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中学校編
吉田の覚悟
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吉田の家に遊びに行くことになった、今日の放課後だ。
あれから授業終わりの休憩時間の度に吉田と廊下で話すようになった龍一。待ち合わせているわけでもなく、教室で群れている奴らを見ているのが嫌だったから廊下にでるのが龍一なのだが、そこに吉田がやってきて隣に座るのだ。
クズグループは相変わらず龍一と話したそうにしているが、龍一が言った『関わらないほうが良い』を奥歯を噛みしめて守っているのだった。しかし矛盾点もある、そう、今の状況である。自分に関わると迷惑がかかるからと言っておきながら最近は吉田とずっとつるんでいる事だった。龍一本人もそれはわかっていた、なのでこの状況を打破するために話をしたかったのだ、クズたちと同じように自分に関わるなと。
だから今日、吉田の家に遊びに行くことにしたのだ。とても気のいい男なので失うことになるのはためらったけれど、彼に迷惑がかかるのはそれ以上に許せなかった。
放課後、一度家に帰って自転車で吉田の家に向かった。
場所は聞いており、地図も描いてもらった、方向音痴は二段構えなのだ。
同じ中学校なので、そんなに恐ろしく遠いわけもなく、でも立ち入った事がない街なのでゆっくりと見知らぬ土地を旅するようにペダルを回した。
地図通りの場所に吉田と書かれた表札の家があった。
イラストクラブに入るだけあって簡単に書いた地図は的確だった。
見上げるほどの大きな家、金持ちが建てるようなそれとは違い、素朴感を感じた。言い方を変えれば暖かい、センスと言う言葉では片付けられない、和風なのに洗練された、それでいて古臭くない、それが中学生の龍一でも感じられるたたずまい。
呼び鈴を押すと、聞きなれたピンポンの音色ではなく、和音で構成されたカンコンと音が鳴った、こんな優しい呼び鈴は聞いたことが無い。玄関の木の壁に埋め込まれ、木と同化したように作られた呼び鈴から声がした『桜坂?入って!今行くから、わっはっはっは』『あいつ家でもわらってんだな』そう呟くと吉田が扉を開けて顔を出した。『上がって上がってははは』
玄関はとても大きく、それぞれの部屋の扉が見えるが、その廊下と呼んでいいのかわからないスペースは、部屋として使える程大きかった。全てが明るい木目を生かした木材で出来ており、腰壁だけは焼いたような黒い木材で出来ていた、天窓から注ぐお日様の光がそのツートンカラーの木材の色のメリハリを調和させ、暖かみを眼で感じある事が出来た。例えるなら深い森の木々の隙間から日の光が差し込んでいる森の一部のように。
『こっちこっち!はっはっはっは』
明るいオーク系の木材で、向こう側が見える、つまり踏板があるが、蹴り込み板が無い作りだ、丸見えの蹴上げ部分から階段を上りながら向こう側が見えるのは、空を歩いているようで心地よかった。階段を上がりきると踊り場があった、そこにも天窓から光が降り注ぎ、製図を描く仕事場が浮かぶように置かれていた。踊り場が仕事場と言う空間、龍一の中に『いいなぁ』と言う感覚が芽生えた。
『吉田、これって』
製図を描く仕事場を指さして龍一が問う。
『親父が建築士なんだよ、この家も全部自分で設計して建てたって聞いたよ、はっはっはっは、妙にスペースがあって住みにくいんだけどね、寒いし!うわっはっはっはっはっは』
童話に出てくるような丸い窓が付いた木のドアを開けると、壁全てが本で埋め尽くされた本棚に囲まれた大きな部屋が広がった。
『本しかないけど!はっはっはっは』
棚に目をやると、漫画はもちろん、歴史や哲学的なわけのわからない本が窮屈そうに意を寄せ合って息をしていた。
『桜坂さぁ、大友克洋好きじゃない?ははっ』
『え?なんでわかるの?』
『桜坂の絵に影響が出てるよ、あ、マネって事じゃなくてね、きっとマネから入って努力して自分の線にして行ったんだろうなって見てたよ、はは』
『わかるんだ、線に出るんだ…』
