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第91話:初めての魔法実技その1
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――――――――――学院高等部講堂にて。ゲラシウス筆頭枢機卿息女サブリナ視点。
今日は初めての魔法実技の講義。
全クラス合同で行うので、講堂に集まっている。
でも冒頭のアルジャーノン先生の説明に目が点になった。
「一学期中に回復魔法ヒールを覚えてもらいます。習得できなければ補習です」
な、何で?
ヒールの習得は、単位の取得条件でもあるのでしょう?
一学期中なんて、そんなのムリに決まってる!
動揺しているのは私だけではないわ。
即刻抗議しなくては!
「わからないことは私か、あるいは既にヒールを習得している助手のクインシー君、ユージェニー君、ネッサ君、マイク君、パルフェ君に聞いてください。以上です」
声をあげる間もなく、流れるように授業開始となってしまった。
周りの皆さんも不安が隠せないようだ。
「ど、どうする?」
「私、両親に聞いたのですけれども、魔法実技の単位取得が一番大変だったと」
「うちの兄もそうだったんだ。三年次終了にギリギリ間に合ったって」
「魔法って才能だろ? 才能のあるやつはすぐ覚えられるのかもしれねえけど」
「僕にはムリじゃないかなあ……」
どんどん雰囲気が暗くなってきた。
どうすればいいのかしら?
「やっほー。皆さんこんにちはー」
「あっ、聖女様!」
「サブリナ、久しぶりだね」
ニコニコと笑いながら聖女様が来た。
ああ、聖女様には魔法の才能が売るほどあるんでしょうけど。
「この学年は全員が実用魔法を覚えたいんだってよ。今日は魔法実技の初講義だから、ワクワクドキドキが止まらないんじゃないの?」
「それどころじゃないのよっ!」
「そーいや皆顔色が悪いけどどーした? お腹減っちゃった? それともお腹痛い?」
「どうしてその二択なのっ!」
「ツッコミの間が絶妙だなあ。才能ある」
ケラケラ笑う聖女様。
お気楽過ぎる!
一人の男子が聖女様に訴える。
「その才能のない人には、簡単に魔法なんて覚えられませんよ!」
「んー? 皆、掌を握ったり開いたりしてみ?」
掌? 何でしょう?
半信半疑ながら全員が結んで開いてしています。
「生まれつき手のない人とか事故で失った人とかは、それができないんだよ。でも手のあることが才能とは思わないでしょ?」
「それはそうですよ。当たり前のことですから」
「魔力があるのも当たり前のことなんだよ。魔力は生きてる人なら誰にでもあるんだから。ぶっちゃけ手のあるなしよりも普遍的」
「魔力があれば……魔法を使える?」
「そうそう。使い方を知らないだけ」
騙されたような気分だ。
生きていれば魔法を使えることになってしまう。
「何事にも例外はあってさ。ごく稀に重度の精神障害があって自分の魔力を動かすっていう意思を持てないとか、あるいは死にかけで魔力が尽きようとしているとか。そういう人達は魔法使えない。皆さんはそんなことないから、間違いなく魔法を使えるようになるよ」
「で、でも母は魔法を使えるようになるのにすごく苦労したって……」
「苦労しただけでしょ? 身近に高等部で魔法実技教わったけど、最後まで魔法使えるようにならなかったって人いる?」
誰も反応しない。
あれ、誰もが魔法を使えるようになっているの?
「いないでしょ? 魔法は誰でも使えるものだから。ただ魔法を覚えるのに苦労するってのもわからんわけではないんだ」
「そ、それは?」
「魔道理論の復習しようか。魔法の発動の手順はどうするんだっけ? サブリナ、答えてみて」
えっ? 聖女様急に当てないでよ。
「ええと、魔力を練って、ソーサリーワードの構文に乗せて、発動のイメージとともに射出する?」
「正解でーす! 皆さん拍手!」
嬉しいけど恥ずかしい。
「この最初の魔力を練るってのが把握しにくいんだ。そもそも魔力って何? って感じだから。魔法覚えるのに苦労したって人は、多分最初の段階で躓いてると思う」
「魔力を把握できると?」
「簡単な魔法はすぐ使えるようになるよ。さあ、頑張ってみようか」
と言われても、何を頑張ればいいんだろう?
