Hope Man

如月 睦月

文字の大きさ
上 下
64 / 72
中学校編

冬休みの地獄と悪魔

しおりを挟む
球技大会の翌日から、また始まった。

いつもの『無視』だ。

さらにそれはあからさまで『三浦のせいで負けた』

『あいつさえゴールを決めたらな』『あいつさえいなければ』

三浦とすれ違いざまに言う者、三浦を睨み付けながら言う者、それは様々だったが一貫しているのは「球技大会で負けたのは三浦のせい」と言う、三浦への怒りの感情だった。



三浦は日々口数が減り、声も小さくなり、元気がなくなって行った。クズ組の中本と藤枝、そして龍一はいつも三浦を気にかけ、側から離れないようにつるんだ。殴られたり蹴られたりはしないので、クズ組がケアするだけで何とか三浦の精神状態は保たれていたように思えた。



だが数日後、担任の教師から『突然だが三浦は転校することになった』と聞かされる。驚いたクズ組は放課後に三浦の家を訪ねるが、既に引っ越した後だった。龍一がクズ組の心中を代表するように口を開いた。



『シロ…救えなかったな』



三人は誰も居なくなった空き家の前で暫く呆然とした。



------------------------------------------------------



三浦が転校した事でクズ組の交流もすっかりなくなってしまい、クラスの中では龍一はまた1人になってしまう。しかし唯一の救いは吉田だった。彼だけは定期的に龍一のクラスに来ては、いつものように『あははあはは』と笑うのだった。



言い方は悪いが、やっと龍一は勉強に集中できる精神状態となり、得意の深夜の勉強を開始した。ほとんど勉強を中断していたので、また一から復習を始めた。



時は過ぎ、雪がちらつき、冬休みとなった。



------------------------------------------------------



中学3年の冬休みと言えば、受験への追い込みでしかないと言っても過言ではない。さすがの龍一も毎日勉強をしていたが、12月24日はクリスマスイブ、12月25日はクリスマス、12月31日は大晦日、1月1日は元旦と、数々のイベントが龍一の邪魔をしてくる。それでなくてもやたらと親族や父親の会社の仲間が集まる家だと言うのに、こうなると入れ代わり立ち代わり毎日のように人が来る。



龍一にとっての地獄の始まりである。



父親の事も、母親の事も理解しておらず、ただただめんどくさい、ウザいとしか思っていない龍一にはなぜ人が集まるかをわかっていなかった。人が来るとお金使って普段家では出ないような食事を出し、飲まないのに人の為だけに高いお酒を買って、めちゃくちゃに荒れた帰宅後の後片付けをする、それを繰り返し、今月も苦しいと言っては朝、昼、晩の食事は納豆になる。正直バカじゃねぇの?と思っていた、この日は無理だと言い続ければやがて人は来なくなるから面倒な接待もしなくていいのに…と言う考えしかなかったのだ。



ヘッドフォンで歌を聞きながら勉強するが、デリカシーのない親族ばかりなので、ノックも無しに龍一の部屋に入り込む。『なんか映画観せてくれ龍!』そう言っては龍一の部屋で酒を飲み、映画が終わるまで居座ったりもする。



『クソっ!何なんだよ』



イライラして勉強どころではなく、結局連日、親戚ラッシュが終わる深夜に勉強するしかなかったのだった。クリスマスイブと言ってもケーキもなく、クリスマスと言ってもケーキはない、親戚に料理を振舞うからケーキを買うお金が無いのだ、龍一にはそれも腹正しかった、クリスマスと言えばケーキ、普段ケーキなんか食べられないのでクリスマスのケーキは本当に楽しみだったのに親族のせいで食べられない、腹が立って腹が立って仕方がない『なんでクリスマスに納豆なんだ!』と叫びたいところだったが、少しばかり心が成長した龍一はグッと堪えて納豆に卵を落とし、ちょっとだけ豪華にしてクリスマス納豆を楽しんだ。



当然ながら夜は親族が来るので良い食事になるのだが、親族の『彼女は出来たのか?』『どこの高校に行くんだ?』『将来何やる気でいるんだ?』というクソみたいな質問責めにあうのがうんざりだった、適当に答えたとしても『彼女の1人くらい作らないと!』『勉強してんのか?あそこ行ったって何にもならないだろう』『そんな仕事で食っていけるわけないだろう』という次のお決まりの台詞が用意されている、この一連の流れに付き合うのが本当に嫌だった龍一は『お腹空いていない』と言って夜食の席を拒否し、ヘッドフォンをして勉強を始めるが、お腹はグーグー鳴っていた。