『親父も言ってたんだよね、金目当ての気持ちの籠っていない製図は線に力がないからすぐにわかるって。線1本でその人がわかるんだって。だから俺は桜坂に興味があったんだよ、この人の絵はガチもんだって感じたからさ。へへっ』
『そっか、そりゃ俺はちやほやされたくて人気のキャラクター絵を量産したりはしないけどさ、だって俺は描きたいんだもの、ちやほやなんか要らないからさ』
『わかるー・・・ちやほやされたくて描きたくもないものに時間かけることほどあほらしい事はないよね、わははは』
『わははははは』
笑いながら見上げると、額に入った絵が何枚か飾ってあった、それは大友克洋のAKIRAと言う作品の扉絵。
『え!?どうやって手に入れたのこれ』
『それ?俺が描いたの、へったくそで笑うよね、はっはっは』
『いや、すげーじゃん、めっちゃ上手いんだな吉田って』
『そんなことより今回のAKIRA読んだ?はっはっ』
『おー!おー!読んだ読んだ!アツいよね!』
大友克洋について何時間も語った2人、部屋が暗くなる程の時間となっていたようだった。そろそろ帰らなくてはと思うと、言わなくてはならない事を思い出した龍一。
こんなに楽しい時間を過ごしたのは久しぶりで、終わって欲しくない、また語り合いたいと言う気持ちで心がいっぱいだった。だが、自分のその気持ちだけで吉田とつるみ、彼に辛い思いをさせる事は出来ない、身を斬る思いで切り出した。
『なぁ吉田…』
『桜坂!』
吉田が割って入った。
『俺さぁ、桜坂を救いたいんだよ、て言っても何もできないけどさ、まぁなんとかなるからこっち側に来いよ、はっはっは』
『ろくなことにならないよ、吉田もきっと巻き込まれる時が来る、俺のクラスのクズ組だって1人ヤンキーに絡まれて怪我したし、そういう目に会うんだよ俺と居ると!!!!』
『会わないかもしれないじゃん、もう少しだろ卒業まで、大友克洋の話を出来るのは桜坂だけなんだって、頼むよ、友達でいさせてくれよ!俺桜坂の絵が好きなんだよ』
『こんにちは~はっはっは』
吉田の母親が部屋に入って来た。
『すみません今帰って来たもので、靴があったから友達かと思ってね、飲み物も出さないで龍二はホントにもう…はっはっは、まだいいんでしょ?』
『あ、いやもう帰ろうかと』
『もう少しいいじゃない、龍二が友達連れて来るなんて久しぶりでね、あれ?あなた桜坂くん…かしら?』
ほら、俺の悪い評判が耳に入ってるんだ、やっぱりな、友達なんか俺に出来るわけがないんだ、親まで俺を遠ざけるんだから…そう思う龍一に吉田の母親は話しを続けた。
『龍二がいつもあなたの絵が凄いんだって、どんなに不良に叩きのめされて、酷い嫌がらせされても立つんだって、喧嘩でやっつける事もあって凄いんだって言ってるのよ、だから会ってみたかったのよ』
『え?』
『やめろって母ちゃん!はっはっはっは』
『それでね、何もできない自分がカッコ悪いって言っててね、この子喧嘩なんかしたことない、甘ったれのおぼっちゃんだからね~ほんとに、親の顔が見てみたいわ、あ、私か!うわっはははははは』
母親もよく笑う人だった。
『んまぁ母ちゃんの言う通りなんだよ、俺は桜坂の生き様って言ったら大げさだけどさ、少しでも…その…』
『龍二、チカラになってあげなさい、中学校生活で一度くらい男見せな!はっはっはっはっはっは』
『どういうこと…ですか?』
『龍二と友達になってやってくれないかね、この子言ってたのよ、桜坂と友達になるには自分も強くならなきゃだめだって、だから覚悟決めて頼んでるんだよ、どうだろうかね、こいつの気持ち汲んであげてくれないかね、はっはっはっは』
極道みたいな母親だなぁ…そう感じつつ、それでも降りかかるであろう厄介を、吉田にぶつけるわけにはいかないと言う思いがあった。
『正直に言います、私とつるんでると…』
『厄介ごとに巻き込まれる…でしょう?だから龍二は悩んで悩んで覚悟決めたんだよ、あなたにその覚悟を止める権利はないはずよ、そうでしょわっはっはっはっは』
かっこいい事言ってるのにどうしても笑いが止められないようだ。
『桜坂、俺、平気だよ、だからまた来いよ、な?ははは』
『わかったよ…何があっても…恨むなよぉ!』
そう言って吉田の少し出たお腹にパンチを入れると、母親が桜坂のお尻をパン!と叩き、最後に吉田が母親のお尻を蹴ったが、親を蹴るとは何事だと怒り、履いていたスリッパを脱いで吉田の後頭部を思い切りひっぱたいた。
