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第57話:推定有罪

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「ふんふーん。次の方、どーぞー」

 パルフェが上機嫌で癒しの施しを行っている。
 昨日学院の一学期が終わり、夏季休業期間に入った。
 スコアを持って帰って来たのだが……。

『必須科目だけで三位、選択科目課外活動を含めた総合順位は一位か』
『一科目溝に捨てているようなものなのにすごいである』

 パルフェのスコア評だ。
 溝に捨てているような科目とは当然行儀作法なのだが、パルフェ曰く。

『レイチェル先生をお肉で懐柔した。やったぜ!』

 レイチェル先生は私の学生時代も講師だった。
 まだ勤務しているのか。厳しい先生だったが、パルフェのことは気に入ってるみたいだな。
 赤点より一点だけ上という行儀作法の点数に情けが見える。

 癒しを受けに来た市民から声がかかる。

「聖女様御機嫌じゃねえか」
「そー見える? あれ、結構ひどい傷だね。おーい、ケガの人集まって! リカバーかけてまとめて治すぞお!」

 学院の休業期間中はパルフェも癒しのシフトに入る。
 パルフェは馬力があるから(あえて魔力と言わないが)、癒し手達も相当楽ができるだろう。
 ん? 今礼拝堂内に入ってきたあの老人は?

「あれ? 師匠じゃん」
「うむ、久しぶりじゃな」
「王都に来てたんだ?」
「伝えるべきことがあるのじゃ。お主がそろそろ休業期間に入ったかと思ってな」
「あたしに用だったかー」
「お主というより、聖教会の面々にじゃが」
「ちょっと待ってね。もうすぐ施しの時間終わるから」

          ◇

「ほう、大した成績ではないか」
「でしょ? ふふーん」

 ゲラシウス殿とヴィンセント聖堂魔道士長をも呼び、奥の間で会談する。
 パルフェはフースーヤ翁にも学院一学期のスコアを見せて大威張りだ。

「魔道理論など満点を超えてるではないか」
「それねえ、先生がサービスしてくれたんだ。あたしが助手も務めてるからだと思う」
「行儀作法はギリギリか。さもありなん」
「えへへー」
「選択科目は経営学、哲学、薬学、刺繍、声楽か。楽しんでおるの」
「うん、楽しい!」
「刺繍なんかできるとは知らなかった」
「あたしは縫い物得意だぞ?」
「そうじゃったか」

 本当にこの二人は師弟というより祖父と孫の関係のようだ。
 微笑ましい。

「魔法の実技はないのか?」
「来年からなんだ。魔道理論をある程度修めて後っていう考え方みたい」
「ふむ?」
「あ、クインシー殿下魔道理論満点だったよ。魔法クラブの方でヒールの魔法使えるようになったし、イメージ掴むの早いね」
「殿下は順調じゃの。しかし魔法の教育課程には問題があるのではないか?」
「師匠もそう思う? 丸暗記でいいから、先に魔法教えちゃうべきだよねえ」
「魔法自体が重視されていないのかもしれぬな」
「それだったら魔法は必須じゃなくて選択科目にすべきじゃん」

 学院で魔道理論と魔法実技が必須科目なのは、ウートレイド王国が大魔道士であった初代聖女の国防結界を設置したことによって興ったという歴史があるからだ。
 近年魔法が軽視される傾向になったのは、一四年もの間聖女がいなかったこともあると思う。
 パルフェが目立っているので魔法も復権するのではないか。

「あっ、お主神学を選択しておらぬのか。代わりに哲学?」
「そうそう。哲学は金言格言がすげえ格好いいから気に入っちゃった。私は聖女に生まれない、聖女になるのだ!」
「今日はまさにその点で来たのだ。アナスタシウス殿、ゲラシウス殿、ヴィンセント殿よろしいか」
「はい」

