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第77話:待機する時間その2

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 ――――――――――建国祭前日、王宮にて。ケイン子爵家息女ネッサ視点。

 おそらくは高位の役人であろう方達にジロジロ見られながら、ローダーリック陛下の詰問を受ける。
 こんな状況は今まで考えたことがなかったけど、精神的なプレッシャーがすごい。
 私って手汗が出るタイプなんだと、変に現実逃避したくらい。

 大体ローダーリック陛下が怖い。
 王だからというよりも、生まれ持ったガキ大将オーラみたいなのが感じられて、逆らえる気がしないのだ。
 父様も同じことを思っているんじゃないだろうか?
 ずっと俯いている。
 どうしてパルフェさんは陛下と友達みたいに喋れるんだろう?

 あ、王妃様の一喝だ。
 王妃様が最強と判明しました。

「それでネッサちゃんは聖教会がもらっていい?」
「……そうだな。自然派教団蜂起の件で、ケイン子爵家には突き上げがあるかもしれん」

 子爵家に教団からの干渉が多くなるかもしれないということか。
 決着の仕方にもよるけど。

「どの道聖教会との関わりが多くなるだろう。ならばネッサ嬢は聖教会預かりとする。子爵、文句はあるまいな?」
「は、はい」
「聖教会の寄宿舎棟は聖騎士が見回ってるから安全だよ。マイク君が何度女子棟への侵入を企てても捕まるくらいだからね」
「企ててないし、捕まってもいないよ!」

 あ、ついに耐え切れずにマイク様も発言した。
 王妃様もクインシー殿下も笑っている。

「寛大な処置をありがとうございます」
「子爵はさすがに無罪とはいかんぞ?」
「無罪でいいじゃん。事前に蜂起を察知できたのはキーファーさんのおかげだし」

 それは父様でなくて私の連絡によるものだと思うが。
 どうやらパルフェさんは父様も庇ってくれる気らしい。

「何なら今までネッサちゃんを養育してくれてたから、それと相殺でもいい」
「聖女たるべき存在がいることをとっとと報告すべきだったろうが!」
「いやあ、ムリ。キーファーさんとこの使用人、ほぼ自然派教団の狂信者だもん。あれは教団から押し付けられてたんでしょ?」
「は、はい」
「ほらほら」

 苦虫を噛み潰したような顔の陛下。
 王妃様は扇で顔を隠していらっしゃるけど、目は興味深げに見える。

「キーファーさん無罪なら後が楽だよ」
「どういう意味だ?」
「自然派教団の信徒であることは罪にならない、ってわかりやすいからだよ。蜂起に参加したかしようとしたから罰せられる。実にシンプルで皆納得じゃん?」
「む……」
「今憲兵と近衛兵で自然派教団信徒のいそうなところを急襲してもらってるけど、向こうも戦いのシロートさんばかりとは限らないからね。心得のある人があのマント装備してるとかなり苦戦するよ。特に一ヶ所に固まられると鎮圧させるのに時間がかかる。明日の建国祭がパー。王都民ガッカリ」
「固まって立てこもるようなことがあったら任せろと、そなたは言っていたではないか!」
「だから確認だとゆーのに。子爵は無罪だぞー。あんた達は実行犯だから有罪だけど、一分以内に降参したら死罪は勘弁したるって、魔法で追い込んでから宣言したらすぐ投降すると思うけど」
「そんなことができるか!」
「そお? 追い込んで厳罰に処したら、絶対に自然派教団は地下に潜るぞ? そーなると後々祟るぞ?」

 騒然。
 各大臣からパルフェさんに質問が浴びせかけられる。

「聖女殿も自然派教団にはバックがいると考えておられるのか?」
「そりゃそーでしょ。あのマント見た? かなりの資金がないと開発できない代物だって。デカいバックがいる」
「やはり外国が? しかし自然派教団は我が国だけに存在しているようですが」
「ウートレイドに自然発生したもんだか、どこぞのよからぬ組織がもっともな教義こさえて王都民を釣ったんだかは知らんよ? でもあたしの住んでた辺境区には自然派教団なんてものはないんだよ」
「そうなんですか?」
「うん。どこぞの外国が結界に囲まれてる王都コロネリアをスパイするために、自然派教団っていう隠れ蓑を作ったんだって言われた方がスッキリするんだけど」

