上 下
29 / 56

29

しおりを挟む
「朋子、完成したぞ。細かい所を調節するから、一緒にこい」
「え?」

 目をギラギラ輝かせすすまみれの友太先輩がやってきたかと思えば、そう言うなり私の腕を強く掴み答えを聞かずどこかに連れていく。
 全速力で廊下を駆け抜け、ジェットコースター気分を味わった。



「ほらこれがお前の武器。鉄扇とブーメランを組み合わせた名付けて飛扇」
「え、とっせん? 思っているより軽い」

 聞きなれない言葉に戸惑いながら、パールピンクの鉄扇らしきものを受けとる。
鉄だからある程度の重さがあると思っていたら、スマホぐらいの軽さだったから、素で驚く。

「だろう? それは特殊な原石をふんだんに使用してるから、それでも頑丈で威力抜群だ。そして開いて要の赤ボタンを押してみろ」
「はい。お~お~レーザーの扇面!!」

 得意気に説明され指示通りやってみると、ライトセーバーならぬライト扇だった。
 ファンタジーがいきなりSFに変身。

「どうだ? これはオレにしかできない技術。レーザー部分は電流が走ってるから気を付けろよ。青ボタンを押すとブーメラン使用となって、投げた後全体に電流が走る」
「すごいです。さすがですね?」

 構造はまったく分からないけれど、すごいことは良く分かった。そしてこれでヌクと遊んだらダメなことも。

「そう言えばヌクは一緒じゃないのか?」
「それが峰岸さんの使い魔雫ちゃんの話でリーダーで盛り上がっていたら、すっかり拗ねてしまって会長室にいます」

 キョロキョロと辺りを見回す友太先輩に、正直に経緯を話すと苦笑される。

「お前ら相変わらず相思相愛だよな。彼氏ができたらそいつ噛み殺されるな」
「彼氏には結構友好的でしたよ」

 どう言うわけだか人には嫉妬しない。歴代の彼氏(と言ってもそんないないけど)にもちゃんと懐いてくれていた。基本人懐っこい子だから、よほどの人じゃなければすぐ仲良くなる。
 ヌクにとっては、人類(生物)みな姉弟なんだろうな?

「そうか。なら朋子、試しにこの缶を落としてみろ」
「分かりました」

 少し距離があるテーブルの端に缶を置き、私の傍に戻って来る。

 ドキドキしながら缶に狙いを定め、青ボタンを押しクリップを利かせ投げる。
 大きく円を作り飛扇は鋭く缶目掛けて飛んでいく。そして缶を捉え切り裂く……


 バチバチバチ


 明らかにヤバいショート寸前の音がした。

「ゲッ!? 朋子、危ない」


 ドッカーン


 友太先輩焦りの声が聞こえ私を抱きしめた瞬間、鼓膜が破けそうな爆音に押し出しされる衝撃を受ける。
 でもそこまで痛みを感じなかったのは、友太先輩に抱きしめられているおかげ。
 心の奥がほんのり温かくなってざわめき始める。

 え、これってまさか?

「朋子大丈夫か?」
「あ、はい。ゆ友太先輩こそ?」 
「ああ、爆破寸前にシールドを貼ったから問題ない」

 私を気遣ってくれる友太先輩の心遣いに、鼓動はますます高鳴っていく。このままでは聞こえてしまいそうで、悟られないようにそっと距離を取った。

 こんなシュチュエーションだったら誰だって恋に落ちる錯覚になる。所謂吊り橋効果って奴で、時間が経てば我に返り恋愛感情は消える……はず。
 もしそれでも恋愛感情があればそれはそれでもいい。大切にしようと思う。別に友太先輩に恋愛感情があるのを否定したい訳ではなく、冷静に考えたらそうでもなかったら恥ずかしいだけ。



「朋ちゃん、朋ちゃん」
「ヌク?」
「良かった。朋ちゃ~ん!!」

 ヌクの気配が猛スピードでこっちに来て、必死になって私の名を呼ぶ。ヌクに視線を向けキョトンとしていると、ヌクは涙を流し私へとダイビング。そこへリーダーまでやって来る。

「友太、何をやらかした?」
「飛扇の威力を侮っていました。部屋ではなく外でやれですよね?」
「そんなの基本中の基本だろう? お前一人でならどうなろうと全然構わないが、朋子を巻き込むな。この馬鹿!!」

 怒りを殺しているリーダーの問いに友太先輩はバツが悪そうに返答すれば、逆鱗はこだまし殴られる。友太先輩はその場に撃沈。

 友太先輩は何も悪くないとは言い切れないけれど、助けてもらってなんともなかったんだからまぁ良いんじゃないかな? リーダーが怒るのはごもっともだけどね。 

「ごもっとも過ぎて、反論のしようがありません。朋子、危険な目に合わせてすまなかった。飛扇の威力は調節しておく」
「はい、お願いします。それから護ってくれてありがとうございます」
「元々オレの責任なんだから、助けるのは当然だろう? そんじゃオレ着替えてくるから」

 滅茶苦茶凹み反省する友太先輩に、私は自然と笑顔でお礼する。
 もう吊り橋効果は切れたようで、胸の高鳴りは収まっていて動揺もない。友太先輩は今度は少し照れそう言い奥の部屋に入っていく。

 ほら、やっぱりさっきの感情は錯覚の気でせい。
 暴走しなくて良かった。

「朋子、お前ひょっとして友太に惚れたのか?」
「吊り橋効果で一瞬だけですけれどね。今は我に返っていつも通りの頼りになる先輩です」
「それはあるあるだな。そんじゃ友太の支度が終わったら夕食を食べに行くか?」
「いいですね? いきましょう」

 誤解を素早く解いて二人で笑い合い、自然の流れで夕食の誘いを受ける。内心待ってましたとばかりの嬉しい誘いに、首を大きく縦に振った。
 誘ってくれなかったら私が誘うつもりで、寮には門限延長と夕食なしの申請を届けていた。貴族中心の学校の割には、その辺は極端に緩かったりする。

「お、乗り気だな? ご令嬢エミリーが行きそうにもない大衆居酒屋にでも行くか? この世界のワインは格別にうまい」
「そうなんですか? でも残念。エミリーは未成年なのでまだお酒は呑めません」

 いかにもリーダーらしいチョイスでいいなとは思ったものの、今の私は未成年なんで軽い口調で釘を打つ。

 この世界もお酒やたばこは二十歳から。エミリーは再来月十七歳。つまり後三年は呑めない。
 お酒は好きだから、これは結構辛い。
 隠れて呑むか?

「そうだったな。なら大衆食堂にしよう」

 あくまでも大衆は外せないらしい。
 反対する必要もないため、そこに決まった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

処理中です...