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第44話:魔道の教師アルジャーノンその2

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 マイクの目がやや熱を帯びているように見えるである。
 やる気になったであるか?

「オレもそんなすごい魔法が使えるようになる?」
「高等部って四年間あるんでしょ? 楽勝だな」
「待ってください、パルフェ君。残念ながら、収納魔法のような高等魔法を教えられる者がいません」
「四年間を魔法の習得にフルに使えるわけではないであるぞ。高等部の教育内容はかなり高度である」

 ああ、高等部の試験は地獄であった。
 今でも夢に見ることがあるである。
 思い出すと身震いするである。

「あたしでよければ教えるよ」
「「「えっ?」」」
「あたしが先生の助手やればいいじゃん。あたしの知ってる魔法なら教えてあげられる」
「ふむ、頼めますか?」
「任せて。勉強時間が足りないのは根性だな。何ならマイク君も魔法クラブ入ればいいよ。魔法に詳しい人が多い環境なら覚えるのもきっと早い」

 かなり画期的な提案である。
 生徒が教師の助手を務める例がなかったわけではないが、これでは小娘が主導のようではないか。

「考慮の余地がありますね。……ちなみにパルフェ君はどんな魔法なら教えられます?」
「メジャーどころの魔法なら何でも。魔力量や持ち属性の関係で、その人じゃ絶対に発動しない魔法はムリだけど」
「高等部一年次は魔法理論で、実技は二年次からなんですよ」
「そーなんだ? まー理論知ってりゃ魔法なんかすぐ覚えられるしな」
「「え?」」
「そんな常識外れはお主だけである」

 ヴィンセント聖堂魔道士長が言っていたである。
 小娘はおそらく魔法を丸暗記しているわけではなく、自分なりにソーサリーワードを組み立てているのだろうと。
 だから少し理屈を聞いただけで魔法の構成がわかり、少々不完全でも持ち前の魔力量で発動させることができるのであろうと。
 一度発動させられれば、リザレクションのような人知を超えた複雑な魔法でない限り、小娘は少しずつ改良して自分のものにするのだろうと。
 驚くべき魔法の才である。

「今年の新入生には幸いパルフェ君がいます。実験的に来年の魔法実技はこれまでの簡単な持ち属性の魔法を学ぶコースと、より習得魔法に自由度を持たせた上級コースの選択制にしてみましょうか。上級コースではパルフェ君に助手をお願いしましょう」
「任せて」

 色男が愉快そうな顔をしているのは面白くないであるな。

「先ほどの話に戻りますが……」
「えーと、どの話だろ?」
「初等部で回復魔法や治癒魔法を教えればいいという話です。可能でしょうか?」
「丸暗記なら可能だよ。去年隣国ネスカワンのイルートって町で、ハンターギルドの人達全員に回復魔法ヒールを覚えさせるってことをやったんだ」

 小娘とアナスタシウス大司教猊下が追放されていた時であるな。
 そんなことをしていたのか。

「それは何故です?」
「魔物と毎日戦ってるような人達なのに、誰も回復魔法使えないの、ヤバいじゃん? 自分の持ち属性なんて考えなくてもいいから、死にたくなければヒール覚えろーって号令かけた」
「実験としては面白い。そして誰も損をしない。結果はどうでした?」
「字もろくすっぽ読めないような人達だった。でも一月半で三人がヒールをマスターしたよ。あたしはその時点で帰国したけど、全員魔力の流れは感じられるようになったんだ。もう今は全員ヒール使えると思う」
「初等教育で魔法実技か。実現できればかなりの魔力の伸びを期待できる。しかも回復魔法なら危なくないどころかメリットも大きい……」

 考え込む様も絵になるのが憎いである。
 色男は爆ぜるがよいである。

「パルフェ君、聖女なんか辞めて教育者をやってみる気はないかい?」
「それも面白そうだね」

 アルジャーノンがメチャクチャなことを言い出したかと思ったら、小娘がサラっと受けたである。
 何これ? 聖教会の権威なんかあったもんじゃないである。
 国防結界の維持を何と心得るであるか!