あれから授業終わりの休憩時間の度に吉田と廊下で話すようになった龍一。待ち合わせているわけでもなく、教室で群れている奴らを見ているのが嫌だったから廊下にでるのが龍一なのだが、そこに吉田がやってきて隣に座るのだ。
クズグループは相変わらず龍一と話したそうにしているが、龍一が言った『関わらないほうが良い』を奥歯を噛みしめて守っているのだった。しかし矛盾点もある、そう、今の状況である。自分に関わると迷惑がかかるからと言っておきながら最近は吉田とずっとつるんでいる事だった。龍一本人もそれはわかっていた、なのでこの状況を打破するために話をしたかったのだ、クズたちと同じように自分に関わるなと。
だから今日、吉田の家に遊びに行くことにしたのだ。とても気のいい男なので失うことになるのはためらったけれど、彼に迷惑がかかるのはそれ以上に許せなかった。
放課後、一度家に帰って自転車で吉田の家に向かった。
場所は聞いており、地図も描いてもらった、方向音痴は二段構えなのだ。
同じ中学校なので、そんなに恐ろしく遠いわけもなく、でも立ち入った事がない街なのでゆっくりと見知らぬ土地を旅するようにペダルを回した。
地図通りの場所に吉田と書かれた表札の家があった。
イラストクラブに入るだけあって簡単に書いた地図は的確だった。
見上げるほどの大きな家、金持ちが建てるようなそれとは違い、素朴感を感じた。言い方を変えれば暖かい、センスと言う言葉では片付けられない、和風なのに洗練された、それでいて古臭くない、それが中学生の龍一でも感じられるたたずまい。
呼び鈴を押すと、聞きなれたピンポンの音色ではなく、和音で構成されたカンコンと音が鳴った、こんな優しい呼び鈴は聞いたことが無い。玄関の木の壁に埋め込まれ、木と同化したように作られた呼び鈴から声がした『桜坂?入って!今行くから、わっはっはっは』『あいつ家でもわらってんだな』そう呟くと吉田が扉を開けて顔を出した。『上がって上がってははは』
玄関はとても大きく、それぞれの部屋の扉が見えるが、その廊下と呼んでいいのかわからないスペースは、部屋として使える程大きかった。全てが明るい木目を生かした木材で出来ており、腰壁だけは焼いたような黒い木材で出来ていた、天窓から注ぐお日様の光がそのツートンカラーの木材の色のメリハリを調和させ、暖かみを眼で感じある事が出来た。例えるなら深い森の木々の隙間から日の光が差し込んでいる森の一部のように。
『こっちこっち!はっはっはっは』
明るいオーク系の木材で、向こう側が見える、つまり踏板があるが、蹴り込み板が無い作りだ、丸見えの蹴上げ部分から階段を上りながら向こう側が見えるのは、空を歩いているようで心地よかった。階段を上がりきると踊り場があった、そこにも天窓から光が降り注ぎ、製図を描く仕事場が浮かぶように置かれていた。踊り場が仕事場と言う空間、龍一の中に『いいなぁ』と言う感覚が芽生えた。
『吉田、これって』
製図を描く仕事場を指さして龍一が問う。
『親父が建築士なんだよ、この家も全部自分で設計して建てたって聞いたよ、はっはっはっは、妙にスペースがあって住みにくいんだけどね、寒いし!うわっはっはっはっはっは』
童話に出てくるような丸い窓が付いた木のドアを開けると、壁全てが本で埋め尽くされた本棚に囲まれた大きな部屋が広がった。
『本しかないけど!はっはっはっは』
棚に目をやると、漫画はもちろん、歴史や哲学的なわけのわからない本が窮屈そうに意を寄せ合って息をしていた。
『桜坂さぁ、大友克洋好きじゃない?ははっ』
『え?なんでわかるの?』
『桜坂の絵に影響が出てるよ、あ、マネって事じゃなくてね、きっとマネから入って努力して自分の線にして行ったんだろうなって見てたよ、はは』
『わかるんだ、線に出るんだ…』
『親父も言ってたんだよね、金目当ての気持ちの籠っていない製図は線に力がないからすぐにわかるって。線1本でその人がわかるんだって。だから俺は桜坂に興味があったんだよ、この人の絵はガチもんだって感じたからさ。へへっ』
