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年上の偉い人と仲良くなりたい

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 エリーゼの父レナトス・シュミット伯爵は若い頃から天才と呼ばれ、王立の大学のような学問所を18歳で卒業して父王の侍従となった。
 彼は優秀だったので、見習いだった頃から彼が担当した仕事はほとんどが成功している。
 父王や当時の宰相に認められたレナトスは25歳で宰相になり、あまり政治的な才能が無い父王に代わって、様々な仕事を成し遂げた。
 だから父王は彼との絆をさらに強くしたくて、俺と宰相の娘エリーゼを婚約させたらしいのだ。



「アルフォンス王子、シュミット様がいらっしゃいました。」侍女が伝えてくる。
「入ってくれ。」
 数日後、俺はレナトスと会う約束をした。
 公の話し合いでもないので気軽にサロンに呼んでしまったが、国の偉い人にここで会って良かったのか?と挙動不審になっているところへ、彼はエミルに案内されてやって来た。

 俺よりも小柄で細いレナトスは細い銀縁の眼鏡をかけていた。
 顔や雰囲気はエリーゼに良く似ていたが、少しうウェーブのある髪をショートカットにしていて女っぽいと言う訳でもなく、可愛らしい訳でもないのに色気がある。
 36歳という年齢よりは若く見えるが、相応の落ち着いた佇まい。
 光で溢れたサロンの中で、薄い水色の文官服を着た彼は神々しかった。

 ゲームでは全く出てこなかったけれど、エリーゼを見ていたら、『きっと厳しい親だったんたろうな』と言う印象だったのに。
 ・・・男なのにめっちゃ俺の好み。

 近づいて来てからもっと良く見ると、細い銀縁の眼鏡から水色の知的な瞳が覗いている。
 疲れているのか、目の下の皮膚の薄い部分にはうっすらと隈があった。

 いつまでも呆けていたらしい俺は、エミルに声を掛けられて我に返り、素早くアルフォンスの記憶を探ってみた。
 でも残念な事にアルフォンスは彼に興味が無かったらしく、大した事は覚えていなかった。
 仕方がないので俺は姿勢を正し、レナトスが美しい所作で挨拶をし、薄い唇で言葉を紡いでいるところを一つも見逃さない様にした。

「この度の娘の無礼をお許し下さるとの事、真に有り難うございます。」
 侍女がお茶を用意してくれて、忙しいレナトスとつかの間のお茶会を始めた。
「いいえ、俺はエリーゼに迷惑を掛けられたとは思っていませんから。
 そもそも婚約破棄になったのは俺のせいなんです。
 もっとエリーゼを大切にしていれば良かったのに。
 だから、気にしないで下さい。
 エリーゼにはどうか幸せになって欲しいのです。」
 俺は緊張で震える手を隠して、上手く受け答えできているだろうか。
 まぁ、エリーゼに幸せになって欲しいのは本音だし。
「・・・貴方は随分とお優しい方なのですね。
 しかし、それでは私の気が収まりません。
 出来る事なら何でも致しますので、何なりとお申し付けください。」
 何でもか。これはお近付きになるチャンスかな?

「それなら、レナトスに色々な仕事を教えてもらいたいです。
 いずれ俺も兄の補佐になるのだから、そろそろ仕事について詳しくなっておいても良いと思うのです。」
 そう提案すると、二つ返事で了承された。
 この時は我ながら良い考えだと思ったんだ。





 俺の考えは甘かった・・・
 宰相の仕事と言うのは、実に多岐に渡っている。
 日本だったら、大臣の仕事を全部一人でやっている感じ。
 教えてもらおうにも、レナトスになかなか時間を取ってもらえなかった。

 そこで俺は日本の行政機関を参考に、宰相の下に専門の部署を設ける事を提案してみた。
 この王国グーテベルグはそんなに規模が大きくないので直ぐに話が通り、レナトスが主体になって試してくれた。
 結果、上手く行きそうだったので、軌道に乗せてみると報告があった。
 大変なのは最初だけ。
 暫くすると宰相や騎士団長仕事まで各所に分けられて、大分少なくなってきたそうだ。
 どんだけ過剰労働してたの?

「細分化された事で有能な者には階級に拘らず役職を与えて取り立て、細かいところまで目が届くようになり、遊んでいる貴族が大分減ったそうです。」
 側近のエミルがお茶を飲んでいる俺に報告してきた。
 平民出身のエミルはこの結果に大変満足しているそうだ。

「シュミット様も最近はお休みが取れるようになったそうで、アルフォンス様にお礼されたいと申しておりましたよ。」
「そうか。たまにはレナトスと話がしたいな。」
 会いたいと思っているのにタイミングが合わす、レナトスとゆっくりと会うことはなかなか叶わないのだ。
「アルフォンス様、今度僕ともにお話の時間を設けてくださいね。」
 エミルが中性的な可愛らしい顔をこちらに向けてにっこり微笑んだ。
 こちらの世界の人は皆、顔が良い。
 乙女ゲームの強制力なのか?
 俺の周りだけなのか?