「魔法属性を単独出力できるようになる魔道具が実用化できれば、現在の国防結界の維持に聖女が必要という体制から脱却できます。パルフェ君は自由になれる!」
「さっきの話だね? 魔法クラブで研究しよう」
「あの、オレも魔法クラブに入れてください!」
「歓迎しよう。内緒だが、マイク君の魔道理論の点数を少し上乗せしてあげよう」
「よかったねえ。あ、そーだ。建国祭の日に聞いたんだけど、殿下も魔法クラブに入りたいって言ってたぞ?」

 あれ、どうしたであるか?
 色男の動作が固まったであるぞ?
 殿下の入部なんて大歓迎ではないのか?

「……殿下とは、クインシー君?」
「そうそう」
「困った……」
「何が?」
「クインシー君が入部するとなると、間違いなく入部希望者が押し寄せます」
「いいことではないか」

 部員は多いほど良いと思うであるが。

「今の零落れ果てた魔法クラブには、昔のようなキャパシティがないのです。新入生の受け入れは一〇人が限度、それ以上になると有意義な研究を進められないと思います」
「マジか。そりゃ一大事。ねえ、ゲラシウスのおっちゃん。今殿下って、王宮に帰る途中だよね?」
「おそらくそうであろうな。それが何か?」
「殿下に連絡しとこう」

 クインシー殿下に連絡?
 どういうことであろう。
 魔力の高まり、何らかの魔法を使うつもりであるか?

「『殿下、パルフェだよ。にこっ。今魔道学のアルジャーノン先生と話してるんだけど、魔法クラブはあんまり多くの人数を受け入れることができないんだって。殿下が入部することが皆に知られるとパンクするから、違うクラブに入るってカムフラージュしといてね。以上です』よーし、オーケー」
「ふむ、闇魔法ですね?」
「うん、伝達の魔法だよ。でも闇属性持ちじゃなくてもふつーに使えるから、先生にも教えてあげようか?」
「それはありがたいですね!」
「あたしが使ってるのはこんな感じ」

 何やらソーサリーワードの文様を描き始めたである。
 サッパリわからぬ。
 マイクなどポカーンと口を開けているである。

「ははあ、場所か人を指定して飛ばせると。しかし結界のような魔力障害があると届かないのではないですか?」
「そーだね。便利ではあるけどあんまり信頼性はない。発し手と受け手の両方が知ってて、連絡を受けたらその旨返信するのがうまい使い方かなと思うんだ」
「なるほど……ここでわざわざ声を小さくしてるのは何故です?」
「あっ、ごめん。あたしは闇属性持ちだから、届く声が大きくなり過ぎちゃうんだよ。闇属性を持たないならこの回路はいらない」
「ということはこの魔法、本来は遠くにいる人を怖がらせたり、特定の場所に注意喚起する目的で作られたのでしょうね」
「そーかも。さすが魔道の先生だなー」

 マイクが自信なさそうにボソッと囁くである。

「ゲラシウス様、オレって本当に魔法を使えるようになるんでしょうか? 自信なくなってきたです」
「何を言っているであるか。お主はまだ魔道理論の講義すら受けておらぬではないか。わからぬのは当然、学院の魔道教師とサシで話のできる聖女パルフェがおかしいのである」
「そ、そうですよね」

 吾輩など学院時代に魔道理論も魔法実技も単位をもらっているはずなのに、二人の話を何一つ理解できないである。

「いやいや、パルフェ君。ありがとう」
「いいってことよ。その代わり魔法クラブを優遇してよ」
「なるべくたくさん予算を分捕るよう、努力しましょう」

 悪いやつらである。
 聖女と学院の教師の会話とは思えぬである。

「さて、遅くならない内に帰ろうかな。先生、またねー。ユージェニーちゃんのことよろしく」
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