「魔力は身体中を巡っているよ。どこに一番多いかと言えば身体の重心のある辺り。おへその位置をイメージしてね」
おへそおへそ、と。
「物体じゃない何かがある感じしない?」
朝御飯がうごめいている感じしかしない。
皆が困惑している。
「むーん? 必殺の方法がなくはないけど、説明が難しいんだよな。あっ、ダドリー君!」
スピアーズ伯爵家のダドリー様?
威張っている人というイメージがあるけれど。
「何してるの?」
「いや、誰に教わろうかと、あちこち覗いていたんだ」
「ダドリー君は楽勝だぞ? 教わる必要ないわ。ヒール程度の魔法は間違いなく今日中に使えるようになるから、ちょっとこっち手伝ってよ」
「あ、ああ」
ダドリー様は楽勝なのか。
いいなあ。
「魔力のイメージって人によって違うじゃん? ダドリー君はどうやって掴んだ?」
「……魔法を使いたいって強く念じていた時に、身体の中で何かが動く気がして。これが魔力なのかと、疑問に思いながら動かそうとしていたんだ。結果的に正解だった」
「おお、なるほど」
「強い意思のないやつに教えるのはムダじゃないか?」
むかっ、何てことを言うんだろう?
「それだっ!」
聖女様の声に皆が驚く。
「今全員の魔力が動いたぞ? ダドリー君の無神経な発言で揺れるのは感情だけじゃないんだ。感情以外に何が変わったか思い出して」
感情以外に?
もう一度……『強い意思のないやつに教えるのはムダじゃないか?』……むかっ。
あっ、お腹の辺りにどろっとしたものがある?
「サブリナ、それだ。それが魔力」
「こ、これが? ただのむかつきじゃないの?」
「一度意識すると、怒りを忘れても存在してるのがわかるでしょ?」
「……ほんとだ」
確かに何かある。
これが魔力なのね。
「いくら弄ってても壊れないから、なるべく構って慣れてね。さて、ダドリー君の方いこうか。皆、注目! 初めてのヒールを順を追っていくから、よく見ててね」
私も魔力をゴロゴロしながらダドリー様の様子を観察する。
「魔力を練る、っていうのもわかりづらい表現だね。魔力は粘土みたいなものだと思って。最初ちょっと硬めだけど、ぐいっぐいっと弄ってる内に扱いやすくなってくるんだ」
そういうものなのね。
じゃあもっと大胆に変形させるつもりでやらないと。
「やわこくなってきた魔力を一ヶ所に集めてぎゅっと固める感じ。それを右手に持って来るとともに、ソーサリーワード構文で魔力に命令して。ヒール程度の魔法なら、ソーサリーワード構文は覚えてなくても見ながらで発動するけどね」
「覚えているから大丈夫だ」
私は覚えていないわ。
当然覚えてないと咄嗟には使えないものね。
早めに覚えないと。
「傷を治すイメージを思い浮かべて撃ち出して」
「ヒール!」
「オーケー、バッチリです。どうかな? 今ダドリー君が撃ち出した魔力はわかった?」
わかった人とわからなかった人が半々みたい。
私はよくわかった。
これも自分の魔力を把握したからなのかな?
「これでダドリー君はヒールを使えるようになったわけだけど、回復魔法は実際にケガを治してみないとイメージが膨らみにくいんだよね。そこでダドリー君、もう一度ヒールお願い」
聖女様が自分の腕にピッと傷を付ける。
ええ? 何を?
