか?」
「うん。重婚は貴族の特権だからね。そもそもシャーロットはエミリーが大嫌いだから、一緒に妻になるのはヤなんじゃない?」
「!! 真実を言って誠心誠意謝れば、よろしいのでしょうか?」
「それ私もしたけど、駄目だった。謝り続けるのは良いと思うけれど、関係は修復出来ないと思う」
当たり前のように重婚を受け入れ分かっていないようだから、可哀想だと思っても真実を伝える。
例え誤解だとしても、シャーロットを豹変するまで傷つけたのはエミリー。
誠心誠意謝って態度で示して許されたとしても、心の傷は消えないと思うんだよね。
重婚なんてしたら一生周囲から比較されてしまう。そう言うのもイヤなんだろうな?
だから距離を取るのが一番。
「──悪いのはすべて私。でしたら私自ら手を引くしかないですね」
「本当にそれでいいの? エミリーはレオを諦められる?」
「…………」
エミリーが素直過ぎてその方が良いはずなのに、泣き出しそうな表情に身体も振るわせてる姿に、それじゃ何も解決しないと思った。
本心だけれど、本心じゃない。
「私がシャーロットをすごく傷つけたのですよね? そしたら償うことは当然です。レオとシャーロットが両思いなのですから、政治的婚約者の私は邪魔なだけです」
理屈的にはその考えは大正解なんだろう。
でも自ら婚約破棄なんかしたら絶対に後悔するだけでなく傷つく。そしたら女魔王の魂が目覚め身体を乗っ取られて、ゲーム通り破滅ルートで私は死ぬ。
だめでしょ? それ。
婚約破棄するのならば、あくまでもWin-Winになるようにしたくない。
私は何度も言うけれど、死にたくないんだよ。
「そんなことないよ。レオくんはエミリーちゃんが大好きなんだよ」
「そうだよ。レオが両方好きって言っている以上、レオの意志も尊重しないとね」
本気でレオから何も思われてないと思ってたようで、レオの気持ちを暴露してもキョトンとするエミリー。分かってもらうため全力で後押しする。
「え、レオが私を好き? どうして?」
「元気いっぱいで優しい所が好きって言ってたよ。昨日だってデートに誘われたでしょ?」
「……はい。でもなんて返答すればいいのか分からなくて、思わず全速力で逃げてしまいました。そのあとシャーロットに会って、なんで断らなかったのと責められました」
私だったらいつもレオの誘いをうまく交わし、シャーロットとは距離を取って何を言われてもスルーでやり過ごしていた。(重婚宣言してからは、レオのアピールが半端ない)
でもエミリーにしたら、あまりの変化に戸惑ったはず。悪役令嬢モードにならなかったのは、ヌクにありのままでいいと言われたからだと思う。
ここで問題なのは、エミリーが恋愛に関して鈍感ってこと。
もしかしてレオへの恋心の真相は、本人にも分かってないのかも知れない。
だったらさっさと白黒はっきりさせて、これからの対策を練るしかないか。
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