 フースーヤ翁が真剣だ。
 ゲラシウス殿が丁寧に呼びかけられてきまり悪そう。
 断罪の場でフースーヤ翁の舌鋒は鋭かったからな。

「パルフェは本来聖女ではない」
「「は?」」
「そんなん当たり前じゃん。今更何言ってるの」
「ど、どういうことだ?」

 パルフェが聖女ではない?
 ヴィンセントは心当たりがあるようだな。

「パルフェ様は生まれつき聖属性を単独で使えたわけではありません。先任の聖女が亡くなった時に新しい聖女が生まれるのだとすると、理屈に合わないのです」
「あたしが各魔法属性をバラで扱えるようになったのは偶然だぞ?」
「パルフェが聖属性を独立して使えるようになることを当時全く期待してなかったか、というとウソになるが、まあ偶然に近い」
「期待してたんだ? 師匠すげえ!」

 魔力を限界まで使い切ると一番多い持ち属性の魔力だけしか出なくなるという、単独属性出力のコツか。
 パルフェが死ぬかと思ったって言ってたくらいだ。
 フースーヤ翁も成功するとは思ってなかったようだ。

「パルフェが各属性魔力を単独で出力できるようになったのは枝葉のことじゃ。ヴィンセント殿が言うたように、聖女出現のサイクルが理であるならば、パルフェはおそらく真の聖女ではない」
「しかしパルフェは先の聖女ヘレンが亡くなった年に生まれているんですよ?」
「それこそ偶然じゃないかな」

 そうだったのか。
 ヴィンセントも薄々そう思っていたようだし、パルフェも当然みたいな顔をしている。
 魔道士の間では、パルフェは真の聖女ではないというのがコンセンサスのようだ。

「一つの説じゃ。神の摂理の正答などわからんよ」
「……翁の説が正しいとするならば、真の聖女がどこかにいることになる?」
「そうなるの」
「その真の聖女が既に亡くなってしまったとは考えられぬであるか?」
「もしそうなら、さらに新しい聖女が生まれてるはずなんじゃないの? 聖女が死んだら次が生まれるっていうのが本当であればだけど」

 衝撃的だ。
 フースーヤ翁でさえ沈痛な表情を浮かべているのに、どうしてパルフェは何でもないような顔をしているんだろう?

「だから国防を神様や聖女に頼るシステムはダメだとゆーのに。どんな魔力属性でも構わない結界を作るか、それとも聖属性を単独で取り出す魔道具を作んないと」
「パルフェの言うことももっともじゃ。しかし今日話したいのはそこでもない」
「真の聖女がどこにいるのか、ですか?」

 無言で頷くフースーヤ翁。
 ポツリと呟くヴィンセント。

「……隠されている、んだと思います」
「どこに?」
「聖女探査のための魔道具の効果が及ばないどこかに」

 そうだ、パルフェの発見が遅れたのは、辺境区に聖女など生まれないと思われていたからだ。
 となると真の聖女は外国にいる?

「どこにいたとしても、聖女の能力を持っているならばそれなりに評判になるはずじゃ」
「あたしもハテレス辺境区じゃ評判の美少女だったよ」
「王家は既に他国を調査させているが、網には引っかかってこぬようだ」

 ヴィンセントの隠されているという発言の根拠はそこか。
 外国ではないとすると?

「魔道的に隠されておるのかもしれぬ。とするとパルフェが新聖女となった途端破壊工作活動を起こした自然派教団。あれが怪しい」

 確かにあのテロは唐突で不可解だった。
 真の聖女を囲い込んでいるから、新聖女パルフェがいるのは都合が悪かった?
 いや、それだと教団が真の聖女を重視しているように見えるな。

「まーでもどっちにしても自然派教団は、新聖女も真の聖女も認めないんじゃないの?」
「かもしれぬ。全てが根拠のない憶測に過ぎぬがな」

 空気が重い。
 今になってフースーヤ翁がこう言うのは、聖教会も知っておくべきだという翁の思いからか、それとも証拠はないがうっすら伝えておけという王宮の意図があるのか。
 波乱がありそうで憂鬱だ。

 パルフェがのん気に言う。

「夏休みを全力で楽しむぞー!」
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