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第119話:VSフューラー

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 ――――――――――王都コロネリアの某所にて。自然派教団フューラー視点。

「フューラー、どうぞ」
「ありがとうございます」

 私は戻ってきた。
 ウートレイドの王都コロネリアに。
 自然派教団は壊滅したというが、まだこうして私を慕ってくれる者達は多いではないか。

 既にローダーリック王は戦地となるライン川に発ったと聞く。
 ミナスガイエス帝国対ウートレイド王国の決戦は直前に迫っていると言えよう。
 自然派教団の残党を操って王都に騒動を起こしてくれる。
 これで私の手柄は決定的だ。

「フューラー、こんにちはー」
「……こんにちは」

 ニコニコしている黒髪で小柄な少女だ。
 立場上なるべく人を覚えることにしているが、この子には会った記憶がない。
 しかし今まで受けてきた報告の中で、この容姿に当てはまる少女が一人いる。
 まさかとは思うが?

「見かけない顔ですが、あなたは?」
「聖女パルフェだよ。にこっ」

 やはり聖女パルフェか。
 どうして自然派教団のアジトにいる?
 教団員達が得意とも困惑ともつかない顔で言う。

「聖女さんがフューラーに会ってみたいそうなんで、連れてきました」
「御迷惑だったでしょうか?」
「いえ、そんなことはありませんよ」

 最近各方面でやたらと名前を聞く少女だ。
 私も一度会ってみたくはあった。
 一人ならそう脅威とも思えないし。

「しかし聖女殿は聖教会の象徴でありましょう? 自然派教団の集まりに来て、よろしいのですか?」
「いや、フューラー。聖女さんは聖教会の信徒ではないそうなのです」
「どういうことでしょうか?」
「あたしは国防結界の維持のために国に雇われてる聖女だよ。どっちかというと公務員だな」
「……国防結界の維持の是非に関する見解はさておきます。聖女殿は聖教会には関係がないということでしょうか?」
「国防結界を管理してるのが聖教会だから、関係ないことはないけど」

 会話を長引かせよう。
 私の『声』を存分に浴びてみよ。
 さすれば聖女パルフェも、私に同調せざるを得なくなるのではないか?

「あくまでビジネスであると?」
「そうそう。聖女というお仕事」
「聖女さんが慈悲深いことはその通りなんです。一昨年の蜂起未遂事件でも教団員に寛大な措置を提案してくださったんですぜ」
「おかげで厳罰に処された者はいませんでした」
「それはそれは。御奇特なことです。教団を代表して感謝を述べさせていただきます。ありがとうございました」
「いやいや、いいんだよ。教団の皆さんも一皮剥けば悪い人達じゃないってことがわかったからね」

 何だろう?
 私の思い通りに会話を引き伸ばせているが、違和感がある。
 罠に誘い込まれているような……。
 いや、気のせいだろう。

「して、聖女殿は何ゆえ私に会いたいと?」
「国防結界についてだね」
「つまり自然派教団の、国防結界がいらないんじゃないかという主張が気に入らないということですか?」
「まあそう。あたしのお仕事に関する分野だからね。皆はどう思う?」
「フューラー、魔物は怖いです」
「ああ、この一年で恐ろしさを叩き込まれたぜ」
「美味さもでしょ?」
「違えねえ」

 笑い。
 何だ? 聖女パルフェが会話を引き伸ばしているようにも思える。
 あるいは憲兵が駆けつけてくるまでの時間稼ぎか?
 しかし憲兵が踏み込んでくるような緊張感はない。
 万一そんなことになるようなら、王太子の婚約者である聖女パルフェ自身を拉致して逃げおおせればいいではないか。
 恐れることなどない。

『パキッ』

 何の音だ?
 私の従士が不思議そうな顔をしている。

「マントにセットした魔石が破損しました。どうしてだろう?」

 マントの魔石だと?
 魔力を消費し尽くさない限り、そうそう魔石が割れることなどないと思うが。

『パキッ』

 あっ、私のマントの魔石も割れた?
 どうして……こ、この攻撃的な感知魔法は何だ?
 マントで魔力を中和されていたから気付かなかった。
 わざと魔力圧を強くした感知魔法をぶつけて魔石をすり減らし、マントの攻撃遮断効果を無力化したんだな?
 聖女パルフェがにやりと笑う。
 危険だ!

