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頑張ると決めた

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「……恋人ごっこって?」
「そのまんま。私とお兄様は、お父様とお母様が戻ってくるまで兄妹じゃなくて恋人として過ごすの」
「兄妹でそれをやる意味がわからないんだが……」
「深く考えちゃだめ! ちょっとした遊びよ。お兄様とふたりの日々も終わるから、最後に変わった遊びをしたいなって。それだけ」

 ついこの間も、お兄様と同じような会話をした。反応が逆になっているけど。
 私は困った反応を見せるお兄様を強引に押し通し、半ば強制的に恋人ごっこを始めることにした。
 実際にしたことを再度やれば、お兄様がなにか思い出してくれるかもしれない。

「……これって、主になにをする遊びなんだ?」
「恋人がするようなことをするだけの遊びよ。簡単でしょ?」
「恋人がするような――恋人って、なにするんだ?」
「それは……そう! あのね、本があるの! 〝恋人ができたら読む本〟っていうタイトルの! それを参考にして、また一つずつやっていきましょ!」
「また、って。俺、一度ミレイユとこの遊びをしたことあるのか」
「一度っていうか……普段からそうだったというか……。まぁ、とにかくその本があればお兄様もわかりやすいと思うから探しましょ。最後に持ってたのはお兄様なんだけど、書庫に戻してない?」
「ごめん。全然覚えてない。そんな本があることも知らなかった」

 私も初めて見つけたときは、こんな本があるのかと驚いたものだ。
 お兄様と一緒に本を探すが、書庫に本は置いていないようで、今度はお兄様の部屋の本棚を探してみた。

 しかし、一向に見つかる気配がない。このままでは本を探している間に恋人ごっこ期間が終わりそうな気がして、私は本を諦めることにした。

「私が覚えてる範囲で、少しずつ試していきましょう!」
「そこまでしてやらなきゃいけないことなのか」
「いいじゃない。付き合ってよ。かわいい妹の頼みでしょう?」
「……ずるいなぁ。そう言われると断れないだろ」

 くしゃくしゃとお兄様が私の頭を撫でる。……お兄様に頭を撫でてもらうの、久しぶりだ。昔は毎日してもらってたけど、記憶がなくなってからは一度もこういったスキンシップはなかったから。
 慣れているはずなのに、たったこれだけのことがうれしくて、顔が熱くなるのがわかった。

「……ミレイユ、どうしたの? そんなに顔を赤くして」
「だ、だって、お兄様が、私に触れてくれたから」
「その反応、恋人ごっこ中だからか? だとしたらミレイユは将来女優になれるな。うますぎる」
「ちがうわ! これは素の反応っていうか、演技で赤くなってるわけではないの」
「……そうなのか。判断が難しい遊びだな。ミレイユはピュアだな。こんなよくあるスキンシップで照れちゃうなんて。あはは。かわいい」

 他人事のように笑うお兄様に、今までお兄様が私にしてきた過激なスキンシップを全部教えてやりたいものだ。

 その日は本を探すだけで一日を消費してしまったので、私は次の日から、前回やったのと同じことを順番にしていくことにした。

◇◇◇

「やあ、ミレイユ  」
「……久しぶりだな」
「エクトル様! それにイヴァン様も!」

 ある日、エクトル様がイヴァン様を連れて屋敷まで来てくれた。
 マリンにお茶を用意してもらい、私の部屋にふたりを招いておしゃべりをする。

「調子はどう? リアムは相変わらずみたいだけど…」
「うーん。ぼちぼち、です」
「なにか記憶が戻るようにしてることとかあるのか?」
「はい。今は恋人ごっこと称して、以前までの私たちと同じようなことを頑張ってお兄様にもしてもらってるんですけど、お兄様は積極的ではないというか……」
「恋人ごっこって……君たち兄弟はごっこ遊びが好きだなぁ」

 私としては、ごっこなんてもうしたくないのだけど、今はほかにいい術が思いつかない。
 元々ゲームでも私とお兄様のルートのメインはこの恋人ごっこだったし、意味のあるものと信じて今はやっている。

「俺が知らぬ間にいろいろあったみたいだな。あんな愛想のいいリアムは初めて見た。……夢に出てきそうだ」
「あはは。それはとんだ悪夢だね。僕も未だに慣れないよ」

 イヴァン様はメインキャラのひとりだったのに、かなり久しぶりの再会となってしまった。
 屋敷に来た際にさわやか笑顔でお兄様に挨拶されたことが相当衝撃的だったようだ。あの瞬間のイヴァン様の驚き顔が面白すぎて、思い出すと笑いがでてくる。

「でも俺としては、またこうしてエクトルとミレイユと一緒にゆっくり茶を飲めたことをうれしく思う。一時期はエクトルの独占欲が強すぎて、俺ですらミレイユに中々会わせてもらえなかったからな」
「えっ、そうなんですか? 初耳です」
「よしてくれイヴァン。僕も自分に驚いたくらいだ。まさか自分にこんな知らない一面があるとは思っていなかったからね」
「ミレイユも大変だな。寄ってくる男が特殊なやつばかりで」

 哀れみの目を送ってくるイヴァン様。私の趣味がそもそも特殊だということは言わないでおこう。

「そういえば、週末はミレイユの誕生日だね。例年通り、屋敷でパーティーは開くのかい?」
「はい。その予定です」

 誕生日当日は、いつもオベール家主催で客人を招き、誕生日パーティーを開くのが毎年恒例となっている。
 今年は当日までお父様とお母様がいないという異例の事態で、マリンが着々と準備を進めてくれているようだ。

「イヴァンと一緒に参加させてもらうよ。楽しみにしてる」
「ありがとうございます。うれしいです」
「それと……ミレイユ  、顔が少し疲れてるから、無理は禁物だ。なにかあったら周りの人に相談すること。いい?」
「……はい。わかりました」
「うん。わかればよろしい」

 よしよし、とエクトル様に頭を撫でられる。お兄様よりもぬくもりを感じる手に、私は少しだけ泣きそうになりながら笑った。
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