クリスマスプレゼントなどあるわけもなく、期待などしていなかったが、気前のいい叔父さんが来ると、龍一に『好きなモノ買え』と言って5.000円をくれる、中学3年生に5.000円は大金だ、欲しいものを買ってくれるより、現金でもらう方がよっぽど嬉しい気持ちではあった。



そして大晦日がやってくると、悪魔の兄弟たちがやってくる、28日くらいからやってきて、正月をまたいで3日くらいまでロングランで龍一を苦しめる。だが、お年玉をくれるからそこは楽しみな龍一でもあった。案の定12月28日に四男の弥生 潤一(やよい じゅんいち)と五男の弥生 昂一(やよい こういち)が現れた。寝泊りは上の階の姉の家だが、退屈なもので龍一の部屋に朝から夜まで居座っては映画を観たりゲームをして過ごすのだからたまったものではない。龍一も付き合わされるが、龍一の強さに両兄が敵わず、勝つまでやるぞ!と熱くなる。わざと負けると『わざとだろ』とキレる、本物の輩だからどうにもならない。



勉強しなくてはならないのに環境がそうさせない、龍一の精神は追い込まれて行き、吉田の家で勉強しようと目論むが『年末年始はどこの家も忙しいんだからやめろ』と怒られる。いや実際問題そうだろうか、相手に確認をし、吉田自身に問題が無ければ数時間一緒に勉強するのは可能ではないだろうかとも思ったが、年末に人の家に行くのもなぁ…とも感じる龍一だった。



勉強したいと申し出ている龍一の心中を察することなく、まるで監禁した龍一の脱出を阻止したかのように悪魔の両兄たちは『龍!ゲーム付き合え!』と言っては数時間ぶっ通しで龍一に戦いを挑むのだった。



中学3年と言う若さでも、毎日数時間のゲームと深夜から朝までの勉強を繰り返していると目もかすみ、意識も朦朧としてくるわけで、12月30日の夜は勉強が出来ずに倒れるように眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

笛智荘の仲間たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
 田舎から都会に出てきた美優が不動産屋に紹介されてやってきたのは、通称「日本の九竜城」と呼ばれる怪しい雰囲気が漂うアパート笛智荘(ふえちそう)だった。そんな変なアパートに住む住民もまた不思議な人たちばかりだった。おかしな住民による非日常的な日常が今始まる!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冥合奇譚

月島 成生
キャラ文芸
祖父宅への引っ越しを機に、女子高生、胡桃は悪夢を見るようになった。 ただの夢のはず。なのに異変は、現実にも起こり始める。 途切れる記憶、自分ではありえない能力、傷―― そんな中、「彼」が現れた。 「おれはこいつの前世だ」 彼は、彼女の顔でそう言った……

9(ノナ)! TACTIC部!!

k_i
キャラ文芸
マナシキ学園。世界と世界ならざるところとの狭間に立つこの学園には、特殊な技能を持つ少女達が集められてくる。 その中でも《TACTIC部(タクティック部)》と呼ばれる戦闘に特化した少女たちの集う部。世界ならざるところから現世に具現化しようと溢れてくる、名付け得ぬもの達を撃退する彼女らに与えられる使命である。多感なリビドーを秘めたこの年代の少女の中でも選ばれた者だけがこの使命に立ち向かうことができる。 ……彼女達を、その独自の戦術方式から《9芒星(ノナグラム)の少女達》と呼ぶ―― * 過去、ゲームの企画として考えていた作品です。小説形式とは違いゲームシナリオの形式になります。実際にはバトルパート用に考えていた会話(第1話等)もあるため、その辺は実際のゲーム画面やシステム抜きだと少々わかりにくいかもしれません(ある程度・最小限の補足を加えています)。

【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき
キャラ文芸
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子? 『おれは、この学園で青春する!』 新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。 騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。 桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。

イクジナシ

ももちよろづ
キャラ文芸
一人の赤ちゃんを巡る、大人達の、ドタバタ・コメディー。 ※本文中イラストの無断転載は禁止

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...