「僕はアルフォンス様に僕の事をもっと良く知って欲しいです。」
 エミルは一つに結った長い亜麻色の髪を握り、紫色の瞳を揺らし、上目遣いで俺を見た。
 小動物みたいで可愛いが、相手はエミルだしな。
 こいつは中々腹黒いから気を付けないと。
「よし!それじゃあ、この後の筋トレに付き合ってもらおうかな。
 筋トレしながら話をしよう。」
「え~、まだそんな事してるんですか?」
「止める気ないし。」
「そんなぁ。男らしいアルフォンス様は可愛くないです!
 僕はやっぱり天使の愛らしさを残しつつ大人の余裕を持ちその神々しい眼差しが皆に安らぎと平和をもたらす清らかな心の持ち主という光属性イメージに見合う姿に相反する高慢な心を隠し持つそんなあなたを僕は心から愛しているのです!」

「?」
 鼻息荒く、一気に話し終えたエミルを凝視する。
 こいつの言う事は、時々良くわからない。
 大体アルフォンスはどうだかしらないけれど、俺は高慢じゃない。と思いたいし。
 アルフォンスの記憶と俺の考えが一致しない事が多く、一年経つというのになかなか馴染んでいない。
 もう、アルフォンスとか蓮とか考えないで、自分の考えに素直になっていいかな。
 まあ、エミルはもっと鍛えた方が良いので、筋トレは強制参加だが。



 城の騎士団の訓練場の端っこに場所を借りて、エミルを相手にトレーニングをしているとベルンハルトがやってきた。
「おう、エミルは大丈夫なのか?」
 エミルはすぐにへばってしまい、今は塀にもたれて水を飲んでいる。
「もう・・・帰ります。」
「まだ何も話してないぞ。」
「無理・・・」
 エミルはベルンハルトと交代すると、屋内へ戻ってしまった。

 その後、約束どおりベルンハルトに剣の使い方を習って部屋へ戻ると、元気になったエミルが嬉々として俺の服を選んでいた。
 ・・・お前元気じゃん、筋トレが嫌なだけだったのか。
 そう思ったが、俺も嫌な事からは逃げ出したいタイプなので、そこはグッと堪えてエミルと侍女に着替えを手伝ってもらい、夕食へと向かった。


 になってからは、なるべく家族と過ごすようにしている。
 ゲームのアルフォンスは家族との折り合いが悪く、自分の話を良く聞いてくれる優しい主人公キャロルにのめり込んで行ったのだ。
 キャロルはあの王宮騎士ではなくて、一途で真面目な幼馴染と結婚したので、もう俺に絡んでくる事はないと思うが、ずっと家族と仲が悪いままじゃ辛いので、たまには家族と会えるように取り計らってもらっている。

 今日は皆で夕食を一緒にと言う事で、祖父、父王、第一王妃、その子供の双子の第一王子、第二王子と王女、第二王妃である俺の母、俺、俺の弟の第四王子、祖父である前王そして第一王子の妻、息子が勢揃いした。

 俺は先日行われた自分の19歳の誕生日パーティで、これからは兄の補佐をする事、王位は継がない事を宣言したので、最近は俺を目の敵にしていた第一王妃からの当たりも少なくなって過ごし易くなった。
 兄たちと姉も前より仲良くしてくれるし、父や祖父も政治について積極的に教えくれるようになったので、俺の宣言は良い方向へ向かったようだ。
 後は結婚相手か。
 今日も食後に皆から良いと思った人物を紹介された。
 俺は適当に相槌を打って、肖像画を受け取った。



 ところで最近気付いたのだが、この世界は女性が圧倒的に少ない。
 だから一人の娘に大勢の男が群がると言うハーレム展開も普通なのか。
 そう言う訳で、男性同士で結婚などというのも普通にあるらしい。
 現にお見合い相手に男が混じっている事も少なくない。

 BLか?このゲームは乙女ゲームではなくてBLだったのか?
 それならベルンハルトやエミルの俺に対する態度もそういう事なのか?
 もう何に対して気を付ければ良いのか判らなくなった俺は、早々にその事に関しての考えを放棄する事にした。

 とりあえず、自室の戸締りはしっかりしよう。


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