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久しぶりに全員集合

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『地球外生命体は存在する。既に地球に居住している』

 
 その発表は世界中を駆け抜けた。
 
 
 時間ぴったりに始まった会見には、国際事務局の代表者とシアーズ博士、それにシャーリーと同じエリス星から来た人と、ファム星人と言うとても背の高い人が一緒に並んでメディアの質問に答えていた。
 そして今回公表へ至った経緯、既に彼らが人間社会に溶け込んで暮らしている事、それによる功績や現在の状況などを説明する。
 もちろん、先日のクランカ星人のゴタゴタについても、人間側が理解しやすいように整理して、詳しく説明していた。
 それを受けて、これから彼らがどういった手続きを経て地球へ入るのか、不法侵入や未知の技術を軍事利用した場合の罰則についても発表した。
 最後に質問時間を設けて、彼らはできるだけたくさんの質問に答えていた。
 そして、近々地球人も『訪問者』のように宇宙へ往き来できるようになる事、これからはもっとたくさんの『訪問者』がやって来るだろう事、自分たちは人間と彼らが仲良くできるように支援し続けると締めたのだ。
 
 それを聞いて、誰もが今、この瞬間から世界が変わったと思っただろう。

 特に、ファム星人は人間と婚姻関係あると聞いて、これからは隣人が『訪問者』なんて事もあるのだろうと、アナウンサーや解説員も驚きつつ話していた。
 星來たちにしてみれば、既に当たり前の事だが。
 
 会見後に海外の一部では混乱したそうだが、日本では割と好意的に受け入れられていた。
 
 
 *******


「学校でもみんな『訪問者』の話ばっかり!」
 帰って来た考紀は開口一番そう言った。
 
 今度の事は、数日経っても話題から消える事は無く、子供たちの話の中心もそればっかりらしい。
 今日の1時間目のホームルームは、修学旅行のまとめをするはずだったのにお喋りばかりで全然進まなかった、宿題が増えた、と考紀は言っていた。
 
 考紀は、友達に話題を振られれば何となく合わせるが、『訪問者』の事を面白可笑しく話すのは許せないそうだ。
 しかしその件を自分から話す事は禁止されているので、反論もできず我慢したのだろう。
 昨日は学校であまり元気がなかったらしく、担任の加納から何かあったのではないかと連絡が来たほどだった。
 因みに、ここ数日当たり前のように星來の所へ帰って来る楓にも学校ではどうだったのかと聞いてみたら、「僕は全部無視してたから平気」と言っていた。
 強い。

 そもそも楓と言う子は、気の合わない子とわざわざ話すなんて事はしないそうだ。
 今は考紀が一番らしく、一緒の中学校へ行きたいから中学受験はしないと聞いた時は「本当にそれで良いのか、よーく考えて」と、星來は何度も聞いてしまった。
 答えは「よく考えました」で、彬もそれで構わないと言っていたが、星來は今でも気にしている。


 それにしてもテレビも、ネットも全部『訪問者』の事ばかり。
 同じことの繰り返しに、街頭インタビューとか憶測でちっとも面白くない。
 たまに「私が『訪問者』です」とか言って配信している人がいるが、あれは全部偽物だ。
 そう言うのも考紀的には面白くないらしく、ここのところゲームばかりしていた。
 
 でも、今日は久しぶりに彬と竜弥が帰って来る。
 その時に新しい情報を聞かせてもらえれば考紀も気が晴れるんじゃないかと思う。
 別に『訪問者』の事に興味が無い訳ではなく、本当の事が知りたいと、考紀も、楓も言っていた。
 
 星來も、彬や竜弥の話はぜひ聞きたい。
 『訪問者』の事でなくても何でも構わないのだ、モヤモヤが晴れれば。
 
 そう言う訳で、男ばかり6人も集まれば作り置きも無くなるだろうと、星來は早いうちから夕食を作り始めた。


 *******


「こんばんはー! 星來、久しぶりだなぁ!」
 一番最初に現れたのは竜弥だ。
 彼は星來にハグすると、せっかく隣に引っ越して来たのに、まだ数日しか家に居た事がないと嘆く。
 
