上 下
32 / 56

32

しおりを挟む


「朋子さん、申し訳ありません」
「え、エミリー? 何どうしたの?」

 目の前でエミリーが土下座をしていた。あまりの突然のことに意味不明で、頭の中は大混乱。

 まずはどこを突っ込んでいいか分からないけれど、なんでエミリーが目の前にいるの?
 鏡?
 だったら私が土下座してんの?
 なんで?

「朋ちゃん、実はね。エミリーちゃんが復活したから、事情をすべて話したの。そしたら同期する前に一度現状を見てみたいって頼まれたから、一日だけそうしたの」

 ヌクまで出て来て、真相を話し出す。

 イヤな予感は気のせいだと言って。

「まさかまた悪役じゃなくって高飛車したとか?」
「それはしてません。ただ……」
「あがり症になって、目を合わせられず、会話が出来なかったんだよね?」
「だって双子はすっかり友人になってくれていたんです。その上あんなに冷たかったレオなんて、こんな私にすごく優しく声を掛けてくれるので……」

 ニコニコのヌクに促され、エミリーは頬を赤く染め小声で理由を語る。
 まったく最悪事態なんかじゃなく、むしろ可愛すぎる展開。

 あの極悪令嬢エミリーがあがり症になったら、誰だって驚くよね?
 その場面を見たかった。

「可愛いね。エミリー」
「!!」

 ますます真っ赤に染め小さくなり言葉を失う。

 こんな子を悪役令嬢にさせた私は鬼だな。
 これからは全力で私が護ります。

「それで朋ちゃん。エミリーちゃんはしばらく同期しないで、朋ちゃんを通して見たいんだって」
「ええ。同期してあがり症が表に出たら、やりにくいと思うの。ですからある程度ならしていきたいのです」

 それでも可愛い気もするけれど、私はエミリーの意志を尊重する。
 これから先何十年も一緒に生きて行くのだから、無理矢理はしたくない。

「分かった。所でレオのことだけど、エミリーは好きなの?」
「好きだと思うわ。幼い頃に婚約者だと言われて以来、好きになることを心がけていたの。昔のレオはとても優しかったから、不満なんて何一つなかったのです。でも私がレオの婚約者として接しようとしたら、変に空回りしばかりの失敗続きで自分がイヤになりました。次第にレオは冷たくなっり喧嘩も多くなってしまって。私はただレオの傍にいたいのなら、ちゃんとした覚悟を持って、しっかりするようシャーロットに忠告しただけだった。なのに気がついたら見下していて、シャーロットのことを何一つ知らないのに相応しくないと決めつけていました」

 エミリーの恋心は思い込みから始まったかもだけれど、レオを大切に思っていることは確か。この様子だとその気持ちは、まだ恋愛感情とは呼べない物なのかも?
 だからなのかシャーロットには親切心でいろいろ助言したつもりが、物の見事に真逆の結果になり悪役令嬢になった。
 エミリーったら王女のプライドを優先する生真面目さんだから。
 本当はこんな可愛いのに。
 
「エミリーちゃん、元気出して。きっと朋ちゃんがなんとかしてくれるよ」
「ええ。ドーンと任せなさい」

 そんなエミリーを見てヌクに頼りにされたら、何が何でも助けてあげたくなる。
 そもそもこんのぐらいなら、いくらでも軌道修正する。

「お願いします。それからシャーロットの豹変っぶりは、やはり私のせいですよね?」
「まぁね。あれでも当初よりかだいぶ落ち着いたんだけど」

 やっぱり聞かれたシャーロットのこと。
 ショックを受けないようオブラードに答えたのに、顔面蒼白になりわなわなと震えヌクをぎゅっと抱きしめる。

 え、シャーロット何をやらかしたの?

 最近のシャーロットは重婚は反対のようで、レオとギクシャクしてる。
 私には諦めろとか勝負だと言って……あ、これがエミリーには怖いのか。

「なぜ重婚が嫌なのか分からないです。それとも重婚とは貴族だけなんですか?」
「うん。重婚は貴族の特権だからね。そもそもシャーロットはエミリーが大嫌いだから、一緒に妻になるのはヤなんじゃない?」
「!! 真実を言って誠心誠意謝れば、よろしいのでしょうか?」
「それ私もしたけど、駄目だった。謝り続けるのは良いと思うけれど、関係は修復出来ないと思う」

 当たり前のように重婚を受け入れ分かっていないようだから、可哀想だと思っても真実を伝える。

 例え誤解だとしても、シャーロットを豹変するまで傷つけたのはエミリー。
 誠心誠意謝って態度で示して許されたとしても、心の傷は消えないと思うんだよね。
 重婚なんてしたら一生周囲から比較されてしまう。そう言うのもイヤなんだろうな?
 だから距離を取るのが一番。

「──悪いのはすべて私。でしたら私自ら手を引くしかないですね」
「本当にそれでいいの? エミリーはレオを諦められる?」
「…………」

 エミリーが素直過ぎてその方が良いはずなのに、泣き出しそうな表情に身体も振るわせてる姿に、それじゃ何も解決しないと思った。
 本心だけれど、本心じゃない。

「私がシャーロットをすごく傷つけたのですよね? そしたら償うことは当然です。レオとシャーロットが両思いなのですから、政治的婚約者の私は邪魔なだけです」

 理屈的にはその考えは大正解なんだろう。
 でも自ら婚約破棄なんかしたら絶対に後悔するだけでなく傷つく。そしたら女魔王の魂が目覚め身体を乗っ取られて、ゲーム通り破滅ルートで私は死ぬ。

 だめでしょ? それ。
 婚約破棄するのならば、あくまでもWin-Winになるようにしたくない。
 私は何度も言うけれど、死にたくないんだよ。

「そんなことないよ。レオくんはエミリーちゃんが大好きなんだよ」
「そうだよ。レオが両方好きって言っている以上、レオの意志も尊重しないとね」

 本気でレオから何も思われてないと思ってたようで、レオの気持ちを暴露してもキョトンとするエミリー。分かってもらうため全力で後押しする。

「え、レオが私を好き? どうして?」
「元気いっぱいで優しい所が好きって言ってたよ。昨日だってデートに誘われたでしょ?」
「……はい。でもなんて返答すればいいのか分からなくて、思わず全速力で逃げてしまいました。そのあとシャーロットに会って、なんで断らなかったのと責められました」
 
 私だったらいつもレオの誘いをうまく交わし、シャーロットとは距離を取って何を言われてもスルーでやり過ごしていた。(重婚宣言してからは、レオのアピールが半端ない)
 でもエミリーにしたら、あまりの変化に戸惑ったはず。悪役令嬢モードにならなかったのは、ヌクにありのままでいいと言われたからだと思う。

 ここで問題なのは、エミリーが恋愛に関して鈍感ってこと。
 もしかしてレオへの恋心の真相は、本人にも分かってないのかも知れない。
 だったらさっさと白黒はっきりさせて、これからの対策を練るしかないか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...