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中学校編
試合開始
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『ありがとう!』
『おう!楽しんでこいよ!』
前歯の無いタクシー運転手に見送られ、
龍一、タカヒロ、花田、中村の順で車を降りた。
『お釣りはいいから!』とタカヒロが言う。
『お釣りっておめだぢ!30円でねぇが!ふふ、サキューな!』
ププッ!
クラクションを小気味よく2度連打すると
前歯の無い運転手は去って行った。
降りた場所は市民体育館の真ん前で、
既に長蛇の列が出来ていたのだった。
しかしその列は当日券を買い求める為の列、
龍一達は前売り券を購入しているので、並ぶ必要が無かった、
いや入場の際は勿論並ぶものの席を奪い合う事は無いのだ、
指定されたリングサイドが待ってくれているのだから。
近くにも選手が泊っていると噂されているホテルはあったが、
ここは素直に列に並ぶ、何故なら物販があるからである。
プロレスの巡業でしか買えないグッズが目当てなのだ。
それは当日券だろうと前売り券だろうと関係ない、
買った物の勝ちの戦場だ。だがここでも前売り券の恩恵が効力を発揮する。
それは『指定席』と言う効力だ、
自由席なら席を離れる際に荷物を置いても盗まれる、席を立てば奪われる、
そんな危険を伴っているからである。
つまりトイレに行こうが買物してこようが『指定席』の呪文は解けないのだ。
中に入るとまずはパンフレットの購入をした。
パンフレットにサインをするのを嫌がる選手もいるのだが、
龍一は『サイン入りのパンフレット』に特別感を抱いていたため2冊買った。
1冊は穴が開く程見る為、もう1冊はサインをもらうため。
『桜坂、2冊も買うの?』
『うん、1冊はサインで埋めたいんだよね』
『そっか!俺も買おうかなー』
『お前金ねーだろ!』
『人を貧乏人みたいに言うな!』
『悪かった悪かった』
『はははははは』
花田がそのやり取りに目もくれず、じっと見つめているものがあった。
『どうした花田!』と中村が声をかけた。
『うん、迷ってるんだよ、どっちを買うか…』
『どれとどれ?』
『ブッチャーとハンセン』
『いやハンセンに決まってるだろ!』
『いやいや、ブッチャーの地獄突き大好きなんだよ』
『そこ?????』
『いいからハンセン買えよ!』
中村がハンセンのTシャツを花田の胸に押し付けた。
それぞれが買い物を済ませると、飲み物を買って座席についた。
初めてのプロレス会場、試合が始まる前の雰囲気をきょろきょろして味わう。
ざわざわと言う言葉がぴったりの空気感、
これは本当に緊張感がありワクワクした。
徐々に席が埋まり、満員になって行く、これが更に緊張感を高めてくる。
いよいよ始まる・・・そう考えるとドキドキしてくる。
よく選手が激突する青いフェンスを握りしめると、
横に並んだタカヒロも花田も中村も同じくフェンスを握り、
口を一文字にした…そこで館内にアナウンスが始まった。
座席の移動はダメだとか、試合中の怪我には責任を負わないとか、
注意事項が淡々と説明された。
その最後に『まもなく試合開始です!』と強めに言い放った。
その瞬間会場が一気に沸いた。
『うおおおおおおおおおお!』
『この一体感最高だな!』と満面の笑みの龍一に対し、
タカヒロは『誘って良かった』と心の中で呟いた。
TV放送では1時間番組なので、龍一はTVのように凄い試合が
最初からガンガン来ると思っていたのだが、
実際は名前も知らない若手の試合からだった。
周囲からは『早く終われよ』『なんだよこの試合、誰だよコイツ』
などと愚痴が出ていたが、龍一は違った。
若さゆえの勢いを感じたのだった、
いつもの名のある人気選手の試合とはまた違った、
ガムシャラ感が龍一には突き刺さったのである。
『す…すげぇ…凄くない?ねぇ凄いよね?』
テンションの上がる龍一に対して、
3人は『お、おう!』と声を合わせて頷いたが、
明らかにそれは『愛想おう』だった。
数試合若手の試合が続き、
