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お父さんにはどうしても伝えたいことがある

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とある日のお客様は、数年前に亡くなったご主人が夢枕に繰り返し出てくるんですといって相談にいらっしゃいました。
ファミレスではじめましての挨拶をし、なんでも話してくださいと伝えて他のお客様から離れた席につきました。
30歳の奥様は、私の威圧感のない庶民的な様子にほんの少しホッとされたみたいです。

ご主人の夢はどんな夢だったんですか?と伺うとゆっくり話しはじめてくれました。


夢の中のご主人はとても怒った悲しそうなお顔で、薄暗闇のなかにボウっと浮かんでいたそうです。

「あなた!今までどこにいたの?」

奥様は夢の中で叫びました。

ご主人は黙って奥様を見つめています。

「何かあったの?」

ご主人は口を動かして何かを言っているようですが、不思議な音で聞き取れません。

やっと夢で会えたのにどうしてそんな顔をしているの?あの世で何かあったの?何を伝えたいの?と奥様は不安で怖くてたまりません。

それがもう三日も続いていると言うことなのです。

ご主人は三年前に急な病気であっという間に亡くなってしまいました。

病気に気がついてあげられなくてごめんなさい、と奥様はご自分を責め続けました。

でも残された幼い一人娘ちゃんを育てなくてはいけません。

悲しみに堪えてワンオペ育児を頑張る毎日でした。
夢でもいいから会いたい…と思ってやっと夢で会えたのにご主人が悲しい顔をしている。
奥様は目に涙をためていました。

私は、ご主人が何日も夢枕にたっている理由を直接ご主人に伺う事にしました。

相談場所は郊外のファミレスの4人がけ席。

涙を堪えている奥様の横には、ボンヤリとした影が座っています。

シュッとした七三分けの、白いシャツにベストを着た堅い感じの青年男性がいらっしゃいました。
困ったようなお顔をされていて、しきりに頭を下げています。

奥様に私は伝えました。

「今おとなりにご主人がいらっしゃいます」

ええーっとのけ反るような感じで横を見る奥様。
見えませんけど…とおっしゃるので、奥様の腕をとり空気に触れてもらいました。

「やだ、ここだけ寒いじゃない!本当に本当にあなたいるの!?」
奥様の目からみるみる涙が溢れてきました。
ティッシュをお渡しして涙を拭いていただきました。

「奥様、今からご主人が何を伝えたいのか伺いますのでちょっとお時間くださいね」

そうお断りして、生きている人間に話しかけるようにご主人に話しかけました。

「ご主人は何か大切なことを伝えに今日いらっしゃったんですよね?」

深く頷くご主人。

「ゆっくり教えて下さい」

寡黙そうなご主人が口を開きました。

「娘の」

「服が」

「派手すぎる」

目がテンになりました。

復唱しました。

娘の、服が、派手すぎる。

「あ、あのう奥様。」

「はい、なんでしょう」

「ご主人がですね、娘さんの服が派手すぎるとおっしゃってますが」

「やだー!!夢枕に立ってまでそんなこと言いに来たの!ヤーネエ、子供は目立ってなんぼでしょ!?」

そういって奥様は泣き笑いを始めました。

ご主人がまだご存命のうちも

「娘の服、派手すぎやしないか」

「なんでこんなスパンコールの服買うの」

「どうしてこんな毒々しいやつ…」

とちょくちょく文句があったそうです。

保育園を卒園して公立の小学校にあがり、すさまじくド派手ないでたちで登校して、ちょっとした話題になる娘さんの姿にご主人は胸を痛めていたらしく…。

小学校に通う娘を心配して、教室まで見守りに行くご主人の様子が目に浮かびます。

奥様はボロボロ泣き出しました。

「全然旦那が変わってない。ずっと見守ってくれてたのがわかってうれしい。もう怖くも不安もないです。」

しかしキリッとお顔をあげて

「でも!かわいい服は着せ続けるわよ!娘は全然気にしてないんだから!」

そういって笑いだしました。

私はご主人に語りかけました。

「娘さんの服の件は諦めてください」

ご主人はトホホーとした様子でガックリ頷きました。

帰る前に娘さんの写真を見せていただきました。

アアー原色使いのキラキラデコレーションが半端ないなあー…と若干ご主人の気持ちがわかる気がしました。

まあでも死ぬわけでなし!

ファミレスを出たところで笑顔の奥様とお別れしました。

元気そうな奥様とトボトボ歩くご主人を見送り、私は次の案件に向かいました。
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