「皆はダドリー君の魔力の動きに注目しててね」
再びダドリー様のヒール、聖女様の傷が消える。
「ダドリー君、ありがとうね」
「あ、ああ」
聖女様何でもないことのように思っているようですけれど、自傷なんて皆がどん引きですから。
今日は初めての魔法実技の講義。
全クラス合同で行うので、講堂に集まっている。
でも冒頭のアルジャーノン先生の説明に目が点になった。
「一学期中に回復魔法ヒールを覚えてもらいます。習得できなければ補習です」
な、何で?
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動揺しているのは私だけではないわ。
即刻抗議しなくては!
「わからないことは私か、あるいは既にヒールを習得している助手のクインシー君、ユージェニー君、ネッサ君、マイク君、パルフェ君に聞いてください。以上です」
声をあげる間もなく、流れるように授業開始となってしまった。
周りの皆さんも不安が隠せないようだ。
「ど、どうする?」
「私、両親に聞いたのですけれども、魔法実技の単位取得が一番大変だったと」
「うちの兄もそうだったんだ。三年次終了にギリギリ間に合ったって」
「魔法って才能だろ? 才能のあるやつはすぐ覚えられるのかもしれねえけど」
「僕にはムリじゃないかなあ……」
どんどん雰囲気が暗くなってきた。
どうすればいいのかしら?
「やっほー。皆さんこんにちはー」
「あっ、聖女様!」
「サブリナ、久しぶりだね」
ニコニコと笑いながら聖女様が来た。
ああ、聖女様には魔法の才能が売るほどあるんでしょうけど。
「この学年は全員が実用魔法を覚えたいんだってよ。今日は魔法実技の初講義だから、ワクワクドキドキが止まらないんじゃないの?」
「それどころじゃないのよっ!」
「そーいや皆顔色が悪いけどどーした? お腹減っちゃった? それともお腹痛い?」
「どうしてその二択なのっ!」
「ツッコミの間が絶妙だなあ。才能ある」
ケラケラ笑う聖女様。
お気楽過ぎる!
一人の男子が聖女様に訴える。
「その才能のない人には、簡単に魔法なんて覚えられませんよ!」
「んー? 皆、掌を握ったり開いたりしてみ?」
掌? 何でしょう?
半信半疑ながら全員が結んで開いてしています。
「生まれつき手のない人とか事故で失った人とかは、それができないんだよ。でも手のあることが才能とは思わないでしょ?」
「それはそうですよ。当たり前のことですから」
「魔力があるのも当たり前のことなんだよ。魔力は生きてる人なら誰にでもあるんだから。ぶっちゃけ手のあるなしよりも普遍的」
「魔力があれば……魔法を使える?」
「そうそう。使い方を知らないだけ」
騙されたような気分だ。
生きていれば魔法を使えることになってしまう。
「何事にも例外はあってさ。ごく稀に重度の精神障害があって自分の魔力を動かすっていう意思を持てないとか、あるいは死にかけで魔力が尽きようとしているとか。そういう人達は魔法使えない。皆さんはそんなことないから、間違いなく魔法を使えるようになるよ」
「で、でも母は魔法を使えるようになるのにすごく苦労したって……」
「苦労しただけでしょ? 身近に高等部で魔法実技教わったけど、最後まで魔法使えるようにならなかったって人いる?」
誰も反応しない。
あれ、誰もが魔法を使えるようになっているの?
「いないでしょ? 魔法は誰でも使えるものだから。ただ魔法を覚えるのに苦労するってのもわからんわけではないんだ」
「そ、それは?」
「魔道理論の復習しようか。魔法の発動の手順はどうするんだっけ? サブリナ、答えてみて」
えっ? 聖女様急に当てないでよ。
「ええと、魔力を練って、ソーサリーワードの構文に乗せて、発動のイメージとともに射出する?」
「正解でーす! 皆さん拍手!」
嬉しいけど恥ずかしい。
「この最初の魔力を練るってのが把握しにくいんだ。そもそも魔力って何? って感じだから。魔法覚えるのに苦労したって人は、多分最初の段階で躓いてると思う」
「魔力を把握できると?」
「簡単な魔法はすぐ使えるようになるよ。さあ、頑張ってみようか」
と言われても、何を頑張ればいいんだろう?