いよいよ聞いたことがある名前の選手の試合が始まる。
会場が一気に熱を帯びてゆくのを感じた4人も身を前に乗り出した。
身体がぶつかり合う音、しぶきを上げる汗、叩きつけられるマットの音。
とにかく凄まじい迫力にワクワクが止まらなかった。
だが、少しは柔らかいと思っていたマットも
ほとんど板だとわかった龍一はみんなと違う部分で大興奮していた。
その後スタンハンセンやブルーザー・ブロディ、ザ・ファンクス、
アブドーラ・ザ・ブッチャーなどが会場を大いに盛り上げたが、
一番4人がテンション上がったのは
『インドの猛虎 タイガー・ジェット・シン』の登場だった。
ホテルから数百メートル追いかけられ殺されそうになったが、
実はリュックを拾ってサインを入れておいてくれたシンには
今日は特別な思いがあったのだ。4人がシンの登場に大興奮だった。
リング下に隠していたサーベルを取り出して相手選手の眉間を殴って
流血させていると言うのに4人は
『うおおおおおおおおおおおおおお!シーーーン!』
と大声で叫んだ!それに気づいたシンはこちらを見、
口にサーベルを加えてリング下に降りたかと思うと、
いつものように場外をねり歩いた、逃げ惑う観客だったが4人は大興奮。
4人の前に来たシンは立ち止まり、
くわえたサーベルをギューッと曲げて白い歯を見せて笑った。
なんたるサービスか!シンは4人を覚えていたらしく
特別にシンの狂気のスマイルを見せてくれたのだった、
最高としか言い様の無いサプライズ演出に目が潤む程に感動した。
タイガー・ジェット・シンのお陰で最高のプロレスを味わった4人は
興奮冷めやらず、市民体育館を出てからもベンチに座って
暫くその日を振り返り、笑ったり声を上げたりした。
時計を見ると21時を回っていた、焦った4人は慌ててタクシーを止め、
1人1.000円づつ最後に降りる龍一に渡し、
お釣りは翌日4人で分けることにした。
21時30分頃、自宅前でタクシーを降りた龍一は
今日の想い出の1日を全部身体の中に仕舞い込むように
思いっきり深呼吸をして笑い、玄関の扉を開けた。
康平のビンタでこの日は幕を下ろした。
『おう!楽しんでこいよ!』
前歯の無いタクシー運転手に見送られ、
龍一、タカヒロ、花田、中村の順で車を降りた。
『お釣りはいいから!』とタカヒロが言う。
『お釣りっておめだぢ!30円でねぇが!ふふ、サキューな!』
ププッ!
クラクションを小気味よく2度連打すると
前歯の無い運転手は去って行った。
降りた場所は市民体育館の真ん前で、
既に長蛇の列が出来ていたのだった。
しかしその列は当日券を買い求める為の列、
龍一達は前売り券を購入しているので、並ぶ必要が無かった、
いや入場の際は勿論並ぶものの席を奪い合う事は無いのだ、
指定されたリングサイドが待ってくれているのだから。
近くにも選手が泊っていると噂されているホテルはあったが、
ここは素直に列に並ぶ、何故なら物販があるからである。
プロレスの巡業でしか買えないグッズが目当てなのだ。
それは当日券だろうと前売り券だろうと関係ない、
買った物の勝ちの戦場だ。だがここでも前売り券の恩恵が効力を発揮する。
それは『指定席』と言う効力だ、
自由席なら席を離れる際に荷物を置いても盗まれる、席を立てば奪われる、
そんな危険を伴っているからである。
つまりトイレに行こうが買物してこようが『指定席』の呪文は解けないのだ。
中に入るとまずはパンフレットの購入をした。
パンフレットにサインをするのを嫌がる選手もいるのだが、
龍一は『サイン入りのパンフレット』に特別感を抱いていたため2冊買った。
1冊は穴が開く程見る為、もう1冊はサインをもらうため。
『桜坂、2冊も買うの?』
『うん、1冊はサインで埋めたいんだよね』
『そっか!俺も買おうかなー』
『お前金ねーだろ!』
『人を貧乏人みたいに言うな!』
『悪かった悪かった』
『はははははは』
花田がそのやり取りに目もくれず、じっと見つめているものがあった。
『どうした花田!』と中村が声をかけた。
『うん、迷ってるんだよ、どっちを買うか…』
『どれとどれ?』