 衝撃。
 自然派教団が外国のスパイ組織?
 教団の教えを受けていながら、そのルーツについては考えたことがなかった。

「子爵、意見はあるか?」
「い、いえ。何がなんだか……」
「陛下、発言をお許しください」
「ネッサ嬢か。許す」
「フューラーは昨年のテロの際、王都にいなかったんです!」
「何? どういうことだ?」
「昨年のテロは教団の意図していたことではなく、一部信徒の暴発だったんです。フューラーも止められなかったのかって聞いてたくらいで。それで私はチラッと、フューラーは外国人なのだろうかって思ったんです」

 注目を集めてる。
 恥ずかしい。

「重要な発言が出ましたよ。キーファーさん、ネッサちゃんの言うこと間違いない?」
「はい、昨年の事件が突発的なもので、その時フューラーが王都にいらっしゃらなかったというのは事実です」
「フューラーって仮面被ってる、共通語流暢くらいの情報しか今んとこないけど、もう少し知ってることあったら教えて?」
「中肉中背の男性です。おそらく三、四〇代だと思います」
「聞いていると楽というか、すごく説得力のある声なんだ。うがった見方をすると、こっちの考えを麻痺させる感じがする」
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「ふーん、ひとかどの人物だねえ。とゆーか人の上に立つことに慣れてるのかもしれない」
「他国の王族か?」
「とは限らんけど、でっかい組織の有力者であることはもう決定で良さそう」

 自然派教団と言われていたものの化けの皮が剥がされていく。
 私達は他国者に踊らされていたのか?

「ま、それはそれとして、自然派教団の信徒ってのは、何かもっと大きな組織の掌の上で転がされちゃってる可哀そうな王都民だってことは間違いないと思うんだ。そーするとトカゲのしっぽに過ぎない信徒を虐めるのは意味がない」
「聖女パルフェならどうする?」
「今日の被害程度にもよるけど、刑罰は軽くていいと思うよ。あ、フューラーとか別組織との繋がりとかについて話してくれたら無罪でもいい。地下に潜られるよりずっといい」
「連中の性根は変わらんのではないか?」
「自然派教団の人達、税金が嫌いなの。王族貴族が搾取してると考えてるみたいで」
「税金は必要であろうが!」
「あたしもそう考えてるけど、教育されてない人は王族貴族が搾取してるぞーって言われると、そうだそうだって思っちゃうもんなんだよ。税金を何に使ってるか、庶民にわからせる努力してる?」
「む? そう言われると何もしておらんな」
「それじゃ努力不足って非難されても仕方がない」

 パルフェさんが言いたい放題だ。
 しかしお偉い役人が皆聞き逃すまいと耳を傾けているんだけど?

「それから自然派教団信徒は、国防結界を必要ないものと思ってるんだよね。魔物の怖さを理解してない。聖女たるあたしが仕事を否定されてるようで面白くないから、そんなことをほざく教団信徒がいたら聖教会に連れて来てよ。『魔の森』魔物狩りツアーかなり怖いバージョンに招待する。それでもわかんないようならドラゴンのエサにする」
「ふむ、自然派教団の教義を根拠のないものにしろということだな?」
「そゆこと」
「よし、聖女パルフェの意見を元に自然派教団への対応を決定する。異論はあるか?」
「「「「「「「「ございません!」」」」」」」」

 説得した。
 パルフェさんすごい!

「大体方針決まったね。騎士の皆さんが働いてくれれば、明日の建国祭はつつがなく行えそう」
「うむ、そうだな」
「お腹減っちゃったよ」
「昼食を用意せよ!」
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