『そっか、そりゃ俺はちやほやされたくて人気のキャラクター絵を量産したりはしないけどさ、だって俺は描きたいんだもの、ちやほやなんか要らないからさ』
『わかるー・・・ちやほやされたくて描きたくもないものに時間かけることほどあほらしい事はないよね、わははは』
『わははははは』
笑いながら見上げると、額に入った絵が何枚か飾ってあった、それは大友克洋のAKIRAと言う作品の扉絵。
『え!?どうやって手に入れたのこれ』
『それ?俺が描いたの、へったくそで笑うよね、はっはっは』
『いや、すげーじゃん、めっちゃ上手いんだな吉田って』
『そんなことより今回のAKIRA読んだ?はっはっ』
『おー!おー!読んだ読んだ!アツいよね!』
大友克洋について何時間も語った2人、部屋が暗くなる程の時間となっていたようだった。そろそろ帰らなくてはと思うと、言わなくてはならない事を思い出した龍一。
こんなに楽しい時間を過ごしたのは久しぶりで、終わって欲しくない、また語り合いたいと言う気持ちで心がいっぱいだった。だが、自分のその気持ちだけで吉田とつるみ、彼に辛い思いをさせる事は出来ない、身を斬る思いで切り出した。
『なぁ吉田…』
『桜坂!』
吉田が割って入った。
『俺さぁ、桜坂を救いたいんだよ、て言っても何もできないけどさ、まぁなんとかなるからこっち側に来いよ、はっはっは』
『ろくなことにならないよ、吉田もきっと巻き込まれる時が来る、俺のクラスのクズ組だって1人ヤンキーに絡まれて怪我したし、そういう目に会うんだよ俺と居ると!!!!』
『会わないかもしれないじゃん、もう少しだろ卒業まで、大友克洋の話を出来るのは桜坂だけなんだって、頼むよ、友達でいさせてくれよ!俺桜坂の絵が好きなんだよ』
『こんにちは~はっはっは』
吉田の母親が部屋に入って来た。
『すみません今帰って来たもので、靴があったから友達かと思ってね、飲み物も出さないで龍二はホントにもう…はっはっは、まだいいんでしょ?』
『あ、いやもう帰ろうかと』
『もう少しいいじゃない、龍二が友達連れて来るなんて久しぶりでね、あれ?あなた桜坂くん…かしら?』
ほら、俺の悪い評判が耳に入ってるんだ、やっぱりな、友達なんか俺に出来るわけがないんだ、親まで俺を遠ざけるんだから…そう思う龍一に吉田の母親は話しを続けた。
『龍二がいつもあなたの絵が凄いんだって、どんなに不良に叩きのめされて、酷い嫌がらせされても立つんだって、喧嘩でやっつける事もあって凄いんだって言ってるのよ、だから会ってみたかったのよ』
『え?』
『やめろって母ちゃん!はっはっはっは』
『それでね、何もできない自分がカッコ悪いって言っててね、この子喧嘩なんかしたことない、甘ったれのおぼっちゃんだからね~ほんとに、親の顔が見てみたいわ、あ、私か!うわっはははははは』
母親もよく笑う人だった。
『んまぁ母ちゃんの言う通りなんだよ、俺は桜坂の生き様って言ったら大げさだけどさ、少しでも…その…』
『龍二、チカラになってあげなさい、中学校生活で一度くらい男見せな!はっはっはっはっはっは』
『どういうこと…ですか?』
『龍二と友達になってやってくれないかね、この子言ってたのよ、桜坂と友達になるには自分も強くならなきゃだめだって、だから覚悟決めて頼んでるんだよ、どうだろうかね、こいつの気持ち汲んであげてくれないかね、はっはっはっは』
極道みたいな母親だなぁ…そう感じつつ、それでも降りかかるであろう厄介を、吉田にぶつけるわけにはいかないと言う思いがあった。
『正直に言います、私とつるんでると…』
『厄介ごとに巻き込まれる…でしょう?だから龍二は悩んで悩んで覚悟決めたんだよ、あなたにその覚悟を止める権利はないはずよ、そうでしょわっはっはっはっは』
かっこいい事言ってるのにどうしても笑いが止められないようだ。
『桜坂、俺、平気だよ、だからまた来いよ、な?ははは』
『わかったよ…何があっても…恨むなよぉ!』
そう言って吉田の少し出たお腹にパンチを入れると、母親が桜坂のお尻をパン!と叩き、最後に吉田が母親のお尻を蹴ったが、親を蹴るとは何事だと怒り、履いていたスリッパを脱いで吉田の後頭部を思い切りひっぱたいた。
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