『ブッチャーとハンセン』
『いやハンセンに決まってるだろ!』
『いやいや、ブッチャーの地獄突き大好きなんだよ』
『そこ?????』
『いいからハンセン買えよ!』
中村がハンセンのTシャツを花田の胸に押し付けた。
それぞれが買い物を済ませると、飲み物を買って座席についた。
初めてのプロレス会場、試合が始まる前の雰囲気をきょろきょろして味わう。
ざわざわと言う言葉がぴったりの空気感、
これは本当に緊張感がありワクワクした。
徐々に席が埋まり、満員になって行く、これが更に緊張感を高めてくる。
いよいよ始まる・・・そう考えるとドキドキしてくる。
よく選手が激突する青いフェンスを握りしめると、
横に並んだタカヒロも花田も中村も同じくフェンスを握り、
口を一文字にした…そこで館内にアナウンスが始まった。
座席の移動はダメだとか、試合中の怪我には責任を負わないとか、
注意事項が淡々と説明された。
その最後に『まもなく試合開始です!』と強めに言い放った。
その瞬間会場が一気に沸いた。
『うおおおおおおおおおお!』
『この一体感最高だな!』と満面の笑みの龍一に対し、
タカヒロは『誘って良かった』と心の中で呟いた。
TV放送では1時間番組なので、龍一はTVのように凄い試合が
最初からガンガン来ると思っていたのだが、
実際は名前も知らない若手の試合からだった。
周囲からは『早く終われよ』『なんだよこの試合、誰だよコイツ』
などと愚痴が出ていたが、龍一は違った。
若さゆえの勢いを感じたのだった、
いつもの名のある人気選手の試合とはまた違った、
ガムシャラ感が龍一には突き刺さったのである。
『す…すげぇ…凄くない?ねぇ凄いよね?』
テンションの上がる龍一に対して、
3人は『お、おう!』と声を合わせて頷いたが、
明らかにそれは『愛想おう』だった。
数試合若手の試合が続き、
いよいよ聞いたことがある名前の選手の試合が始まる。
会場が一気に熱を帯びてゆくのを感じた4人も身を前に乗り出した。
身体がぶつかり合う音、しぶきを上げる汗、叩きつけられるマットの音。
とにかく凄まじい迫力にワクワクが止まらなかった。
だが、少しは柔らかいと思っていたマットも
ほとんど板だとわかった龍一はみんなと違う部分で大興奮していた。
その後スタンハンセンやブルーザー・ブロディ、ザ・ファンクス、
アブドーラ・ザ・ブッチャーなどが会場を大いに盛り上げたが、
一番4人がテンション上がったのは
『インドの猛虎 タイガー・ジェット・シン』の登場だった。
ホテルから数百メートル追いかけられ殺されそうになったが、
実はリュックを拾ってサインを入れておいてくれたシンには
今日は特別な思いがあったのだ。4人がシンの登場に大興奮だった。
リング下に隠していたサーベルを取り出して相手選手の眉間を殴って
流血させていると言うのに4人は
『うおおおおおおおおおおおおおお!シーーーン!』
と大声で叫んだ!それに気づいたシンはこちらを見、
口にサーベルを加えてリング下に降りたかと思うと、
いつものように場外をねり歩いた、逃げ惑う観客だったが4人は大興奮。
4人の前に来たシンは立ち止まり、
くわえたサーベルをギューッと曲げて白い歯を見せて笑った。
なんたるサービスか!シンは4人を覚えていたらしく
特別にシンの狂気のスマイルを見せてくれたのだった、
最高としか言い様の無いサプライズ演出に目が潤む程に感動した。
タイガー・ジェット・シンのお陰で最高のプロレスを味わった4人は
興奮冷めやらず、市民体育館を出てからもベンチに座って
暫くその日を振り返り、笑ったり声を上げたりした。
時計を見ると21時を回っていた、焦った4人は慌ててタクシーを止め、
1人1.000円づつ最後に降りる龍一に渡し、
お釣りは翌日4人で分けることにした。
21時30分頃、自宅前でタクシーを降りた龍一は
今日の想い出の1日を全部身体の中に仕舞い込むように
思いっきり深呼吸をして笑い、玄関の扉を開けた。
康平のビンタでこの日は幕を下ろした。
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