上 下
98 / 127

第98話:カメハメハへ飛ぶ

しおりを挟む
 ――――――――――海洋上空にて。スイフト男爵子息マイク視点。

「海の上を飛んでいるのは、すごく気分がいいにゃ」
「そうだねえ。でも海面に反射する光がちょっと眩しいな」

 オレの一学期の総合スコアは一八位だった。
 二〇位以内に入ったのは初めてだ。
 これも聖女パルフェをはじめとする成績優秀な人達との勉強会のおかげ。
 聖女パルフェの話を聞いていると、何でもできるような気になってくるから不思議だ。

「かなり島影がハッキリしてきたように思えます」
「近いにゃ」
「もうすぐだな。多分あと一〇分くらい」

 今日はモアナ嬢とその侍女キキさんとともに、聖女パルフェの飛行魔法でカメハメハに向かっている。
 当然のようにオレはお供だ。
 何で? いや、最近あまり疑問にも思わなくなってきた気がするけれども。

「私、嬉しいにゃ!」
「そーかそーか。カメハメハは遠いもんねえ」

 夏季休業期間は一ヶ月しかない。
 カメハメハへ普通に行こうと思えば、片道だけでもそれくらいかかってしまう。
 ところが聖女パルフェが飛行魔法を全速で飛ばせば、数時間で着いてしまうとのことだった。
 当然王都コロネリアにずっといるつもりだったモアナ嬢とキキさんは大喜びだ。

「まさか里帰りできるとは思いませんでした」
「パルフェには感謝にゃ」
「あたしもカメハメハ行きたかったんだよ。一度行っとけば、次からは転移魔法で飛べるしな。便利な世の中になったもんだ」
「聖女様だけだよ!」

 聖女様パルフェは転移魔法をちょくちょく使っているみたいだ。
 でもここまでの大掛かりな魔法となると他に誰も使えないし。
 便利な世の中って言われても理不尽だ。

「一度行かなきゃ転移魔法は使えないのかにゃ?」
「いや、実はそーでもないんだけど、危なくて」

 危ない、とは?

「ある座標付近の様子をアバウトに知るっていう、風属性の魔法があるんだよ。この魔法の座標設定の回路は転移魔法にも使われてるものだけど」
「ちょっと関係がよくわからない」
「転移先の情報がわかんなくても転移魔法は使える。けど例えば飛んだ先に何かあったらぶつかるじゃん? 最悪岩壁でもあったら、石の中にいるみたいな状況になる」
「えっ? 怖い」
「でしょ? だから転移先座標の様子を調べてから転移するようにしてるんだよ。その調べる魔法は一度行った場所じゃないと使えないの」

 そういうことだったのか。

「まーでもその調べる風魔法もハッキリ見えるわけじゃないから、今まであんまり使い道がなかったんだよ。こんなふうに活躍の場面ができるとはなー。先のことはわからんねえ」

 先のことはわからんというのは我が身に染みる。
 高等部に進学した時に、学業スコアや魔法の習得が今みたいになることを想像できていたか?
 聖女パルフェには感謝しかない。

「声がカメハメハに届いているかも知りたいしな」
「そうだにゃ!」

 国防結界を出たところで、聖女パルフェがカメハメハに向けて遠隔で声を飛ばす魔法を使っていた。

「距離と方向で大雑把に撃った魔法だからなー。魔道的に邪魔になるものは途中になかったとは思うけど」
「伝達の魔法も、正確な位置に届けられるものなのですか?」
「さっきの理屈になるけど、座標がわかっていれば」
「人にも伝えられるんだろう?」
「人指定はちょっと難しくなるよ。その人の魔力を正しく把握していないといけない。練度の高い感知魔法を必要とするね」
「座標は難しくないのか?」
「そっちは知ってりゃ使える魔法だな。ネッサちゃんは知ってるみたいだぞ? 教科書にもちょろっと理屈が載ってた」

 いろんな魔法を知っていると、あっちにもこっちにも応用が利くんだなあ。
 オレもせっかくだからたくさん覚えてみよう。

「カメハメハにゃ!」
「スピード落とすよ」

 ついに到着だ。
 海岸から内陸へ。
 飛んでるオレ達を指差している人が多い。
 しかし歓迎されてるみたいだな?

