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第27話:オーガじゃなかった

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 ――――――――――イルートの町ハンターギルドにて。アナスタシウス元大司教視点。

「オーガじゃなかったじゃないか」
「悪かったな。分類上はオーガなんだぜ」
「ミゼットオーガはオーガって言わない」

 一時間ほどで帰還したパルフェがブーブー文句を垂れている。
 ケガもなく無事に退治したことに何の不満があるんだか?
 冒険者の美学みたいなものがあるのだろうか。

「おかしいと思ったんだ。だってみんなオーガを倒せるような装備じゃなかったもん」
「私にはオーガとミゼットオーガの違いがわからんのだが」

 学院では魔物を含めた動植物についての講義もある。
 しかし細かいことは教わらないし、大体二〇年近く昔のことだ。
 試験のために覚えた記憶など定かではない。

「オーガはデカいの。パワーモリモリ。皮膚硬いから刃が通りづらいし、かといって魔法抵抗も高いんで倒すの大変。腕利きの冒険者一〇人集めても、油断してると死人出ちゃうくらいヤバい」
「ミゼットオーガは?」
「分類学上はオーガに近縁らしいけど、あたしみたいな魔物狩りを商売にしている者にとっては全然別物だよ。危険度が違うもん。オーガに比べりゃずっと小さくて、体重はオーガの一〇分の一くらいかな。パッと見筋肉質で超大柄の人間みたいな感じ。首刎ねたら終い」
「いや、驚いたぜ。戦闘開始一秒で急にオーガの首が飛んだからな。何事かと思った」
「ミゼットオーガはオーガじゃないとゆーのに。オーガの首はあんなに簡単に切れない」
「綺麗に倒してくれたのはありがたかったな。領主様の依頼があったろう? 頭丸ごとがやたらといい値で売れたんだ。ハンティングトロフィー作るんだとよ」
「魔物が多い町だと、領主様もそーゆー趣味があるんだねえ」
「新しい仲間パルフェに乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
「ありがとう!」

 受け入れられたのが嬉しいのだろう。
 パルフェもようやくいつもの笑顔になった。

「もしマジもんのオーガが出たらどうにもなんねえだろ」
「そーでもないよ。祝福して身体能力上げて、装備品に風の刃と水の盾かければ優勢に戦えるとは思ってた。魔法効きにくいとは言っても、雷魔法は比較的効くんだよ。隙見て撃ち込んでやればまあ何とかなるんじゃないかと」
「嬢ちゃん祝福まで使えるのかよ?」
「試しにかけてくれ!」

 祝福は知名度こそ高いが、純粋な聖属性魔力を扱えないと使用できない魔法だ。
 ウートレイド王国では聖女の証と考えられている。
 体験はしたいだろうが、そんなポンポンかける魔法じゃないんだがなあ。
 しかしパルフェは辺境区にいた時はよく使っていたのだろうな。

「よーし、じゃあいくぞー。天の神よ、地にあまねく祝福を!」

 私がこれまでパルフェに見せてもらった祝福よりも個々人への魔力密度が高い。
 冒険者バージョンの祝福か?

「どうかな?」
「メッチャ身体が軽いです!」
「すげえぞ、嬢ちゃん」
「ハッハッハッ、まいったか。ここ天井低いからジャンプしちゃダメだぞ。あっ!」

 お調子者が二人ばかり天井に頭をぶつけた。
 すごい音がしたけど大丈夫だろうか?
 身体強化の効果がこれほど目に見えるのは素晴らしいな。

「大して頭痛くねえ!」
「防御力も上がってるからね。でも危ないから祝福もう切るよ。ディスペル!」

 うむ、落ち着いた。
 祝福(冒険者バージョン)がかかってると、フワフワして座りが悪いものなのだな。
 身体能力は格段に上がるかもしれないが、慣れが必要だと思う。

「いやー、天井壊れなくてよかったなー」
「頭の方を心配しろよ!」
「嬢ちゃん何者だよ?」
「昨日までウートレイド王国で聖女やってました。しおしお」
「昨日まで聖女? 聖教会のか? どういうことだ?」
「え? 何でこんなところにいるんだ?」
「クビになっちゃった。てへっ」
「何やらかしたんだよ!」

 追放聖女が『てへっ』で説明終了というわけにもいくまいなあ。

「王都コロネリアで自然派教団のテロが起きてさあ。ケガ人がたくさん出ちゃって。あたしその日休みだったから、事件起きたの知らずに爆睡してたんだよね。そしたら何やってる、聖女にあるまじき失態だーって国外追放処分食らった」
「罰則が厳しくねえか?」
「国防結界を守る聖教会は国民の支持を失うとまずいみたいだよ。聖女がちゃらんぽらんだとダメっぽい」
「聖女ってこんなにすげえのかよ。崇拝されるのも納得のバカげた魔力だぜ」
「待った。聖女の魔力はともかく、魔物退治は別物だろ。嬢ちゃんはどうして魔物退治に慣れている?」
「聖女になる前は冒険者やってたんだよ。ウートレイド王国の西の果て、ハテレス辺境区ってとこで」
「冒険者?」
「こっちでは冒険者は馴染みがないみたいだね。えーと、ハンターと傭兵と何でも屋を足して三で割ったようなもん」

 冒険者とはそういうものか。
 ならばパルフェは魔物狩り専門のハンターの方が好きかもしれないな。

「それでそっちの旦那は?」
「聖教会の元大司教だよ。ウートレイドの王弟アナスタシウス殿下」
「「「「「「「「ええっ!」」」」」」」」

 まずい、驚かせてしまったか?
 しかしパルフェが私の名前を覚えていたことも驚きなのだが。

「物腰が堂々としてるし、いいお召し物だからよ。貴族だろうなとは思ったけど、王弟殿下かよ」
「こんな魔物の出る田舎町になあ」
「いいのかい? 誘拐でもされたら大変じゃないか」
「誰が何のために誘拐するのよ? 国外追放処分だぞ? 身代金なんか払ってもらえるわけないじゃん」
「……そう言われりゃそうか」

 国外追放処分はパルフェだけだ。
 私には関係ないのだが、言わない方がよさそう。

「もしお貴族様と揉めても、殿下がいれば裏のコネで何とかなっちゃうかもしれないから、大事にしてあげてね」
「おう、そうだな!」
「何だよ、裏のコネって」
「アナさん、よろしくな」
「うむ」

 ノリがパルフェの父親と一緒だ。
 冒険者もハンターも同類だと改めて認識する。

 受付嬢が戸惑い気味に発言する。

「あの、パルフェさんのギルドランクどうしましょう? 明らかに実力者なので、Fランクはもったいないのですが」
「とりあえずCでいいんじゃねえか?」
「異議なーし!」
「いや、この辺の魔物や狩場のことは知らんから、当面は誰かにくっついて依頼をこなすつもりだよ。簡単に例外作るのもよろしくないでしょ? ランクはFで全然構わない。いつまでもイルートにいるとは限らないし」

 私の母の実家の伝手というのを考慮してくれたのだろうか?
 イルートにいて都合の悪いことは特にない。
 パルフェに向いてる町のようだし、ずっとここにいても全然構わないのだが。
 
「ギガトードのから揚げを食べられる季節の内はここにいるつもり」

 違った、自分の都合だった。
 カエルのから揚げは美味だから仕方ないうんうん。

「あっ、そーだ! 誰かお勧めの宿屋教えて。夕方になっちゃう!」
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