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無能と言われる

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「一人で来たのかい?」
「はい? 馬車で送ってもらいましたが」
「そういうことじゃなくてね」

 サンドラ修道院長はわたくしをしげしげと眺めます。

「……ここに送られてくる令嬢は、ほぼ例外なく嫌だ嫌だと泣き喚いて引きずられてくるもんなんだ」
「そうなのですね?」

 それを教育して規則に従う修道女に鍛え上げるとは。
 素晴らしい修道院ではないですか。
 ぜひその指導術を……いけない、もうわたくしは王太子殿下の婚約者ではないのでした。

「……荷物は?」
「えっ? 身一つで来いという指示でしたので」
「本当に身一つで来たのかい?」
「はい、まずかったでしょうか?」

 あっ、付け届けが必要なのでしょうか?
 修道院の常識は知りませんでした。
 申し訳ないです。

「いや、いいんだよ」
「い、いえ、恐縮です」
「俗世への未練を断つために、物を持って来させないようにしているんだ。それがまた難しくてね。修道院入院の前に一騒ぎあるのが常なのさ」
「そうなのですね?」
「あんたは変わっているね」

 かかと笑うサンドラ修道院長。

「ペネロピー・アンダーセン。トバイアス王太子殿下の元婚約者。間違いないね?」
「ありません」

 詳しい報告書があるようですね。

「妃教育を蔑ろにし、身分を笠に着た行動が多い。特に聖女ゾーイを目の敵にし、迫害したとあるが?」
「そう思われているのは残念です」
「ふうん。言い訳はしないんだね?」
「意味がありませんから」

 お妃教育は努力していたつもりです。
 教師陣からも出来がいいとは言われていたのですが。
 聖女ゾーイ様、どこかの男爵家の令嬢とは聞いていますが、それ以上のことは髪の毛が見事なピンクであることくらいしか知りません。
 目の敵にしたと言われても困りますね。
 ほとんど接触がなかったのですから。

「こちらへおいで」
「はい」

 奥の部屋へ。
 院長室でしょうか?

「お入り」
「失礼いたします」
「これを触ってみな」

 何でしょう、丸いオーブ?
 おそらくは何らかの魔道具だと思われます。
 触ると白く輝き出しました。

「わあ……」
「……やはりね。無能が」
「む、無能?」

 ショックです。
 何が悪かったのでしょうか?

「あんたは聖トラノアナ女子矯正修道院では全く役に立たないということさ」
「そ、そんな……」
「出かけるよ。あんたも用意しな」
「えっ? どこへ?」
「王宮さ」

 えっ? えっ?
 どういうことなのです?
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