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出発

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 俺は今、レナトスに週1くらいで仕事を教えてもらっている。
 それほど距離は縮まっていないが、俺にとっては至福の時間だ。
 やっぱりレナトスが好きな俺は性癖を受け入れ、ここぞとばかりにレナトスを充電している。
 そんな俺はかなり変態気味で、エミルの事をとやかく言えないだろう。



「アルフォンス様、王がお呼びです。」
 今日はレナトスから仕事を教わる予定の日だったが、慌てた様子の父王の侍従に呼ばれて俺、エミル、ベルンハルトは一緒に王城の一番大きな会議室へ集められた。
 そこには父、兄たち、ヴィルヘルム公爵、各部署の代表、騎士団長や魔術師の幹部、冒険者ギルドの面々そしてレナトスも居た。
「これで大体揃ったな。それでは今から大切な話をする。」
 父がそう切り出すと、代わってレナトスが話しだした。

 その内容は大体こんな感じだ。
 前々から仲の悪かった隣国の<ラクーン王国>と<キルシュ連合国>の間でついに戦争が始まりそうだという事。
 我がグーテベルク王国も戦争に巻き込まれそうなので、戦争を回避するために使者を送るという事。
 両国の間にある獣人の国からの避難民を受け入れる為の施設の建設を進める事などだ。


「ラクーン王国はヴィルヘルム様のところのお嬢様が嫁いでいるし、割と穏やかな国なんですけれど連合国側がですね・・・
「これでラクーンとの戦いが回避できてもいずれは我が国に矛先が向くでしょう。」
「いっそラクーンと組んで連合国を滅ぼしてしまえば良いのでは?」
「それならば連合国とも不可侵条約を結ぶべきです。」


 話し合いの結果、使者には俺と父王の兄のヴィルヘルム公爵が選ばれたそうだ。
 ヴィルヘルム様は当然、娘の嫁いでいるラクーンへ向かうので、厄介な連合国へは俺が向かう事になった。
 俺は「一人で交渉するなんて無理!」と言ったら、レナトスが一緒に来て主だった交渉はしてくれるそうだ。嬉しい!
「いやいや、遊びに行くんじゃないんですから。」
 エミルから窘められたが、少しくらい楽しい事を想像しても良いじゃないか。
 いくらお飾りの使者でも、レナトスがいても、こんな大仕事は俺には荷が重すぎる。

「それでは出かけるまでに、連合国の歴史を簡単に勉強してから行きましょう。」
 会議が終わるとレナトスが来て、俺、エミル、ベルンハルトと同行する者たちと少し勉強会を開くと伝えてきた。

 行き先のキルシュ連合国は、元はキルシュ王国と呼ばれていた。
 前の代まではこの国と同じ王族が支配する王国だったのだけれど、二年ほど前に平民出身の者が民衆を纏め上げ悪政を施いていた王族を滅ぼし、その者が国主となって貴族制を廃したそうだ。
 今はその者が国主となって貴族制を廃し、民衆が蜂起した国や、君主が殆ど働いていなかった周りの国と一緒になり、連合国と名乗っている。


 ・・・俺はその国主となった男を知っていた。
 彼はルーカス・バウム 28歳。ゲームの攻略対象だ。
 交渉の為にお忍びでこの国へ来ていたルーカスは、街で偶然出会ったキャロルに一目ぼれし、口説きまくって最終的にキルシュへ連れ帰るという流れだったはずだ。

「だから余り貴族然とした第2王子やヴィルヘルム様より、アルフォンス様の方が適任かと思いました。」
「そうかも。」
 今は王子アルフォンスだけれど、平民だった頃の事はちゃんと覚えているから、他の貴族に比べたら威張って見えないのかもしれない。
 それに第三王子の俺の周りは人員が足りなかった事もあり、エミルやベルンハルトの様に平民や下級貴族であっても優秀ならば出自を問わずに取り立てている。
 荷が重いと思ったけれど、最後にはこれは俺にしか出来ないんじゃないか、と思い始めた。




 キルシュ連合国とグーテベルクは直接国が隣あっている訳ではない。
 ルートは国内を横切って船で海を渡るか、獣人の国を横断するか、遠回りしてラクーンから行くかのどれかだ。。

 でも今はラクーンと連合国間の国境が封鎖されているので、一番安全なラクーンから行くルートは通れない。
 獣人の国を横断するのが一番早いが、各部族に別れていて部族間の交流が少なく、殆どがジャングルで覆われた国なので通過するのが難しい。
 そういう訳で港まで陸を5日間、そこから連合国の港まで海上を3日間という、船で行くコースを取る事になった。
 直ぐにキルシュへ先触れを出し、港へ指示を出して船を整備してもらう事になった。




 数日後、俺は馬車の中にいた。 
 俺はキルシュへ向かう間、馬車の中でも連合国のマナーや知識、偉い人の名前を覚えたりと、しなければいけない事が結構あった。
 用意などは周りに任せて、座って書類に目を通しているだけなのに毎日へとへとだ。
 時々レナトスが一緒に馬車に乗ってくれるのだけが今の俺の癒し。


 3日後、やっと半分と言う所までやって来た。
 いくらギリギリまで削ったとは言え、馬車五台に護衛30人、荷物や贈り物を積んだ荷馬車などもある大所帯、魔物にこそ逢わなかったが、予定が少し遅れていた。

 しかも今日の宿は一般の宿。
 この辺りで一番セキュリティのしっかりした大きい宿を借り切った。
 とはいえ、めったに王族など来ないような場所なので護衛が警戒を強めているし、従業員も緊張していて落ち着かない。
 おかげで、こちらも緊張してしまった。

 でも、ここは温泉が湧くので、大浴場があるのだ。
 夜中にこっそり行って、一人で入る事にした。

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