「魔力は身体中を巡っているよ。どこに一番多いかと言えば身体の重心のある辺り。おへその位置をイメージしてね」
おへそおへそ、と。
「物体じゃない何かがある感じしない?」
朝御飯がうごめいている感じしかしない。
皆が困惑している。
「むーん? 必殺の方法がなくはないけど、説明が難しいんだよな。あっ、ダドリー君!」
スピアーズ伯爵家のダドリー様?
威張っている人というイメージがあるけれど。
「何してるの?」
「いや、誰に教わろうかと、あちこち覗いていたんだ」
「ダドリー君は楽勝だぞ? 教わる必要ないわ。ヒール程度の魔法は間違いなく今日中に使えるようになるから、ちょっとこっち手伝ってよ」
「あ、ああ」
ダドリー様は楽勝なのか。
いいなあ。
「魔力のイメージって人によって違うじゃん? ダドリー君はどうやって掴んだ?」
「……魔法を使いたいって強く念じていた時に、身体の中で何かが動く気がして。これが魔力なのかと、疑問に思いながら動かそうとしていたんだ。結果的に正解だった」
「おお、なるほど」
「強い意思のないやつに教えるのはムダじゃないか?」
むかっ、何てことを言うんだろう?
「それだっ!」
聖女様の声に皆が驚く。
「今全員の魔力が動いたぞ? ダドリー君の無神経な発言で揺れるのは感情だけじゃないんだ。感情以外に何が変わったか思い出して」
感情以外に?
もう一度……『強い意思のないやつに教えるのはムダじゃないか?』……むかっ。
あっ、お腹の辺りにどろっとしたものがある?
「サブリナ、それだ。それが魔力」
「こ、これが? ただのむかつきじゃないの?」
「一度意識すると、怒りを忘れても存在してるのがわかるでしょ?」
「……ほんとだ」
確かに何かある。
これが魔力なのね。
「いくら弄ってても壊れないから、なるべく構って慣れてね。さて、ダドリー君の方いこうか。皆、注目! 初めてのヒールを順を追っていくから、よく見ててね」
私も魔力をゴロゴロしながらダドリー様の様子を観察する。
「魔力を練る、っていうのもわかりづらい表現だね。魔力は粘土みたいなものだと思って。最初ちょっと硬めだけど、ぐいっぐいっと弄ってる内に扱いやすくなってくるんだ」
そういうものなのね。
じゃあもっと大胆に変形させるつもりでやらないと。
「やわこくなってきた魔力を一ヶ所に集めてぎゅっと固める感じ。それを右手に持って来るとともに、ソーサリーワード構文で魔力に命令して。ヒール程度の魔法なら、ソーサリーワード構文は覚えてなくても見ながらで発動するけどね」
「覚えているから大丈夫だ」
私は覚えていないわ。
当然覚えてないと咄嗟には使えないものね。
早めに覚えないと。
「傷を治すイメージを思い浮かべて撃ち出して」
「ヒール!」
「オーケー、バッチリです。どうかな? 今ダドリー君が撃ち出した魔力はわかった?」
わかった人とわからなかった人が半々みたい。
私はよくわかった。
これも自分の魔力を把握したからなのかな?
「これでダドリー君はヒールを使えるようになったわけだけど、回復魔法は実際にケガを治してみないとイメージが膨らみにくいんだよね。そこでダドリー君、もう一度ヒールお願い」
聖女様が自分の腕にピッと傷を付ける。
ええ? 何を?
「皆はダドリー君の魔力の動きに注目しててね」
再びダドリー様のヒール、聖女様の傷が消える。
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