 暫くすると、彬とリヒトがやってきた。
「楓をずっと預かって頂いて申し訳ありませんでした」
 開口一番、彬は星來に頭を下げた。
 このやり取りは毎回だなぁ、と星來は思う。
 しかし、今回は楓が「絶対に星來の家の子供になる」と言ったので、彬は大きな身体を縮めて悲しんでいた。
 
 彬は外国製のお菓子をいくつか持って来てくれていて、どうしたのか聞くと「国際事務局の人から」だと言う事だった。
 日本にも数人が来て、政府に対応の指導をしているのだそうだ。
 その人たちが差し入れてくれたものを持って帰って来たらしい。
 リヒトは変わらずデザートを差し入れてくれて、今日は栗のケーキ1ホールだった。
 
 
 夕食は、先日ひき肉が安かったのと、畑のニラが伸びていたので餃子をたくさん作ったのだが見立てが甘かった。
 子供二人が思ったより食べ、何故かリヒトが負けないように競って食べていたからだ。
 唖然としていると、竜弥があるもので手早くおかずを作ってくれたので助かった。
 作り置きも、もう殆ど無い。


「星來~、俺頑張ったんだぜ。褒めてくれよ~」
 食後にケーキを切り分けていると、恥ずかしげもなく竜弥がやって来た。
 子供たちの視線も痛くないらしい。
 皿に乗せたケーキを皆に配ったら褒めてあげる、と言ったら、素直に言う事を聞いたので、星來は犬みたいだなと思った。

「学校では『訪問者』の事で話しが持ちきりらしいですよ」
 ケーキをつつきながら、星來がそう言うと「やっぱり」と彬が言った。
「こちらは変わりありませんか?」
「全く。でも、『訪問者』が住んでいるのを知らない住人に説明した方が良いですかね」
 星來は、以前からの懸念を相談してみる。
 隣に座る竜弥が異常に近いので、手で制しながら。
 リヒトの方を見たら、困った顔でこちらを見ていた。

「いや、その時が来たらで良いでしょう。下手に情報を広めると皆落ち着いて暮らせなくなるでしょうし、外部に知られてしまう可能性もある」
「そうですね」
「私も、暫くは毎日帰って来られるので、その時々に一緒に対応しましょう」
 そう言ってもらえると、星來は安心だ。
 しかし、その分は竜弥が彬の仕事を継ぐらしく「星來に会えなくなる……」と悲しそうに寄りかかってくる。
 そんな竜弥へ、星來は頑張ってとしか言えなかった。
 
 食後は、子供たちの質問タイムだった。
 他の人にペラペラ喋らないと言う約束で、彬からこの間の会見の裏側を少しだけ教えてもらう。
 新しい情報は特になかったが、それはそれで『訪問者』が平穏に暮らせている事なのだと、星來も一緒に納得した。
 そして、彬からそのうちシアーズ博士と話せるように頼んでみようと言われた考紀と楓は目をキラキラさせていた。
 
 考紀は変わった。
 昔の、あまり人を信用していなかった頃から知っている身としては嬉しい変化であると、星來はちょっと涙ぐんでしまった。

 
「じゃあ、明日な」
「ごちそうさまでした」
「今日も美味しかったです」
「考紀、また明日ね」

 明日は平日と言う事もあって、4人は早々に部屋へ戻って行った。
 楓は紀と暮らすと言ってまだ彬を困らせていたのだが、星來が作り置きの残りを全部持たせて「明日もおいで」と言って何とか諦めさせた。
 だから、気が変わらないうちに帰してしまおうと言うのもある。
 名残惜しそうに去って行く楓の姿を階段を降りきるまで見送って、星來と考紀は部屋へ入った。

 
 ……が、数分後、竜弥が腕に虎之助を抱えて戻って来た。

 
 
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