「バインド!」
「がっ!」
「くっ!」

 間一髪結界が間に合ったが従士はやられた!
 魔力解放した『声』を浴びせろ!

「何をするのです! 無作法ではないですか!」
「フューラーの言う通りだ。聖女さん何をするんだ!」
「尊い人なのですよ!」

 そうだ、教団員と馴れ合っていたみたいだが支持を失え!

「何を言ってるかな? あんた達は一昨年の蜂起未遂事件が原因で罰を受けたろう?」
「そ、そりゃそうだが」
「何でトップのフューラーが無実だと考えてるのよ? とっ捕まえて罪に服させる!」
「私は自然派教団のフューラーですよ? 礼節を求めます」
「だから何だ。関係ないわ。罪を犯しても偉い人だと無実になるのがいい社会だと思ってる? 教団員諸君はそんな国に住みたい?」
「「「「……」」」」
「あたしはウートレイドの王妃になるのだ。少なくともあたしの国でそんな不公平で不正義なことは許さん!」

 薄い結界だろうか?
 魔力を乗せた『声』でさえも、聖女パルフェには通用しない。
 おまけに聖女パルフェ自身の説得力が半端ない。
 逃げるに如かず!

「あっ、フューラー何を?」
「罪に服してください!」

 教団員は完全に丸め込まれている。
 ならば死ね!

「皆、あたしの後ろに!」
「ファイアーボール!」
「ディスペル!」

 くっ、屋内に火の玉を撃ち込んで火事のドサクサに紛れようと思ったが、瞬時に解呪だと?
 化物め!

「逃げた!」
「あたしが追う! 危ないからついてこないで。その寝っ転がってる人縛っといてね」

 聖女パルフェが玄関から出てきたところを狙いすまして……。

「サンダーボルト!」
「あまーい」

 轟音とともに直撃と思ったが、また結界か?
 涼しい顔で散らされた。
 凄腕の元冒険者というのは本当のようだ。
 全く隙がない。

「サンダーボルトはよろしくなかったね」
「な、何を?」
「でっかい音がするから、憲兵が集まって来ちゃうよ」
「!」

 しまった!
 聖女パルフェ一人に手を焼いているというのに、この上憲兵に群がられてはどうにもならない。

「何事だ! あっ、聖女様?」
「あの仮面男は、街中でファイアーボールやサンダーボルトを撃ち込んでくる破壊工作員だよ。一昨年の自然派教団蜂起未遂事件を扇動した親玉でもある」
「何ですと!」
「結構な魔法の使い手なんだ。危ないんであたしが相手するよ。絶対に捕まえるから包囲して逃げられないようにしてね」
「わかりました!」

 何故聖女が憲兵を指揮しているのだ。
 わけがわからない。
 しかも憲兵まで攻撃遮断マントを羽織っている。

「あっ?」

 またマントの魔石が割れた。
 どんどん状況が悪くなる。
 これ以上魔石を交換してもムダか。
 ん? 聖女パルフェはどこへ……。

「がっ!」

 目にも留まらぬ速さで寄られて足払いされた。
 身体強化魔法だな?
 全く魔法使いの戦い方じゃない。
 押さえ付けられてマントを剥ぎ取られるが、この距離なら……。

「バインド!」
「おっと、残念。フューラーもバインドみたいなローカル魔法を使えるのか。ドサ回りで苦労してるんだねえ」

 け、結界?
 身体強化魔法と感知魔法をかけたまま?
 どれだけ底知れないんだ。

「フューラー、ちょっとこれ着ててね」
「な、何を?」

 首輪付きのケープ?

「これねえ。着せられた人の魔力を使って拘束するケープだよ。もちろん魔法も使えない。うん、似合ってる。デザイン可愛くしてみたんだ」
「……」

 そんなものを用意していたのか。
 しかしデザインなど関係ないではないか。
 ああ、身体の力が抜けてゆく……。
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