「声届いてて、状況がわかってるっぽいな。じゃ、そう驚かせることもないだろ」
「王宮はそのまま真っ直ぐ飛んでくれれば突き当たるにゃ」
「オーケー」

 やがて丘の上にやたらと広い木造平屋の建物が見えてくる。
 これが王宮か。
 ウートレイドとは全然違う。
 南国らしい異国情緒を感じさせるなあ。

「どこでもいいから、庭に降りてくれにゃ」
「わかった」

 フワリと王宮の庭に着地する。
 すぐさま近衛兵らしき者達に取り囲まれた。
 キキさんと何か言い合ってるけど、カメハメハ語なのだろう。
 何を言ってるかはわからない。
 どこかへ連れて行かれるようだ。

「聖女様、何と言ってたの?」
「どーも伝達の魔法が胡乱な技術に思われたみたいだな。どえらいデカい声で届いたみたいで、国民皆が驚いたから取り調べるって」
「どういうメッセージだったんだ?」
「『カメハメハの皆さん、こんにちは。ウートレイドの聖女パルフェだよ。にこっ。今日モアナちゃんと侍女さん連れてそっち行くね』って」
「まともだなあ」
「そーだよねえ?」

 聖女パルフェが首かしげてる。
 いや、伝達の魔法もそうだけど、あのバカげた長距離飛行魔法を知らなきゃ簡単にそっち行くってこと自体が信じられないか。
 どうも聖女パルフェのやってることに慣れちゃうと常識が崩壊するけど。

 大きな広間に通された。
 あっ、モアナ嬢が飛びついてったのは御両親、つまりカメハメハの国王夫妻かな?
 大喜びしてる。
 よかったなあ。

「取り調べって、ただの顔合わせじゃん」
「本当に取り調べされたかったの?」
「そーゆーわけじゃないけど、貴重な経験の機会かなと」

 聖女パルフェの感覚はどこかおかしい。
 人生楽しそうだなあ。
 あっ、モアナ嬢が国王夫妻と思われる方を連れて来た。
 聖女パルフェと話をしてるが?

「やたっ、ありがとう!」
「何だって?」
「すぐ御飯の用意をしてくれるって。お腹減っちゃったから助かるなー」

 聖女パルフェは魔力を消費するとお腹がすくみたいだからな。
 あっ、本当にすぐ料理が運ばれてきた。

「カメハメハの近海で取れた魚にゃ。久しぶりで嬉しいにゃ」
「そーか。王都コロネリアだと、新鮮な魚は食べられないもんねえ」

 オレも実は魚はほとんど食べたことがない。
 どれどれ、香ばしいいい匂いがするぞ、あむり。
 焼いて塩を振っただけだと思うけど美味しい!
 薬味の摩り下ろしたダイコンと合う!
 魚の揚げ物も美味しい!

「これは何だろ?」
「イモだにゃ。イモを茹で潰してつなぎを加えて焼き固めたものだにゃ」
「へー。見たことないものだった」

 ウートレイドでいう、パンみたいなものらしい。
 所変わると品変わるなあ。

「メッチャフルーツが豊富だねえ」
「いろんなフルーツが採れるんだにゃ。お酒も造られているんだにゃ」
「お酒? フルーツの?」
「飲むかにゃ?」
「あたしは飲まないけど、お土産に少しもらってってもいいかな? 有力者に配っとくよ。そーするとカメハメハの果実酒を輸入しようぜってことになるかもしれない」

 聖女パルフェは変なことを考えてるなあ。
 仲良くするためには貿易も大事って思ってるんだろうか?
 酒は腐らないから商売に向いているもんな。

「ごちそーさま。満足です!」
「パルフェ、どうだったにゃ?」
「美味しかった美味しかった。サイコーだな」

 聖女パルフェとモアナ嬢がニコニコしている。
 姉妹みたいだな。
 外見が似てるってわけじゃないけど。

「今日は帰るね。三日後に迎えに来るよ。その時殿下達も連れて来る」

 侍女キキさんの通訳で皆ビックリしてるけど、転移魔法だもんなあ。
 常識では測れなくても理解だけしてください。

「じゃーねー」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

2度もあなたには付き合えません

cyaru
恋愛
1度目の人生。 デヴュタントで「君を見初めた」と言った夫ヴァルスの言葉は嘘だった。 ヴァルスは思いを口にすることも出来ない恋をしていた。相手は王太子妃フロリア。 フロリアは隣国から嫁いで来たからか、自由気まま。当然その所業は貴族だけでなく民衆からも反感を買っていた。 ヴァルスがオデットに婚約、そして結婚を申し込んだのはフロリアの所業をオデットが惑わせたとして罪を着せるためだった。 ヴァルスの思惑通りに貴族や民衆の敵意はオデットに向けられ遂にオデットは処刑をされてしまう。 処刑場でオデットはヴァルスがこんな最期の時まで自分ではなくフロリアだけを愛し気に見つめている事に「もう一度生まれ変われたなら」と叶わぬ願いを胸に抱く。 そして、目が覚めると見慣れた光景がオデットの目に入ってきた。 ヴァルスが結婚を前提とした婚約を申し込んでくる切欠となるデヴュタントの日に時間が巻き戻っていたのだった。 「2度もあなたには付き合えない」 デヴュタントをドタキャンしようと目論むオデットだが衣装も用意していて参加は不可避。 あの手この手で前回とは違う行動をしているのに何故かヴァルスに目を付けられてしまった。 ※章で分けていますが序章は1回目の人生です。 ※タグの①は1回目の人生、②は2回目の人生です ※初日公開分の1回目の人生は苛つきます。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月2日投稿開始、完結は11月4日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...